KAGAMI
KAGAMI インタビュー129号
次で紹介するウエストバムのフル・アルバムとともに、この夏のテクノ・シーンをリードするであろうマスターピースが登場した。『Star Arts』以来、およそ3年ぶりとなるカガミのサード・アルバムだ。タイトルは『Spark Arts』。リリースはウエストバム同様、カッティング・エッジなテクノを紹介するレーベルとして完全に定着した、石野卓球のplatikからだ。
前半はロック色を積極的に取り入れた、実験的なトラックが並ぶ。元スーパーカーのナカコーこと中村弘二を迎えた、BPM100の実験作「Motion Blur」。やはりナカコーのボーカルと、ギター・フレーズが映える「Heart Breaker」。シーナ&ザ・ロケッツのシーナをフィーチャーした、カガミ流ディスコ・パンク「PC na Punk de PC ga Punk」......。表現の領域を拡大してやろう、という並々ならぬ野心が感じられる。
後半戦は、これまでのリスナーも安心して聴けるフロア・ユースなトラックぞろい。12インチ・カットされた「Fuse」、「DFT」などは早くもフロアを賑わせているので、すでに体験済みの方も多いことだろう。
タイトル通り、彼の芸術センスがスパークした全14曲について、本人にたっぷり1時間語ってもらった。
―およそ3年ぶりのアルバムとなりますが、制作はいつ頃から始めたんですか?
「えーっとね、今年のお正月にコタツ入ってテレビ観てて。で、何かやろうかなぁって思って、そっから(笑)」
―でも昨年春のインタビューでは、“いまPCで曲をつくっている”って言ってましたよね。
「ああ、言ってましたね。そう考えると......その時つくっていた曲は、このアルバムには入っていない。シングルかリミックスだったと思う」
―AKAIのMPCから、PCベースの曲づくりへと移行して、どうでしたか?
「アルバムをつくろうかなっていう気分に今年の頭になった時、10分くらい離れた自分ちからスタジオまで通勤してみようと思って、今日観たいテレビがあってもグッとこらえて(笑)、スタジオに行って曲をつくってみたんです。で、“閃かないなあ”って時は、MPCだったら“これもしかしたら、後々大事な曲に発展していくかもしれない”と思って、MOディスクに保存するわけ。でも、そのセーブ時間が長いんだ。ロードする時間も長い。それがけっこう鬱陶しかったんだけど、パソコンだと、この曲はもういいや、って思った時に、極端に150BPMにしてみようとか簡単にできる。それって寄り道なんだけど、その寄り道が結果的にその日の良い収穫になって、例えば「PC na Punk de PC ga Punk」ができあがったり、同じケースで、100BPMに落としてみようと思って「Motion Blur」ができたりする。そういう気分転換が後に光ってくるっていう感じでしたね」
―“寄り道”が結果的に、このバラエティの豊かさを生んだと。
「ですねぇ」
―このアルバムには、ゲスト・ボーカルを積極的にフィーチャーした曲や、実験的なBPMの曲もありますよね。表現の領域を拡大してやろうというカガミさんの野心が感じられました。
「もちろん、新しいことをやっていこうという気持ちはいつもあるから、その部分を聴いてもらえたら嬉しいですね。もともと“Star Arts 2”はあり得ないな、っていうのはわかっていたから、だったら歌モノや、ピッチの速さもいろいろあっていいかなって思って。iPodでシャッフルして聴いた時に、シーナ&ザ・ロケッツの曲から「PC na Punk de PC ga Punk」に行っても面白いし、ミックス・アルバム的に聴きたかったら、後半部分を統合して聴いてもらえばいいし。そのへんの自由さは感じながらつくってました」
―iPodの話が今出ましたけど、実はタサカさんも、“iPodで音楽の聴き方が変わったし、アルバム『GO DJ』にもかなりの影響を与えた”と話してたんですよ。
「あの人、なっかなか使わなかったけどね(笑)。“iPodなんか......”なんて初め言ってたんだよ。で、いざ触ってみたら“面白いじゃん”だって(笑)。自分も全然使わなかった時期があったんです。でも実際に曲がたくさん入り始めてから面白さが出てきましたね。普段あまり聴かない曲、ちょっと興味のある曲、あとすごい古い曲なんかを入れて、シャッフルで聴いて。で、突拍子もないタイミングでその曲が出てくるっていう、びっくり箱的な“DJ感覚”を楽しんでます」
―ちなみに何曲くらい入ってるんですか?
「3000くらいかなあ」
―それはやっぱりテクノが中心?
「いやー、全然。例えば、年代別の青春歌謡シリーズみたいのがあるんですよ。そういうコンピを20年ぶんくらいごっそり入れて、聴いてますね。そうすると、よく“復活ベストテン”みたいな番組あるでしょ。久米さんがダチョウの肥後になってるやつ(笑)。あんな感じで、次々にシャッフルされて、わけの分からないタイミングで曲が出てくるの。そういう楽しみ方をしてる。ほんといろいろ入ってるよ。中国の民族音楽とか、クラシックとか、効果音も入ってる。“ピンコーン”なんて効果音が、シリアスな曲の間にシャッフルされて入ってくると笑っちゃうじゃない(笑)」
―iPod欲しくなってきたな(笑)。
「シャッフルだったら安いし。1万円ちょいでしょ」
―で、iPodはどう制作に影響したんでしょうか?
「iPodをつなげたラジカセを、右側に置いておくのね。で、左側には、まだ歌が入ってない、カラオケ状態のデモ・トラックをCD-Rに焼いて、ラジカセにセットしておく。で、その2台のラジカセの間に顔を近づけて、左側のラジカセを鳴らしつつ、右側のiPodで、その曲に合いそうなボーカルを探すの。マッシュ・アップだよね(笑)。で、そこで“この人の声ピッタリだな”と思ってクレジットを見ると、スーパーカーだったりするんだ。それでナカコーくんにお願いしたり。そんな感じで決めていきましたよ、すべて」
―シーナさんも?
「うん、この速くてロックっぽい曲は、シーナ&ザ・ロケッツを聴いて“ピッタリだな”と思ってお願いしたし、メグちゃんもそうだね。唯一カオリちゃんだけは違うかな。これはカオリちゃんに、ディスコっぽく歌ってもらえればいいなと思って」
―ナカコーさんとは、面識はあったんですか?
「一度、スーパーカーのリミックスを依頼されたことがあって。それ以外にも
―シーナさんとは?
「シーナ&ザ・ロケッツのリミックス・アルバムが昨年出たんだけど、その時のパーティーにシーナさんが来てたんだよね。それが出会ったキッカケかな。で、リミックスをするにあたって、色々なアルバムを聴いたんだけど、昔の曲を聴くとYMOの人たちが参加していたりして、すごく実験的で柔軟な人たちなんだっていうことがわかったんだよね。だったらこんな自分みたいなテクノ小僧がお願いしても(笑)、“面白いからやってみるわ”って感じでオッケーしてくれるかなって。楽しかったですよ、当時のシーナ&ザ・ロケッツを知らないぶん、逆にナチュラルに接することができて」
―シーナさんをフィーチャーした「PC na Punk de PC ga Punk」は、カガミさん流ディスコ・パンクという感じで、今までにはなかったタイプの曲ですよね。
「これ、最初は「PC na Punk」ってタイトルだったのね。でもシーナさんとのレコーディング直前、PCにお茶こぼして壊しちゃって。で、“PC ga Punk”(笑)」
―前半は、こういうロック調の曲が多いですよね。
「そうですね、ニュー・ウェイヴィーだったり、ロックっぽかったり。構成としては、始めにそういう感じがあって、途中デトロイトっぽい曲で曲り角をつくって、後半はディスコっぽい路線。で、最後に爽やかに締めたいっていうのがありました」
―ウエストバムのニュー・アルバムは聴きましたか?
「あ、まだ聴いてない」
―あれも“テクノとロックの融合”というところがテーマですね。ヴィタリックもしかりですけど、ロックの要素を取り入れることはシーンのトレンドなんですかね。
「うーん、でもそれって流れじゃないのかな。ハード・ミニマルな時もあれば、ディスコっぽい時もあれば、こういうロッキンな時期もある。
―そうなんですか!?
「うん、そんな難しいコードじゃないけどね(笑)。親父がベース持ってて、それを借りて。ギターは、昨年の
―最近ロックもので、よく聴いてるアルバムはありますか?
「うーん、ロックというくくりで言っていいのかわからないけど、シンガー・ソンガーとかね。あとはボノボとか、氣志團、ソウルワックス......ニュー・オーダーの新しいアルバムも聴くよ。でも、コテコテのロックは聴かないかな」
―最近ラウドでもフィーチャーしている、例えば卓球さんも注目している“フランツ以降”と言われる、ザ・デッド60S、ザ・フューチャーヘッズ、ザ・ディパーチャーあたりは?
「今言った人たち、俺全員知らないよ(笑)。昔のバンドかと思ったもん」
―そのへんからの影響があったのかな、と思ったんですよ。
「いやー、石井くんがそう思ったなら、全然違う(笑)。もっと自分の中にある、自然なところから出てきたものだと思う。ディスコっぽいものをたくさんつくった頃と同じようなノリで、“今はこんな気分だな”っていう、そんな程度ですよ」
―なるほど。逆に8曲目の「Fuse」からは、“これぞカガミさん!”っていうフロア・ユースなサウンドになりますね。
「そうそう。本当は9曲目の「Phenix」と「Fuse」、順番迷ったんだけどね。「Fuse」はコテコテの、いつもの自分のDJセットっていう感じで、「Phenix」はしいて言えば終わりのほうにかけるかな、っていう感じだから。でもまあ、実際ここから先はだんだんフロア・ユースって感じになっていくよね。実際、フロアでかけても盛り上がってくれてるし」
―「DFT」はついこの間、ageHaでステイシー・パレンもかけてましたよ。
「あっそう! へえー。後半はやっぱり手グセでつくっていきましたね。やっぱりそのへんがないと、“全然違う方向に行っちゃったんだ......”って思われてしまうからね。前半の感じで最後まで行くこともちょっとは考えたし、興味もあるんだけど、昔から聴いてくれてる人にも聴いて欲しかったから、そこはバランス取った」
―今“手グセ”って言いましたけど、それってどんなクセなんですか?
「うーんと、133BPMくらいで、何かこう......バカっぽい感じ?(笑)」
―バカっぽい(笑)。でもそうですね、決してシリアスにはならない。
「できないんだもん(笑)。知らないうちにそうなっちゃう。あ、でも「Phenix」はちょっとシリアスでデトロイトちっくな曲だけどね」
―そうですね。
「これも気分転換でつくったもので、飽和状態になっていたところで何かちょっと違うものをつくってみようと思ったんだ。ちょうどこの時、埼玉にワールド・カップの予選を全試合観に行ったり、ケミカル・ブラザーズやURのライヴを観てね。そういうストリングスが入っていて、涙が出てくる感じの、哀愁系な雰囲気が自分の曲づくりのモードに入ってきて、できた感じですね」
―で、最後にまたちょっとモードが変わって......
「爽やかに締める、と」
―歌っているメグさんっていうのは、どんな方なんですか?
「モデルやったり、歌も自分で歌ってる子なんですけど、興味あるアーティストが自分と一緒だったんですよ。っていうのが、どうしてわかったかというと、彼女がカバーしているアーティストが岡村(靖幸)ちゃんの曲だったり、フリッパーズ(ギター)の曲だったりするんですよ。僕もかなり聴いていたアーティストだから、彼女とだったら話も通じるだろうと思って。もちろん第一優先の声もバッチリだったんで、彼女をフィーチャーしました」
―アナログでリリースした「SHOP33 EP」の延長線上かな、と僕は思ったんですが。
「いや、自分は全然そんなこと考えないでつくってた。むしろ、もうちょっと攻撃的なディスコっぽい感じかな。情景としては、“涙なんて流さないでドライブしようよ”って感じ。自分は免許持ってないんだけど(笑)。失恋かなにかでネガティヴになっているのを、ポジティヴに持っていくっていう、そんな感じをイメージしながらつくっていきました」
―タイトルはどのように決めていったんですか?
「ジャケットを手掛けてくれた、TARのセキくんと話し合って決めていったんだ。紙に“サンダー”とか“スパーク”とか、インスパイアされる言葉を書いていって、“スパーク”だったら、前回の『Star Arts』とも似ているし、いいんじゃないかなって。......さっきのインタビューとは、全然違うこと言ってるけどね(笑)。さっきは“制作期間中、スタジオ近くのスパに行ってお風呂につかってたところから生まれた”なんて言ってた(笑)。いや、でもどっちもウソじゃないよ」
―これ、邦題にすると、“芸術は爆発だ!”ですね(笑)。
「ははは、マイロの“ロックンロールを破壊せよ!”みたいな? いや、そんなことは全然考えてなかった。偶然ですね」
―最後に、今後の予定を教えてもらえますか?
「“エクスクルーシヴ『Spark Arts』セット”をスパーク・ツアーでやります(笑)。15~6ケ所、かなり回りますよ」
―制作のほうは?
「ヒミツ(笑)。いろいろあるんすよ」
―何だろう、大物とのコラボとか?
「さあー?(笑)。でもこれは面白い、弾けたものになると思う」
―じゃあ、楽しみにしていますね(笑)。
「うん。たぶん、このインタビューの中にそのヒントがあるよ」
interview & text AKIHO ISHII
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KAGAMI
Spark Arts
(JPN) platik / plat-07

