FINK

iLOUD > FINK > FINK インタビュー154号

FINK インタビュー154号

 はてなブックマークに登録

NINJA TUNEから登場した、突然変異のリアル・ソングライター


 2000年にNINJA TUNE傘下のN-TONEから『フレッシュ・プロデュース』をリリースし、もともとはエレクロニカ/ブレイクビーツ系のプロデューサー/DJとして活動していたフィンク。しかし、昨年、彼は突如シンガー・ソングライターに転身。アルバム『ビスケッツ・フォー・ブレックファスト』を発表するや、たちまち評判となり、ロンドンのジャズ・カフェで行われた6夜連続ライブを全日ソールドアウトにするなど、ライブ・アーティストとしての才能を開花させている。
 『ディスタンス・アンド・タイム』は、そんな彼が現在のバンド・メンバー、ティム・ソーントン(Dr)とガイ・ウィタカー(B)と共に完成させた最新作。ラムのアンディ・バーロウにプロデュースを任せた本作で、彼はシンガー・ソングライターとしての立場に専念。誰もが自己投影できる、実体験をベースにしたラブ・ソングや、日常を描いた歌を披露している。そのアコースティックなサウンドは、とてもオーガニックかつ都会的なものだ。
 新作の内容と、シンガー・ソングライターの道を選んだ経緯について、フィンクから話をきいた。


——あなたは、ブレイクビーツ系アーティストからシンガー・ソングライターに転身し、パフォーマンス・スタイルもDJギグからライブに変化させましたね。転機となった前作『ビスケッツ・フォー・ブレックファスト』以降の音楽活動はいかがですか?
「 エレクトロニック・ミュージックをやっていたときにもそれなりの苦労があったけど、ライブで演奏するようになってからは全く違う苦労があるね。でも、全く違ったチャレンジだから、面白いよ。DJギグよりも、もっとパーソナルだと感じている。今、オーディエンスが喜んでくれるのは、オレの声、演奏、曲なんだ。DJでオーディエンスが喜んでくれるのは、珍しいレコードを持っているとか、ミックスが巧いといった理由だろ。若い頃は、それが全てだと思っていたけどね(笑)」

——現在のスタイルで音楽活動を行っていくことに、恐怖心や不安などはありませんでしたか?
「エレクトロニック・ミュージックをやっていた頃も、家でゆっくりくつろぐときにはギターを弾いていたんだけど、それはガールフレンドとか親ぐらいしか知らないことだった。とてもプライベートなことだったんだよ。だから、それを表に出すには、相当の覚悟が必要だったね。個人的な体験を他人とシェアしてもいいのか?って思ったね」

——では、それでもシンガー・ソングライターになろうと決意したのは、何がきっかけだったんですか?
「’01年に、野外で行われたレディオヘッドのフェスティバルに行ったとき、心から“どうやったらあのステージに上がれるんだろう”と思ったんだ。ビッグなバンドになりたいって意味じゃなくて、自分の音楽でステージに立つにはどうしたらいいんだろう、って思ったのさ。で、それにはラップトップじゃ無理だと感じてしまったんだ」

——どうしてですか?
「オレが憧れていたスクエアプッシャーやエイフェックス・ツインの音楽は、あまりにも良すぎたからね。あまりにもたくさんのアイディアが詰まっていたし、恐ろしく複雑だし、習得するだけで2年はかかりそうな曲ばかりだった。オレは怖くなったのさ」

——思いのほか緊迫した話ですね。
「で、ソングライターとしてライブをやっていくことが、ユニークな存在として生き残っていける方法なんじゃないかと思い始めたのさ。あと、昔からどうしてオレはジミ・ヘンドリックス、ジョニ・ミッチェル、ジェームズ・ブラウンが同時に好きなんだろうという疑問を持っていたんだけど、その理由にも気付いたんだ。オレが彼らを好きな理由は、彼らが誰にも真似できない音楽をやっているからなんだ。それで、もっと自分自身を曲に出していけばいいんだと思って、前作を出してライブをやってみたら、本当に素晴らしい結果になったというわけ」

——では、最新作『ディスタンス・アンド・タイム』について教えてください。ライブ活動の中から生まれた曲がほとんどだそうですが、テーマは何でしたか?
「スバリ、“これが、最近僕らが演奏している10曲です”だね。前作は、NINJA TUNEのプロデューサーが一人でつくったアルバムで、ゲスト・ボーカリストがたまたま本人だったというものだけど、今作は一年以上一緒にやってきたライブ・バンドのメンバーとつくったアルバムだ。オレ達は、もうちゃんとしたバンドだよ。パーカッションはティムの専属担当だし、ベースはガイの専属担当さ。だから、制作のときオレは、スタジオに行ってやることやったら帰ってた。最高だったね!」

——“Distance & Time”という言葉には、どのような意味合いを込めているんですか?
「メンバー全員が感じていることなんだけど、ツアーを長く続けて、愛する人から距離(distance)が離れていると、何かをしてあげる時間(time)がなくなるってことさ。多くのカップルにとって問題となるのは、その距離のために一緒に時間を過ごせないときだよね。あとは、“オレ達がここまで来た道のり”という意味もあるよ」

——今作でも、実体験を伴った、恋愛にまつわる歌が多いんですか?
「そうだね。オレは、自分と直接関わりのない体験を題材にして曲を書けないんだ。そういう才能は持ち合わせていない。良い曲ができるのは、良い曲が頭の上を飛んで、それをうまくキャッチできたときさ。つい最近、数人のソングライターと仕事をしたんだけど、彼らはもっとビジネスっぽかったよ。でも、僕はもっと考えるし、深い作業をしていると思う。世の中には怠惰なソングライターがたくさんいるけど、彼らを見ていると腹が立つよ。“desire(欲望)と韻を踏む単語はfire(炎)だから、あとは同じような単語をくっつければいい”って感じの歌がたくさんあるよね。そんな歌を書くなら、韻は踏んでいないけど、“この前キミをバーで見たけど、声をかけられなかった。今夜、僕は一人でバーにいる。そしてまたキミが現れた...”とか書いた方が、ずっとリアリティがあるよ」

——そうですね。
「面白い人生を送っていれば、歌や曲をつくる素材なんていくらでも見つかるのさ。曲にできる興味深い出来事も、たくさん起こるだろう。現代の恋愛関係は、30年前と比べたら全然違うものになっているだろ? オレ達は、とてもユニークな時代に生きているんだ。選択肢がたくさんあって、人類史上初めて男女が社会的圧力なしに自由でいられる時代に生きているんだ。そもそも50年前だったら、オレがこの歳になっても独身で、子供もなく、しかも音楽で生計をたてているなんて、かなりおかしなことだったんじゃないかな(笑)」


interview & text FUMINORI TANIUE
translation ERIKO HASE


HMVで購入↓
FINK
Distance And Time

(JPN) BEAT / BRC-185


FINK インタビュー154号

FINK トピックス一覧