POLE
POLE インタビュー147号
ポールは、ドイツ出身のエレクトロニック・ミュージック・クリエイターにして~scapレーベルの首領でもある、ステファン・ベトケのソロ・プロジェクトだ。アーティスト名は“音を分極化(=Polarization)させる”ことに由来しているという。 幼少期にクラシック・ピアノを学んだという彼は、キーボード・プレイヤーとしてキャリアをスタート。その後ベーシック・チャンネルが運営するDUBPLATES & MASTERINGのエンジニアとして経験を積み、やがてプロデューサーとして才能を開花させている。現在はミニマル・ダブの担い手として広く知られているが、そのサウンドはカテゴライズ不能な、オリジナリティーあふれるものだ。 これまでの主なリリースには、通称“青、赤、黄”と呼ばれているアルバム・シリーズ3作品と、ヒップホップ・グループ、ファイヴ・ディーズのファット・ジョンをフィーチャーした、'03年の『Pole』が挙げられる。ここに御紹介する『Steingarten』は、その『Pole』から約3年半のインターバルをおいて発表された最新アルバムだ。 昨年末に来日していたステファン・ベトケに、新作について聞いてみた。
—前作はファット・ジョンとのコラボレーションでしたよね。今作では、なぜ一人での制作に戻ったんですか?
「今回はインストもので表現した方が自然だと思ったから、一人で制作したんだ。だから、今後コラボレーションをしないというわけではないよ」
—ということは、前作以上に自身の内面を見つめる制作になったということでしょうか?
「ソングライティングを僕がやってからファット・ジョンにラップをしてもらい、それをエディットしたのが前作。だから、内面を見つめるという点では何も変わらないね。でも、今回は歌詞がないから、愛とか、戦争とか、そんな具体的なテーマはないんだ。こうしたインストものに深い意味を持たせるのは、非常に難しいと思う」
—アルバムには、具体的なコンセプトがありますか?
「ドイツを象徴するような音をつくりたかったね」
—それを最もよく表している曲はどれですか?
「「duseldorf」という曲があるけど、デュッセルドルフは僕の故郷なんだ。この曲は特に、今までやっていたヒップ・ホップのようなものと違う、ドイツっぽい変わったサウンドになったと思う」
—曲づくりでは、どんなことをイメージしましたか?
「曲を書いている時は、常に何かの雰囲気や情景を頭に浮かべるようにしているんだ。山や雪景色、雨といった情景が頭に浮かび上がってきたね。でもそれは変化するものでもあるんだ。例えばモーニング・コーヒーのカフェインが弱かったりするとよりメロウになるし、忘れ物をして感情的になることがあったら、アグレッシブになったりする」
—制作で意識したことについて教えてください。
「ポール名義では、シンプルな音をつくるようにしているよ。制作では何層も何層も音を重ねているんだけど 、不必要なものは全部削ぎ落としてエッセンスだけを凝縮させている。もし複雑な音楽やポップ・ミュージックをつくるとしたら、違う名義で発表するんじゃないかな」
—今作のビートには、新たな挑戦を感じます。4つ打ちのようなグルーヴ感を持った曲もありますね。
「それは歳をとったから、やるようになったんだ(笑)」
—いやいや(笑)。 「ははは(笑)。4つ打ちに聴こえるだろうけど、ビートが反復しいているからそう聴こえるだけで、実際は違うんだ。ロックのビートを128BPMまで上げて、4つ打ちやテクノのビートを思わせる雰囲気を醸し出しているのさ 。実は3枚目の“イエロー・アルバム”でも似たような音をつくっているんだけど、当時ドイツのravelineというダンス・ミュージック誌は、レビューに“ポールが発表する初のテクノ・アルバム”と書いていたな。でも僕は、それをテクノ・アルバムとは思っていないよ」
—テクノと言えば、あなたは以前からノイズやクリックを使った音づくりをしていますよね。後に現れたクリック・ハウス・シーンについては、どんな感想を持っていますか?
「この件に関しては非常に話しにくいんだけど...。クリック・ハウス・ムーブメントはすでに終わっているし、当時もつまらないものだと思っていたね。たしかに僕がこういう音をつくった後に、似たような音を発表し始めた人がいたのは事実だ。なぜすでに存在するものを焼き直したような作品を出すアーティストがいるのか理解できなかったよ。現在イギリスでは、ダブ・ステップが革新的だと騒がれているけど、正直言って僕には、あれもベルリンから生まれたダブものにドラムンベースの要素を加えただけにしか聴こえない。みんなが騒ぐほど新しい音かどうかは疑問だね。アーティストなら、つねに新しいことをするべきだと思う」
—ジャンルやカルチャー、ムーブメントに属した制作を続けることで、アイデンティティーを築こうとするアーティストは多いのだと思います。あなたは、彼らとは違ったスタンスで、独自の芸術をつくりあげたいのですね。
「うん、そういったジャンルわけには全く興味がないんだ。僕は限界を越える、新しい音楽をつくることに意義を感じている。今まで聴いたことのない音楽を生み出すために、アーティスト活動をしているんだ。それができないのなら、作品をリリースする意味はないと思う」
—なるほど。
「ファースト・アルバムを発表した時には、いろんなメディアから“こんな音楽は聴いたことがない。ジャンルは何ですか?”とよく聞かれたものだよ。メディアが説明できないので、勝手に“クリック&カッツ”というジャンルに放り込まれたりもした。でも、新しいジャンルをメディアがつくることは否定しないよ。ジャンルわけされている方が安心して聴けるというリスナーも多いだろうから。でも僕は、ジャンルやカテゴリーを気にして制作をしたことはないね」
—アルバムのアート・ワークでは、ロマンティック街道の終点として有名な、ノイシュヴァンシュタイン城の写真を使っていますね。ここにも、あなたの美学は活かされていますか?
「この城を建てた王様は、他の王様と違って、全くトレンドにこだわらず、独自の世界観を城で表現したんだ。アートワークには、僕も彼と同じように、ジャンルやトレンドに左右されない、独自の音楽をつくりたいという想いが込められているよ」
—このあとは、どんな作品をつくる予定ですか?
「最近は、ラップトップにベースやドラムなどを加え、バンドのような音をつくるのがトレンドになってきているね。ベルリンにもいくつかの面白いバンドがある。僕自身も1年半バンドをやっているから、そっちのアルバム制作も始めようと思っているんだ。すごく実験的なプロジェクトだから、バンドによる即興性を重視した作品になると思う」
—テクノロジーは日々進化していますが、今後のラップトップ・ミュージックには、どんな未来が待っていると思いますか?
「今後ラップトップ・ミュージックがどうなって、どんな新しいジャンルが出てくるかと聞かれても、それはわからないな。それがわかったら、1年後にはかなりのお金持ちになっているだろうね(笑)」
interview & text SOICHIRO NAITO
translation KEIKO YUYAMA
HMVで購入↓
POLE
Steingarten
(GER) ~SCAPE / SC44CD

