HOPEWELL インタビュー151号
かつてマーキュリー・レヴで活動していたジェイソン・ルッソ率いる、NYインディー・ロック・シーンの実力派バンド。それが、ここでご紹介する五人組バンド、ホープウェルだ。’97年に活動をスタートした彼らのサウンドは、USオルタナ・ロックの系譜を受け継ぐサイケデリックなもの。’01年に発表した『ザ・カーヴド・グラス』は、英NME誌や米CMJ誌で高評価を獲得している。近年も精力的に活動中で、昨年は三作目『ホープウェル&ザ・バーズ・オブ・アペタイト』とEP『ザ・ノットバーズEP』をリリースしている。
そんな彼らが、新作『ビューティフル・ターゲッツ』を発表した。オーケストラが印象的な本作は、よりポップかつポジティヴなムードを打ち出した意欲作。ちなみに、タイトル・トラックの「Beautiful Targets」は、マーキュリー・レヴとのセッションから生まれた話題の一曲だ。
活動開始10年目を迎える彼らのポジティヴィティーは、どこから生まれているのだろう? ジェイソン・ルッソに電話で話を聞いた。なお本作の初回限定日本盤は、『ザ・ノットバーズEP』の日本編集盤を付けた二枚組で発売される。
――前作『ホープウェル&ザ・バーズ・オブ・アペタイト』のプロモーションで昨年9月にインタビューした際は、本作はすでに仕上がっていると話していましたね。いつ頃から制作に取りかかっていたのでしょうか?
「’05年に前作を発表した直後から、新曲はずっと書きためていたんだ。それで昨年の4月くらいにスタジオへ入り、夏に出たツアーの合間にレコーディングを進めていったよ。つまり、今回初めてツアー中に新曲を演奏したんだよね」
――ということは、オーディエンスからの反応がアルバムに生かされているのでしょうか?
「うん、そこなんだよ。これまではスタジオでひたすら作業を進めるだけだったから、自分たちが満足できる内容を制作していた。でも、今回はライヴでの良いエネルギーをスタジオへ持ち帰ることもできた。何千人ものオーディエンスとコラボレーションを果たした感じだよ」
――リード・トラックの「All Angels Road」や「Echo & His Brother」では、ビートの早い楽曲にチャレンジしていますね。前作では見られなかった一面だなと思いました。
「それも、ライヴで新曲を先に披露していたことが一つの理由だと思う。俺たちはライヴだと楽曲のテンポを上げた、激しいロックを演奏するからね。それと、「Echo & His Brother」は、俺と弟のジャスティンがワルだったころ、違法なことをやらかして警察に追われ、逮捕された様子を描いた楽曲だから、どうしても急いだ雰囲気を出す必要があったんだよね」
――どうして逮捕されちゃったんですか...?
「ストリート系の違法なこと...、ドラッグなどに関わっていた時期があったんだよね(苦笑)。前作でも似たような内容を取り上げているよ。危険なことに夢中だった頃のエネルギーは、今じゃすべてホープウェルの音楽へ反映させている(笑)」
――さすがNYC育ちですね(笑)。他に本作のサウンド面では、オーケストラの要素が印象的だったのですが、そこは意識しました?
「昔からザ・ビーチ・ボーイズやザ・ビートルズ、それからロイ・オービソンなどのオーケストラを取り入れた音楽が大好きだったから、彼らのようにドラマティックな音楽を目指したんだ。ストリングス部分の大半は、以前ツアーを一緒にまわったイギリスのバンド、ゴールドラッシュのジョエル・ゴールドが手がけてくれた。イギリス人だけあって、英国産ポップスを彷彿とさせる美しいストリングスに仕上がったね。多くの人がホープウェルを“サイケデリック”なバンドと呼ぶけれど、俺たち自身はむしろ“シネマティック”なバンドだと思っている。それぞれの楽曲には、まるで劇や短編映画のようなストーリーが描かれているからね」
――本作では、「Echo & His Brother」の他にどんなストーリーをイメージしたんですか?
「例えば“長年逃走中だった犯人が、ついに出頭する雰囲気を音で描こう”っていう具合に進めた曲もある。アルバム全体では、木が多くのストーリーで登場する他、風、雨、などの自然現象を音で描いたよ」
――それで本作は木のアートワークなんですね。本作のドラマティックなサウンドは、アーケード・ファイアやザ・ディアーズのような、カナダのインディーロック・バンドともリンクすると思うのですが、どうですか?
「面白い意見だね。アーケード・ファイアのデビュー盤は非常に良い内容だと思ったよ。ザ・ディアーズとは一緒にツアーしたことがあるけれど、音楽性はちょっと異なる気がするな。カナダのインディー・ロック勢はサウンド面で僕らよりドラマティックさがない気がする。もっと大胆になったらいいのにね」
――本作は、ダークなムードの前作と比較すると、アルバム全体を包むポジティヴなヴァイヴが際立っていました。そのムードの変化についてはどう思いますか?
「俺たちは今回のアルバムで、ホープウェルとして生き残ることができた自分たちを祝福しているんだ。前作制作時、ホープウェルは困難な問題を抱えていた。入院したメンバーもいたし、一時期は解散寸前までいったね...。前作は、そんな混沌とした状況をクリエイティヴなエネルギーへと変えて、美しい作品に仕上げることができた。そのあとすぐにツアーへ出たんだけど、ムードが一変したのは、まさにそのツアーの最中だった。ライヴで訪れた先々で、出会った人たちからポジティヴな反応や応援を得たことで、俺たち自身も前進できたんだ。もっとも、サウンド面では明るさを感じさせるかもしれないけど、内容は暗いものも多いよ」
――アルバムの内面は、前作同様ダークなんですか?
「サウンド面ではハッピーなヴァイヴが感じられるかもしれないけど、歌詞面では“喪失”を歌った楽曲が多いんだ。このアルバムの制作中に、僕のプライベート面において、いくつかの別れを経験したから、そのパーソナルな部分が自然と歌詞に表れちゃったんだと思う。9年間付き合った女性が僕の元を去っていき、8年間一緒にホープウェルを続けてきた弟もサイレント・リーグの準備で去ってしまったんだ。アルバムのテーマにもつながるんだけど、人生の美しさは、本作のサウンドと歌詞の関係のように、“喜び”と“悲しみ”の二面性が共存しているところにあると思う。『ビューティフル・ターゲッツ』というタイトルをつけた本作の大半の楽曲では、そんな二面性を持った人間の脆さを語っているのさ。そのテーマをもっともよく表した楽曲が「Beautiful Targets」だったから、既発曲だけどタイトル名にしたんだ」
――「Beautiful Targets」に込めた想いは何なのでしょう?
「「Beautiful Targets」のインスピレーションは、アイルランドへツアーに行ったときに得たんだ。俺たちのライヴを観るためにクラブに集まったファンの大半は地元の労働者階級で、多くの苦しみや悲しみを抱えていたはずだ。そんな苦境にも関わらず、少ない収入から捻出して俺たちのライヴを楽しんでくれた。その姿が実に美しかった。俺は、そんなアイルランドのオーディエンスのように、何もおそれず、自分のもっとも“素”の姿を見せる勇気を持った人々に、人間のもっとも美しい姿を感じるんだ。だからこのアルバムでは、悲しい気持ちに襲われたとき、そこから逃げ出さない大切さをリスナーに伝えたかった。悲しみを体験したあとには、美しい瞬間が訪れるということをわかって欲しかったんだ」
――「Beautiful Targets」は、マーキュリー・レヴとの合作ですね。日本盤にはボーナストラックとして収録される予定なのですが、何か制作時のエピソードはありますか?
「彼らとは旧友なんだけど、僕らがニューヨークでライヴをやったある日、マーキュリー・レヴのメンバーから“(ニューヨーク州の)アップステイトにある僕らのスタジオに遊びに来なよ”と誘われて、睡眠もとらずにライヴ会場からそのまま二時間車を走らせて、山の中にある彼らのスタジオへ行ったんだ。そこで、休むことなく一緒に曲を書き、たった一日でレコーディングを仕上げた曲なんだよ(笑)」
――テンション高い状態で書いた曲なんですね! では、今後の予定を教えて下さい。
「全米ツアーの後、UKツアーだね。実はすでに次のアルバムの制作に取りかかり始めたから、ツアーと平行して新譜制作も進めていく予定なんだ。それから、ある映画のスコアも制作中だよ。M. Sarki というアメリカ人監督が製作したインディペンデント系映画なんだけど、仕上がりがすごく楽しみだよ!」
――面白そうですね。そのスコアもいつか聴けますか?
「『ビューティフル・ターゲッツ』の日本盤(初回生産分)にはボーナス・ディスクの『ザ・ノットバーズEP』が付くんだけど、これに収録された「Silent Interlude」と「Hello Radio Suite」の二曲はそのスコアの一部分になる予定なんだ」
――そうなんですか、チェックしてみます。五月の来日は中止になってしまって残念ですが、いつかツアーで日本にも寄ってくださいね。弟・ジャスティンのバンド、サイレント・リーグとの対バンも見てみたいです。
「一回来日の話が浮上したのに、なぜか中止になっちゃったんだよなぁ(苦笑)。アメリカではサイレント・リーグと対バンしているよ。来月、ホープウェル、サイレント・リーグ、マーキュリー・レヴの3バンドでライヴをやるんだ。俺と弟は以前マーキュリー・レヴのメンバーだったから、面白い組み合わせだよね。早く日本でもライヴを実現させたいよ!」
interview & text TAKAHIRO KAWAMURA
translation KEIKO YUYAMA
HMVで購入↓
HOPEWELL
Beautiful Targets
(JPN) STAR MOLE / STMR12-13


