ASHLEY SLATER
ASHLEY SLATER インタビュー136号
ファットボーイ・スリムことノーマン・クックは、現在にいたるまでの過程で、様々なプロジェクトを通過している。そのうちのひとつが、'93年にアシュレイ・スレイターと結成したファンク・バンド、フリーク・パワーだ。2000年のシングル「Turn On, Tune In, Cop Out」はUKシングル・チャート2位を記録、二枚のアルバムも残しているので、御記憶の方も多いことだろう。アシュレイは、そこでボーカルとトロンボーンを担当していた。バンド解散後もファットボーイ・スリムやディミトリ・フロム・パリらの作品にゲスト参加、最近では、JAZZTRONIKが『Inspilation』の為に制作した「Summer On My Mind 」にもフィーチャーされている。
ここで御紹介するアシュレイ・スレイターズ・ビッグラウンジは、そんなアシュレイが'01年に結成したクロスオーバー・バンド。古き良きビッグバンド・ジャズを彷佛とさせる温かなサウンド、セクシーなヴォーカル、唸るホーンが印象的だ。
ファースト・アルバム『Big Lounge』以来、約2年ぶりとなるニューアルバム『Cellophane』を完成させたアシュレイに話を聞いた。
―ニュー・アルバムのリリース、おめでとうございます! 爽やかな日曜の午後が似合う軽快なトラック「Cellophane」から、ソファーでのんびりくつろぎたくなる「Femme Fatale」まで、バラエティー豊かな作品ですね。
「ありがとう。「Cellophane」は図書館のカードを見ていた時に思いついた曲で、2、3時間でできたんだ。「Femme Fatale」は、もともとアンナ・ジャクソンのためにつくったんだけど、彼女はシンガポールの金持ちのところに行ってしまったから、お蔵入りになってしまってね(笑)。それで共同プロデューサーにすすめられて、自分で歌ったんだ」
― 制作はどのように進めたんですか?
「どれも歌詞に音楽をつけていったんだ。どの曲も愛について歌っているよ。例えば「Beautiful Girl」は、公園でブランコに乗って遊んでいる娘を見ていた時に思いついた曲なんだ。誰もが持っている人生の喜びや楽しみ、そして愛について歌っている」
― ファースト・アルバムとの違いについては、どう考えていますか?
「前作はPCで曲をつくり、それをバンドに演奏してもらったんだ。けど、今作ではバンド演奏を初めから念頭において曲づくりを進めた。それは一つの進歩だと思っているよ。あと、前作にはノーマン・クックとやっていたフリーク・パワーの影響が強かったんだけど、今作では自分の中から湧き出た純粋なものを音楽として表現している。自分の音楽性を、より前面に出したんだ」
―フリーク・パワーよりもジャジーなテイストを前面に出した内容ですね。
「フリーク・パワーではレア・グルーヴをやっていたんだけど、自分のバック・グラウンドはジャズやクラシックだからね。ノーマン・クックやフリーク・パワーを通して得た経験は沢山あるけど、その影響はあまり残っていないよ。心の底からつくりたいと思った音楽をまとめたのが今作なんだ。ケミカル・ブラザーズのようなアグレッシヴなダンス・チューンも好きだけど、今作では昔のBlue Noteで聴けるような、暖かくて、心地よい、リラックスできる音楽をつくりたかったんだ」
―ジャズにインスパイアされたトラックは、ハウス、テクノ、ヒップホップなど、幅広いジャンルに存在します。そんななか、あなたの考えるアシュレイ・スレイターズ・ビッグラウンジとしてのジャズ観とは、どのようなものですか?
「優れたジャズ・プレイヤーというのは、コントロールしながら演奏するものだと思っているから、トラックには、ジャズの計算された良い部分のみを活かすようにしているんだ。だから、ジャズ特有のギターやベース、ドラムの長いソロをトラックに反映させることはあまりないな。コアなジャズ・ファンのなかには、この行為はジャズの搾取だと思う人もいるかもしれないね。まあ、音楽には、ジャズに限らず自分が通ってきた様々な要素が現れるよね」
―ドープでジャジーな世界だけでなく、ポップな要素など、さまざまなテイストが今作には上手く共存していますね。
「人間は、スポンジのように様々なものを吸収しながら暮らしている。そんななか、特に僕らクリエイターは、多方面から受けた影響を自分の中で一つに形づけているんだ。自分の人生や経験を音楽のテイストとして表現できるのが、良いミュージシャンなんだよ」
―あなたはボーカリストであると同時に、トロンボーン奏者でもあります。両者の間に表現の違いや、共通性を感じますか?
「一つ言えるのは、歌っている方がずいぶん楽だってこと。トロンボーンは楽器で、演奏するのにトレーニングが必要なんだ。吹きこなせるようになるまで時間がかかるから、トロンボーンを愛する時間より、トロンボーンと格闘している時間の方が多くなる。でも、トロンボーン奏者である自分と、ボーカリストである自分は同じ人間だから、僕から出てくる音楽は同じものだと言えるね。人間性を反映している点では、全く同じなんだ。トロンボーンにしろ歌にしろ、観客を感動させられるという点では一緒だしね。まあ、今はトロンボーンを演奏している時間より歌っている時間の方が多いけど、双方に魅力があるから、どちらが好きとは言い切れないな」
―ところで、昨年8月には名古屋万博の<愛・地球セッション>にて、名古屋芸術大学の弦楽団とコラボレーションしましたね。
「素晴らしい経験だったよ。今までのトップ10に入るぐらい印象的なステージになった。学生達に音楽の道に通じるインスピレーションを与えてあげられたことを嬉しく思っている。彼らはプロではないとは言え、僕にとってオーケストラとセッションするのは初めてのことだったし、お互いにとって良い刺激になったね。ロンドンに帰った後の2週間は、ずっとハイだったよ(笑)。今後も世界中の学生と共演してみたい。実際にスイスのチューリッヒで、また学生と一緒にステージに立つ予定もあるんだ!」
―最後に“ビッグラウンジ”という不思議なバンド名について聞かせてください。なぜ“ビッグバンド”ではないんですか?
「ブライトンの小高い丘に家があるんだけど、天気の良い日の景色は本当に素晴らしいんだ。ラウンジにある窓の外には、広い海が見えるだけ。そこは、高い壁とビルに囲まれた都心での暮らしでは得られない発想が生まれるような場所なんだ。窓の外に広がる壮大な景色を眺めていると、全てが可能なのではないかという想いが湧いてくる。そのラウンジと僕の想い、大らかな人生観を“ビッグラウンジ”という言葉に込めたんだ」
interview & text SOICHIRO NAITO
translation KENGO MAEHARA
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ASHLEY SLATER
Cellophane(JPN) COLUMBIA COCB-53516

