KIHIRA NAOKI
KIHIRA NAOKI インタビュー127号
まだ日本にシーンと呼べるものが無かった'90年代始めから、関西を拠点にアンダーグラウンドな活動を続けてきたキヒラ・ナオキ。今や伝説ともいえる本邦初の本格的クラブ・イベント
そんな彼が、キャリア18年にして初のミックス・アルバムをリリースする。クリッキーなハウス、テクノから、パンキッシュなブレイクビーツまで、ジャンルにとらわれず、確かなミックス・テクニックで紡いでいるこの作品は、耳の肥えたリスナーをも唸らせるものだ。
インタビューは六本木某スタジオにて、レーベル・オーナーYODA氏も交えて行われた。
―キヒラさん、DJ歴は今年で何年になるんですか。
KIHIRA NAOKI(以下K)「19歳からだから......18年になりますね。こういうこと言うと、ベテランとか大御所とか書かれそうだなあ(笑)」
―書きますね~、たぶん(笑)。その長いキャリアで初のミックスCDリリースとなるわけですが、そもそもなぜ今まで出そうと思わなかったんですか?
K「単純明快で、お声がかからなかったから(笑)。軽いオファーはあったけど、出すまでには至らなかったんです」
―本当ですか? オーバーグラウンドな商業ベースとは違うところで何かをつくりたかった、っていう理由もあるんじゃないですか。
YODA(以下Y)「それもあるでしょ?(笑)」
K「うーん......というか、オーバーグラウンドも商業ベースも何もないところから始まってるからね」
Y「当時はシーンも何もなかったもんね」
K「“DJって何?”っていう(笑)」
―では、なぜ今このタイミングで出そうと思ったんですか?
K「YODAさんが声かけてくれたんで、“じゃあやろうか”って」
Y「ある特定のジャンルでやるDJはいっぱいいると思うんですけど、そういうのじゃないところを一枚のミックスCDにしたいと思って。自由な音楽、自由なスタイルにレーベルも行きたいし、そういうことをやってる人の音源をきちんとつくりたいって思ったんです」
―キヒラさんはそのオファーをもらって、どう思いましたか?
K「“あ、いいよ”くらいの感じだった(笑)。ほんとYODAさんとは、僕がダンス・ミュージックをかける前、ロックとダンスの狭間をやってた頃からの知り合いで、僕のキャリアを分かってくれているから、こっちもやりやすかったですね」
Y「俺は'95年くらいからダンス・ミュージックを聴き始めたんですけど、ケミカル・ブラザーズが初めてリキッド・ルームに来た時、彼らのライヴの後にキヒラくんがDJしているのを見たんですよ。 そこで、今まで音楽の聴き方がすごく凝り固まっていたな、もっと自由に音楽を聴いていいんだな、っていうのを実感したんですよね。それから彼のDJは常に聴くようにしてます。ほんと、昔から変わらないクロスオーヴァー感がありますよね」
―そうですね。
K「僕らの世代、MAYURIちゃんとかQ-HEYくんとかは、見本がなかったから、自分のやり方でやっていくしかなったんです。'93、4年あたりなんてテクノもトランスもごっちゃ混ぜで、そこに“ジャンル”なんてものはなかったから」
―でもMAYURIさんもQ-HEYさんも、今はテクノっていうフィールドで活躍してますよね。なぜキヒラさんは、“昔から変わらないクロスオーヴァー感”を保っていられるんですか?
K「ジャンルに捕われない音がもともと好きなんでしょうね。ジャンルは違うけど、自分に響いてくる、同じ匂いのする音楽を紡いでいくっていうのが、自分にとってのDJの面白さですね。だから僕は“テクノDJ”って言われても、自分ではそんなつもりはまったくないし、“マンチェDJ”って言われてもピンと来ないですよね」
―“自分に響いてくる、同じ匂いのする音楽”って、言葉にするとどんなものですか?
「うーん、情動っていうか......言語化できないある種の部分ですよね。例えばシカゴ・ハウスと、昔回していたパンク。地域が違うから表現の形態は違うけど、音楽が生まれてきたバック・グラウンドや土壌をよく見ると、コミュニティ・ミュージックっていう共通点がありますよね。居場所のない若者の音楽、みたいな。そういう意味では、音楽の持つアティチュードが自分にとって同じに感じられたりするんです」
―今回の選曲は、どう進めていったんですか?
「ライセンスの問題もあって、けっこうダンス寄りになりましたね。守備範囲はそれほど広く使ってない感じかな。テクノのパーティーで、2時間くらいやる時の選曲にわりと近いと思います。あと一般に知られてないような曲にもいいものがいっぱいあって、そういうものは入れるようにしましたね。まだ評価が追いついていないような曲を」
―特に聴きどころをひとつ挙げるとすれば?
「いや、それは聴いた人が自分の好きな聴きどころを発見してくれればいいです。ひとつのストーリーじゃなくて、聴いた人それぞれにストーリーがあるのが一番いいんですよ。DJの時もそうなんだけど、自分が表現して相手に何かを伝えるというよりは、このCDを聴いた人に何かが起こる触媒になればいいなと」
―ドック・マーティンはDJで最も大切にしている4つのエレメントとして、“Joy”、“Warmth”、“Good Vibes”、“Emotion”を挙げていました。これに対して、キヒラさんならどう答えますか。
「それ難しいなあ、割り切ったら答えられんこともないけど(笑)。......えーと、まずは自分の体調(笑)。周りの空気すら読めない状況じゃヤバいですからね。あと、トイレに行っておく(笑)。特にビールいっぱい飲んでる時は。あとは......ときどき我に返る(笑)」
―それはどうして?
「没頭している時に“あれ、俺だけ?”ってなることあるから。一瞬、引いてみるのも大事。やっぱりフロアとの作用、反作用っていう、相互作用が大事だから」
―キヒラさんは長年にわたって第一線で活躍されていますが......
「1.8線くらいかな(笑)」
―ははは(笑)。長く続ける秘訣みたいなものはありますか? 途中でいつの間にか消えちゃう人もいるわけじゃないですか。
「たぶん僕はDJよりも、パーティーをすることが好きなんだと思います。DJっていうパーツだけじゃなくて、場所選びや場の環境づくりとか、全体に頭を突っ込むことが好きなんです」
―キヒラさんをリスペクトする若いDJに、何かアドバイスはありますか。
「俺が教えて欲しい(笑)。まあ“いいDJだな”って思うのは、その人にしかできないことをしている人。それこそ意義があると思ってて、誰か風の二番煎じだったら最初から要らないですよね。だから、誰かを目指すことはしないほうがいいと思う。誰かのミニチュアじゃ、どこまで行ってもそれを超えていくことはできないですよね」
―キヒラさんは、今の日本のクラブ・シーンに対して明るい未来を見ていますか? それとも危機感を持っていますか?
「常にいいとこも悪いとこもあるからね。例えばトランスがヤンキー化、大衆化して、とんでもないパーティーになってるのもあれば、そこから入ってどんどん面白いものを掘り下げていく人もいるでしょ。
―そうですね(笑)。
「東京に比べたら、まだ関西は身分証明って全然必要ないから他人事みたいだけど(笑)」
―20歳以上のチェックだと、大学一年生でも入れない。
「それバカげてるよね、ほんとに。でも、誰かに何とかしてもらおうと思ってるうちは、多分何ともならへんような気がする。自分たちで何とかするようにしないとね」
interview & text AKIHO ISHII
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Infected Soundscape Mixed By KIHIRA NAOKI (JPN) HORIZON / HRZN-020

