NYANTORA インタビュー134号
バンド・サウンドとエレクトロニック・サウンドを融合させた独自の音楽性で人気を獲得、昨年まで日本のロック・シーンに欠かせない存在として活躍してきたスーパーカー。そのスーパーカーのリーダーとして才能を発揮してきた中村弘二が、ソロ・プロジェクトのNYANTORA名義では最後の作品となるであろう『夜を忘れなさい/97-03』を発表した。スーパーカー解散後初のリリースとなる本作は、過去に発表してきた『99-00』と『Cosmos』の二作品に、最新作『夜を忘れなさい』を加えた三枚組。既発二作品にも未発表曲がそれぞれ15曲ずつ加えられた、集大成的な内容だ。
NYANTORAではスーパーカー以上に実験的な音響世界を構築してきた彼だが、『夜を忘れなさい』では、そのスタンスがより先鋭化している。インタビューの中で自身が“曲と呼ばれるか呼ばれないかのギリギリのライン”と語る通り、ここでは既存の楽曲概念から解放されたサウンドスケープを楽しむことができるのだ。 最新作で表現したかった音楽とはどのようなものだったのか、そして今後の活動はどうなるのか、話を聞いてみた。
―今回の3枚組作品集は、'97年から'03年までにNYANTORA名義でリリースした作品の全てに未発表曲を加えたものですが、なぜこのようなパッケージにしようと思ったのか教えてください。NYANTORAは今作にて、ひとまず終了と考えていいのでしょうか?
「こぼれた曲もありましたが、これで一応全てということにしようと思ったんです。(NYANTORAは)これで終了に近いカタチですね。バンドと並行してやっていたことなので、バンドが終わったから、終わりにしようかなと」
―もともとNYANTORAは、スーパーカーの存在があった上でのサイド・プロジェクトだったんですか? 「特に意識はしてませんでしたし、そのためのサイド・プロジェクトだと宣言したとこともないし、する必要もなかったんですけど、端からみるとそうなっていたわけですね。バンドをやっていたときにやっていたプロジェクトだから、相互に影響しあっていたし、相互に関係性を持っていたのは事実です」
―曲の中には、スーパーカーに持ち込む予定だったものもあるんですか? それとも全く別のものとして制作していたのでしょうか?
「持ち込もうとしていたやつも入っていますね。バンドがやってるサウンドが嫌で、別のプロジェクトとしてやっていたというのは誤解なんです。そんなことはなく、どちらも好きで、同じウエイトです」
―バンドが解散して、NYANTORAも終了すると決めた後の昨年は、どんな活動をメインにしていましたか? カガミさんのアルバムに参加していましたし、ジョン・レノンのトリビュート・アルバムでは「Tomorrow Never Knows」をカヴァーしていますよね。
「去年に限ってですと、自分の制作と、カガミ君と一緒にやったのと、あと日暮愛葉さんのアルバムでの楽曲アレンジとか...そのくらいですね」
―ではNYANTORA以降のソロ・プロジェクトは、まだ準備段階ですか?
「そうですね。実際に曲をつくり始めたりとか、そういうことはやっていますが」
―わかりました。では、まず未発表最新音源で構成されているCD1『夜を忘れなさい』ですが、これはいつ頃制作したものなんですか?
「2003年につくったものですね。CD3『Cosmos』を出したあと、2003年中に気軽にもう一枚出したいなと思ってつくっていたものなんです。スケジュールの問題などで調整が必要だったので、ネットだけで販売しようとか、たくさん売る必要もないんで300枚とか500枚とか少ない枚数が売れればいいと思っていたんですけど、そこで話が止まってしまって、お蔵入りしていたやつですね」
―各曲に日本語のタイトルがつけられていますが、日本語タイトルはスーパーカーには、ほとんどなかったように思います。なぜ日本語のタイトルになったのでしょうか?
「(今までは)アルファベットの記号のようなタイトルを、ある種の意味を込めてつけていたんですけど、このアルバムでは、そうではない方向で、日本人が一番イメージしやすい言葉はやっぱり日本語だから、という素直な気持ちでつけました。こういう音楽に日本語がついていると、よりヘンな感じがしますしね。最初は英題もつけて、昔のレコードのように邦題と英題がついているということも考えたんですけど、中途半端だと思ってアルファベットのタイトルの方は止めたんです」
―タイトル自体が、「蓮の花」「イルカとカタツムリ」「夢世界」など、リスナーの想像力をより一層膨らませるような言葉になっていると思います。実際にこういったイメージを持って曲をつくっているんですか? 「いや、タイトルを決めて曲をつくっていくという作業はないですね。曲をつくってから、その曲を聴いた印象で、どういうタイトルが合うか、どういう言葉を使いたいか、という発想で つけています」
―曲順からは、だんだん眠りに落ちていくようなストーリーを連想したのですが、そういった流れは意識していますか? 今作はアルバム全体を一つの曲として捉えることもできると思うのですが。
「その点に関しては、どう捉えてもらっても構わないんです。結局、最終的な落としどころ、キーワードは“夜”や“眠り”になると思うんで。それが作品としてのテーマです。曲順は、ただ気持ちが良い順に並べていった感じです」
―“夜”と“眠り”。
「はい。当時、夜起きて作業していたんです。そういった逆転した生活の中で制作したものだから、その空気感を掴んで入れたかったんです。東京にはそういうヒトって多いから、共感を持てるんじゃないかと思いますし」
―『夜を忘れなさい』というタイトルも、その感覚の中から出てきたものですか?
「その言葉自体はドアーズのジム・モリソンが詩の朗読で言っているもので、たぶん“夜”という既成概念を超越しなさいって意味だと思います。単純な意味としては、夜というのは絶対に訪れるものですけど、そんなことは気にしないで生活しなさいということでもある。その両方の意味と自分の生活がリンクしている感じですね。(本作の)音楽的なテーマに、既存の音楽の概念に当てはまるものにはしたくないということもありましたから、いろんな意味が上手くかかっている。良い言葉だな、さすがジム・モリソン...って、オレじゃないんだけど(笑)。ジム・モリソンを褒めちゃった」
―ジム・モリソン流には、“the other side”という感覚もありそうですね。
「多分あのヒトが生涯最後まで言っていた言葉だから、それはそうだと思いますね。改めて、そういう影響もあると思います。ジム・モリソンが降りてきました(笑)」
―先ほど既存の音楽の概念に当てはまるものにはしたくなかったと言っていましたが、たしかに明確なリズム・パートや楽曲構成が無いようなトラックが多いと思いました。また、全13曲でトータル・タイムが20分強という内容です。どんな点を意識しながら制作したんですか?
「曲をつくるときに、起承転結を考えたりはしたくないというのと、過度に盛り上げず、ちょっと普通の曲のイメージから離れたものをつくっていきたいとは思っていました。それをやっていくと、曲と呼ばれるか呼ばれないかのギリギリのラインまで、どんどん曲が短くなっていくんです。どうしても音楽を聴くと、音楽を聴くモードで耳が鳴っちゃうけど、そういった音楽ではなくて、生活している中で自然に聞こえている音と同じような感じの音楽をつくりたかったんです。例えばタクシーの無線の音とか、銀行のキャッシュ・ディスペンサーの音とか、そういう音も音楽に聞こえたりすることがある。そういった音をシンセで置き換えてやるとどうなるんだろうとか、そういったことからスタートしたりしました。自然音をそのまま録音してきてコラージュする方法ではなくてね」
―ちょっとブライアン・イーノの境地に通じるものを感じますね。
「イーノは哲学というか、もっと考えた上でやっていると思うんです。僕の場合はもっと自然で、生活の中にある音をヒントに曲をつくっていくということなんです。難しい顔してやっているわけではないんです」
―ところで、自宅で制作を行っていると思いますが、思い立ったらいつでも作業に入れるような環境になっているんですか?
「そうですね。コンピュータをつければいつでもできます」
―音づくりの一番最初の段階は、どのように始まることが多いんですか?
「基本的に集中するタイプではないので、いろんなことをしながらでないとダメなんですよね。DVDで映画を観たり、ゲームをやったり、曲をつくったり、と同時にやります。その方が偶然的な要素が出てきたりするんです。ただ、映画を観ながら作業をしていると、その映画に合わせてシンセを使っちゃったりするんですけどね(笑)」
―正にサウンドトラック状態ですね(笑)。
「ええ。そうすると、結局でき上がった音楽を聴いても、そのときの映画と一緒に流さないと良さが分からない(笑)。でも、そういった環境でないと曲ができないんです」
―曲は一晩でできるんですか? それとも、その後あれこれと練っていくんですか?
「このアルバムは基本的に一発録りでいこうと思っていたんで、キーボードの演奏も含めて、ほとんどがファースト・テイクです。感覚的なところからインスピレーションを受けているので、あんまり考えない方がいい、そういう部分を大事にしようと思ったんです。キックの音も、考えて入れていくのが普通なんですけど、このアルバムでは考えていないんです。良いキックの音を見つけて、とりあえずバーっと貼ってから感覚的に間引いたりしました」
―CD2『99-00』、CD3『Cosmos』には、未発表曲が追加収録されています。当時アルバムに収録されていてもよかったトラックが多数あるように感じたのですが、選別の基準はどのような点にあったんですか?
「NYANTORAにはコンセプトとして、文庫の短編作のように“あ、もう終わるんだ”くらいの長さをシリーズでやっていきたいというのがあったんです。それで、曲数が5曲、6曲くらいになっていたということですね」
―長編ではなく短編でいきたかったのは、どうしてなんですか?
「ひとつきれいな理由として、映画にしろマンガにしろ短編が好きだということがあります。他の理由としては、長尺は責任感が大事になってきて、いい加減なものがつくれなくなって、重くなってくるから、それが嫌だったということがあります。あとは、値段の面でもあんまり高いのは嫌だったし、個人的に僕はCDを頻繁にチェンジするのが好きなので、フル・アルバムを通して聴くようなことが少ないということもあります。ライトでいいんじゃないかなと。実際、今回の新しいエディションは、聴くのがしんどかったですよ(笑)」
―『99-00』と『Cosmos』には、『夜を忘れなさい』での“夜”や“眠り”に当たるようなテーマはあるんでしょうか?
「『99-00』には無いと思います。当時の日記のような感じです。『Cosmos』は、“宇宙”がテーマですね。前々から宇宙のアルバムをつくってみたいと思ってましたし、今でもつくってみたいと思ってます。自分にとっては、すんなりとやりやすいテーマだと思っています」
―NYANTORAとスーパーカーでは、年々エレクトロニック機材の導入が増していきましたが、どのような心境の変化があったんですか?
「もともとギター・サウンドもエレクロニック・サウンドも好きだったんです。ただ、シンセはすごく高かったし、パソコンも使えなかった。で、唯一弾けた楽器がギターでしたからね。それがターンテーブルだったら、また違う出発点だったかもしれないですね。逆の道を辿っていたかもしれません。今ギターに興味がないわけではないんですけど(笑)」
―ギターで曲をつくるのとパソコンで曲をつくるのでは、感覚的に違いがあると思うんです。その辺の要素が関係しているのかと思ったんですけど。
「僕は、作曲自体はどちらでもあまり変わらないですね。最近はコンピュータが、もっと勝手に組み替えてくれたり、いい感じの偶然性が欲しいと思うことはありますけど。まぁ、だったらヒトと一緒にやれ、って話になっちゃうんですけど(笑)。おかしな話ですが」
―今後はどんなプロジェクトやサウンドをやっていきたいと考えているんでしょうか?
「とりあえず、いままでやってきたこと全てを、集大成的にひとつの新しいプロジェクトとしてやっていきたいと思っています。“完成”ではないですけど、ある種の結論、集大成からスタートして発展させていきたいと思ってます」
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NYANTORA
夜を忘れなさい/97-03
(JPN) NOON / NOONCD001-003


