Incognito インタビュー149号
UKソウル / ジャズ・ファンク界の至宝、インコグニート。これまでに12枚ものオリジナル・アルバムをリリースしている、結成27年の大御所バンドだ。最新作は昨年11月に発表した『Bees+Things+Flowers』。この作品は、新曲のみならず、「Always There」など過去のヒット曲リメイク、さらにはロイ・エアーズ、アース・ウィンド&ファイヤーらの名曲カヴァーまで収録した、“インコグニート史上もっとも美しいアルバム”として、好評を博している。 ここに御紹介する『First Protocol』は、そんなインコグニートのギタリスト2名=リーダーのブルーイとトニー・レミーによるプロジェクト・アルバム。
ここではジャズ / ファンクを進化させた、コズミックなダンス・トラックを聴くことができる。インコグニートのメンバーに加え、デトロイトが生んだ名キーボーディスト、アンプ・フィドラー、UK最強のダンス・ジャム・バンド、ザ・ベイズの面々など、ダンス・ミュージックに精通しているセッション・ミュージシャンたちが参加していることも大きな話題だ。 ダンス・ミュージックにこだわった今作について、ブルーイに話を聞いた。
—今回のプロジェクトは、どんな経緯で始動したんですか?
「昔から僕にとってトニーは憧れのミュージシャンだった。でも、僕らはロンドンの音楽シーンで長いこと活動してきたけど、なかなか一緒に仕事をする機会に恵まれなかったんだ。ところが、1年半前に僕が呼びかけて制作した(インドネシア・スマトラ沖で起きた)地震津波被災者のチャリティー・アルバム『Give And Let Live』にトニーが参加したのを機に、彼がインコグニートにギタリストとして加入してくれることになったんだ。その後彼と話していて、ギターを実験的に取り入れたハウス・ミュージックがないことに気づき、だったら僕らでアルバムをつくろうということになったんだよ」
—ギターにはどんな魅力があると思いますか?
「メロディーとリズムの両方を奏でることができ、活躍の幅が広い点。パーカッシヴに演奏すればドラムの代わりにもなるんだ。僕がリード・ギターじゃなくリズム・ギターに魅かれたのは、そういった音楽制作的な面からなんだよ」
—あなたとトニーの弾くギターには、どんな共通点や違いがあると思いますか?
「二人ともギターに対する考え方が柔軟だという点は共通しているね。違いは、僕がプロデューサーやソングライターの視点からリズム・ギターを演奏していて、トニーはソロイストとしてリード・ギターを弾いているってことかな。とはいえ、トニーはリズム・ギターも上手いんだよ。彼は、演奏能力に限界が一切ない、完璧なギタリストなんだ。なのに、そんな自分のスキルを決して見せびらかすことなく、ギターを素材として楽曲内で上手く活かすよう心得ている」
—今作ではギターをどのように活かそうと心がけましたか?
「ダンス・ミュージックの要素を失わない範囲で、ギターを駆使して、可能な限り実験的な音楽を制作することが大きな課題だった。インスト楽曲は、なぜか数学的なフュージョン系の音になりがちだから、僕らはフュージョンではない、ダンス・ミュージックの魂が宿った音楽を目指したのさ」 —ダンス・ミュージックには、どんなイメージを持っていますか?
「流行やテレビ番組に左右される商業的なポップスとは異なり、ダンス・ミュージックは昔から常に実験的な進化を遂げてきた。今作のルーツもそこにある。思い返せば、インコグニートも常にクラブ・シーンとは密接な関係を築いてきた。僕らはマスターズ・アット・ワークやデヴィッド・モラレスが手がけたリミックスを通して、より多くの人達に知ってもらえたんだ。僕ら最大のヒット曲「Always There」がブレイクしたきっかけも、リミックス・ヴァージョンがもたらしてくれた」
—インコグニートの面々も、今作にスタジオ・ミュージシャンとして参加していますね。このプロジェクトについて、彼らはどんな感想でしたか?
「みんな興奮していたよ! インコグニートでは、ある程度の骨組み、たとえばコード進行を考えてから肉づけをし、大抵の場合は僕から演奏に関する指示が出るんだ。というのも、ヴォーカルを際立たせなきゃいけないこともあるからね。でも、今回はインストだったから、誰もが自由な空気感を楽しんでいたと思う。今作は基本的にジャム・セッションから生みだしたんだ。ザ・ベイズと制作した曲はその典型で、一切何も考えずにスタジオ入りして、即興演奏でつくったよ」
—ザ・ベイズやアンプ・フィドラーなど、外部ミュージシャンとコラボレーションした経緯を教えてください。 「アンプ・フィドラーは、彼の最新作に僕とトニーがゲスト参加したから、そのお返しで参加してくれたんだ。ザ・ベイズとはジャズ・カフェで数回一緒にライヴをした仲だよ。彼らのライヴに、僕はギタリストとして飛び入り参加したんだけど、素晴らしいバンドだったな。僕の音楽コミュニティーはすでに出来上がっているから、わざわざライヴを観に行きたいと思うバンドってあまりいないんだけど、彼らは別。次の展開が全く予期できない演奏をするから、観る者を興奮させる魅力に満ちているんだ」
—今作の制作を進めるうえで、何かインスピレーション源はありましたか?
「旅や映画だね。バス移動の全米ツアーが1、2ケ月も続いた時は、みんなが寝静まってから、よくトニーとスパイ映画やカンフー映画のDVDを観ながらアルバムの構想を練ったものだ(笑)。 映画『ラ・マンチャの男』にインスピレーションを得て、僕がトレモロ奏法を取り入れたり、トニーがナイロン弦のギターを弾いたりもしたよ」
—制作期間中に起きた印象深い出来事を教えてください。
「アンプ・フィドラーとのスタジオ・セッションが最も印象深いな。彼のオルガン演奏は、実に素晴らしかった! レコーディング中は、参加ミュージシャンとその友人が、演奏を聴きながら踊っていたよ(笑)。このアルバムは、そんな楽しい雰囲気のなかで制作したんだ」
—3月にはインコグニートとしての来日ライブを控えていますね。そこでは、今作からの演奏も予定していますか?
「3月は純粋にインコグニートとしてのツアーだからどうかな...。それとは別にトニー・レミー&ブルーイとして、近いうちにクラブ・ツアーを実現させたいね。僕もトニーも、みんながダンスフロアで踊る姿を見たいから」
—最後にメッセージをお願いします。
「僕はこれまでに、スティーヴィー・ワンダーの楽曲から人間の美しさを学び、パラダイス・ガラージではダンスフロアの興奮を肌で感じてきた。つまり、僕にとって音楽とは良き師であり、人生のサウンドトラックなんだ。だから、革新的な音楽を取り上げているLOUDの読者と、僕らの音楽を分かちあえることを、この上なく喜ばしく思う。世界の人々を結びつける音楽が、みんなの魂をインスパイアし続けるよう願っているよ!」
interview & text SOICHIRO NAITO
translation KEIKO YUYAMA
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Incognito
First Protocol
(JPN) PONY CANYON / PCCY-01822


