NICOLA KRAMER
NICOLA KRAMER インタビュー144号
モータウン・ファンだった母親の影響で、幼い頃から音楽を身近に感じて育ってきたヴォーカリスト、ニコラ・クレーマー。ジャズ / クロスオーバー・シーンから注目を集める彼女は、これまでにジャザノヴァ作品などで、その歌声を披露してきた。 ここに御紹介する『The Other Side』は、そんな彼女のファースト・アルバム。ニコラの透き通るようなシルキー・ヴォイスが堪能できる、SSW系リスナーも楽しめるアルバムだ。プロデューサー / トラック・メイカーとしてクレジットされているのは、ウエスト・ロンドン・シーンの若き才能、ドム。ドムといえば、数々の名義を使いこなし、幅広いジャンルのクラブ・ミュージックを手がけている気鋭アーティスト。今作でも、ブロークン・ビーツから、ニュー・ジャズ、ダウン・テンポまで、多彩な楽曲を手がけ、アルバムにバリエーションを与えている
LOUDは、シーンの期待が集まるニコラ・クレーマーに、新作のことを聞くべく電話インタビューを試みた。彼女は、歌声同様の可愛らしい声で、それに応じてくれた。
—今作のプロデューサーを務めたドムとは、どこで知り合ったんですか?
「学校の同級生なの。18歳の時には、一緒にジャズ・ファンク / ソウル・バンドも組んでいたわ。そのバンドで、カムデンにあるジャズ・カフェのギグに出たのが、キャリアをスタートさせる切っ掛けになったの」
—ドムはウエスト・ロンドン・シーンで活躍するトラック・メイカーですが、あなたのバックグラウンドも同様ですか?
「基本的に、私は昔のヴォーカル曲が好きなの。ジョニ・ミッチェルや、'60年代から'70年代の女性ヴォーカリスト、例えばファンクだと、アレサ・フランクリンやチャカ・カーンの曲が好き。ドムはウエスト・ロンドン・シーンの影響を受けているから、私たち二人のテイストがひとつになると、ユニークなサウンドができるんだと思う。だけど、正直に言うと、私はそこまでウエスト・ロンドン・シーンに入れ込んでないの。ドムの紹介で4ヒーローやバグズ・イン・ジ・アティックと知り合って、彼らにはアルバム収録曲のリミックスをやってもらったりしたけど、シーンとはドムを介してしか関わってないわ。ロンドンに行った時、遊びとしてエンジョイするぐらいね」
—今はどこに住んでいるんですか?
「ベッドフォード。ロンドンから北に100キロほど行った街よ。実は私、昼間は警察署で働いているの」
—え!? 警察では何を?
「科学捜査官。科学者ってわけじゃないわよ。捜査を進めるのに、科学的なアドバイスをする仕事。もう6年になるわ。今も警察署で、この電話インタビューを受けているのよ(笑)。びっくりした?」
—いろんな人にインタビューしてきましたが、警察の方は初めてです(笑)。アーティスト活動との両立は難しくないですか?
「そうでもないわ。夜は完全に自分の時間だし。でも、来年ぐらいには歌に専念したいと思っているの。しばらくは歌と両立するけど、様子を見て決めるわ。でも、ツアーにも出たいから、そう長く警察は続けられないかな(笑)」
—シンガーとして意識しているのは、どんなことですか?
「自分の声を楽器だと思って、たくさんのレイヤーやハーモニーをつくり込むようにしているの。スタジオでレコーディングするまでは意識していなかったけど、それを徐々に自分のスタイルとして確立させていったわ」
—今作『The Other Side』にコンセプトはありますか?
「コンセプトはないのよ。私とドムが、ここ数年間で一緒につくった曲のコレクションなの。このアルバム制作に取りかかったのは'01年なんだけど、二人とものんびりマイペースでやっていたから、すごく時間がかかっちゃったわ」
—では、収録曲の「The Other Side」をアルバム・タイトルにした理由を教えてください。
「「The Other Side」は最後にレコーディングした曲なの。何年も前につくった他の曲に比べると、今の私をより強く表現していると思う。だから、アルバム・タイトルにもしたのよ」
—「The Other Side」では、どんなことを歌っているんですか?
「“私の立場を理解できる? 私の気持ちを考えて”と、相手に問いかける歌なの。相手の立場になってみるというアイデアが、すごく私らしいと思う」
—アルバム制作は、どのように進めたんですか?
「まずドムが曲を書いて、私がそれに歌詞をつける、その後ふたりで一緒に手を加えるっていう手順ね。私たち、いいチームだと思うわ。特にカバーは楽しかった。今回アルバムに収録したカバー曲は、私がやりたくてドムに頼んだものよ」
—今作でカバーしている「Music Of The Earth」のオリジナルは、パトリース・ラッシェンによる'77年のヒット・ソングですよね。あなたは過去にもジャザノヴァの楽曲で、同じくパトリース・ラッシェンの「Let Your Heat Be Free」をカバーしています。パトリース・ラッシェンには思い入れがあるのでしょうか?
「さっきも言ったけど、彼女が活躍していた時代が大好きなの。当時の女性ヴォーカリストは、私をすごく元気づけてくれるし、なぜか特別に感じるの。彼女のヴォーカル・レンジって、私の声と似ているのよね。でも私の声は、どちらかと言えば鳥みたいだねとよく言われるわ(笑)。高くて、クリアーで、よく伸びるから」
—ジョニ・ミッチェルの「Help Me」も今作でカバーしていますね。この曲には、アコースティック・テイストが強くあります。他の収録曲とは異なる印象を受けました。
「そうなの、あの曲は違うのよ。アルバムの中で一番初めにライヴ・サウンドをたくさん入れた曲なの。ジョニ・ミッチェルは私のアイドルだから、ずっと彼女のカバーをやりたいと思っていたわ」
—規則的なビートではない、変則的なブロークン・ビーツに歌を乗せている曲が今作には多かったんですが、歌入れで難しさを感じませんでしたか?
「慣れるまで何回も聴いて練習したけど、難しくはなかったわ。全部ワンテイクでとれた。変則的なビートには、クリエイティヴなひらめきを感じるわ。もちろん規則的なビートも好きだから、両方とも歌えたらいいけど、私はドムのビートが好きなのよね(笑)。実験的で面白いし、彼の曲を聴いていると、いろんなアイディアが生まれるわ」
—今後はどんなことにチャレンジしていきたいですか?
「ここのところずっと歌詞を書いていないから、また書き始めたいわね。カバーをやるとしたら、大好きなアレサ・フランクリンの曲ね。全く違うバージョンで挑戦してみたいわ。ヴォーカル・アレンジはそのままで、トラックやテンポを変えたら面白いと思う」
—最後にメッセージをお願いします。
「リラックスして、サウンドを心から楽しんで欲しいわ。みんながこのアルバムを好きになってくれますように...。日本には、もしかしたら来年の初めに行けるかもしれないの。実現したら最高ね」
interview & text SOICHIRO NAITO
translation KYOKO MAEZONO
HMVで購入↓
NICOLA KRAMER
The Other Side
(JPN) VILLAGE AGAIN / VIA-0051

