PREFUSE 73
PREFUSE 73 インタビュー153号
作曲重視から生まれたオーケストラル・ヒップホップ
アトランタ出身の奇才クリエイター、ギルモア・スコット・ヘレン。様々な名義で、その多彩な音楽性を表現している彼のメイン・プロジェクトが、プレフューズ73だ。ここでは、ヒップホップを軸としたアグレッシヴなビートに、メランコリックなエレクトロニカの要素を交えた、幻想的なサウンドを打ち出している。 プレフューズ73としては、これまでに3枚のフル・アルバムと、ミニ・アルバム、EPを発表。ヴォーカルのカットアップやマイクロ・サンプリング、ミュージシャンとのコラボレーションなど、作品ごとに異なるサウンド・テーマを打ち出し、サウンドのアップデートをくり返してきた。
このたび完成させた『Preparations』は、それら全ての要素を統括したうえで、作曲に重点を置いた快心作だ。前作の発表後に“次がラスト・アルバムとなる”と自身のブログでアナウンスしていただけに、今作のリリースにはかなりの注目が集まっている。 そこでLOUDは、ギルモア・スコット・ヘレンを電話でキャッチ。彼の音楽観を聞くと共に、気になる今後の動向を探ってみた。
ポジティブな気持ちで作曲
——あなたはプレフューズ73以外にも、サヴァス&サヴァラス、ピアノオーバーロードなど、様々な名義を使って多彩な音楽性を表現していますね。
「「僕にとっては、どのプロジェクトも同様に大切だし、多作家であることが自体がインスピレーション源になってもいるんだ」
——プレフューズ73として音楽制作を行うのは、どんな気分の時ですか?
「これまでプレフューズ73として出してきた作品は、その当時の僕を投影していると思う。もちろん始めた頃は若かったし無邪気だった。それから色んな経験を積み重ねていったわけだけど、その過程で様々な感情が蓄積されているから、特定の感情をピンポイントで指すのは難しいな。僕がプレフューズ73と共に成長したのは確かだけどね」
——これまでのプレフューズ73作品には政治的なメッセージを含むイメージがありましたが、今作では、どんなテーマで制作を進めたのでしょうか?
「今までは政治や音楽シーンで起きていることへの反動精神で作品を生み出すことが多かったけど、今回はそういったことを一切気にしなかったね。自分の中の激しい感情をリスナーに押しつけるのではなく、ポジティブな気持ちで音楽をつくりたかったんだ。実は、今作はこれまでの中で一番好きな作品なんだ。レーベルの人やアーティスト、一緒に仕事をした人達の姿が作品の中に見えるから。今作には精神面の成熟が表現されていると思う」
——穏やかな気持ちで制作できたんですね。では、サウンド面で大切にしたのはどんなことですか?
「このアルバムでは作曲を重視したんだ。リスナーがプレフューズ73に期待するのは、多様性のあるサンプリングだと思う。でも今回は、自分が小さい頃から慣れ親しんできた楽器を弾き、それをミックスすることで新しいサウンドをつくりたかったんだ。チェロみたいな正統派の楽器から全く違うサウンドを編み出して、よりオーケストラ的な厚みのある楽曲にすることが、今回の主な目標だったのさ。僕にとっては新しい挑戦だったよ。僕はランダムなやり方が大好きだし、このアルバムもそういったプロセスでつくった部分はある。でも今回はランダムさを優先させずに、作曲と基礎づくりに時間をかけたんだ。後から曲の良くないと思う箇所を探して手を加えたのは、今までとの大きな違いだよ。それくらい作曲にこだわったんだ」
——タイトルを『Preparations』としたのは、どんな想いからですか?
「今回初めて生楽器を使ってみて、セットアップやいろんな下準備(Preparations)をしたのが印象的だったからだよ。これまでプレフューズ73はサンプリングに徹してきたから、使うものと言えばMP3くらいだった。でも、MP3と違って、楽器の音って特殊でしょ。もちろん、どちらにも下準備がいるんだけど、質が違うという感じだったね」
——新作では、その違いが形になっていますね。
「このアルバムのために1年間費やしてつくった曲は50曲あって、軽く4時間分を越えるけど、その中から今までとは作風が違う曲だけを厳選していったんだ。過去と同じことをやってみんなに喜んでもらっても仕方がないからね。今回のセレクションに共感してもらえたら嬉しいな」
モト妻とのコラボレーション
——ゲスト・ミュージシャンを招いての曲づくりも行っていますね。彼らが参加することになった経緯を教えてください。
「バトルズのドラマー、ジョンは仲のいい友達だから“アルバムでドラムを叩いてくれないと殺す”って頼んだ(笑)。ヒップホップやファンキーなドラムを意識し過ぎないで、ある意味メタルのサウンドに近い極端なことをやってくれってお願いしたよ。スクール・オブ・セブン・ベルズは、NYで活動中の新しいクールなバンドで、実はメンバーの一人が息子の母親なんだ。僕らは夫婦の関係を解消したけど、一緒に音楽をつくろうって思える仲ではいるのさ。ヴォーカルの元奥さんと、双子の妹のハモりがとにかく素晴らしいから曲に誘ったんだ。周りの反応もいいよ」
——4曲目「Class Of 73 Bells」でのコラボレーションですね。
「僕らの関係はまだギクシャクしているし、お互い視線を合わせない様にもしている。だけど息子にとっては、彼女と僕は家族だし、20年後に彼が「Class Of 73 Bells」を聴いて“わあ。2007年に二人で曲をつくったんだ”って思ってくれたら嬉しいね。“うちの親は二人ともクレイジーだ”って思うかもしれないけど(笑)。僕らはNYで別々に暮らしているけど、息子の人生にとっては二人セットで存在したいんだ。一緒に住んでいなくても、アーティストとして作品を共有できることの大切さが彼に伝わるといいな。例え望ましい状況じゃなくても、そこからポジティブなものは生まれるんだってね」
——心温まる話ですね。10曲目「17 Seconds Interrude」にフィーチャーした、トバイエス・ローハについても聞かせてください。
「ああ、彼はスウェーデンの出身でね。今年リリースしたアルバム『Time Is On My Side』が素晴らしかったんだ。僕はたまたまレコード屋で試聴したんだけど、本当に衝撃的だった。“コイツは天才だ”って確信したよ。どうにか彼のメールアドレスを入手して、連絡を取り合ううちに、コラボレーションの話になった。僕は人にプレフューズ73のアイデンティティーを押しつけるのは好きじゃないから、純粋に何が起こるか試してみようってノリだった。彼の声はとにかくすごい。まるでビヨークの男性バージョンみたいだ。自分の声を使って、いろんな不思議な表現ができるんだ。今後も一緒に曲をつくっていくつもりだよ」
——サンプリングも多く使用していると思うんですが、サンプルのネタは、どのようにして探しているんですか?
「僕の求めているトーンやサウンドは、いじりがいのあるものなんだ。だから、すでに完成されているファンクやジャズのレコードからは絶対に取らない。もっと曖昧で、サイケデリックで、風変わりなものとか、ニューウェイヴやロック、それにエクスペリメンタルなエレクトロニック・ミュージックみたいなものから、遊んで楽しいサウンドを取るのさ。フォーキーでサイケデリックなメロディーやハーモニーが好きなんだ。他にはスピード・メタルのサンプルも使うね。友達のレーベルが昔の貴重な音源を再発していてね、そこからアイディアをもらうことが多いよ」
ジャンルの壁をこえて
——プレフューズ73は、あなたのヒップホップ的側面を最も強く打ち出したプロジェクトですが、その幻想的な作風で、エレクトロニカ・ファンも獲得していますね。
「僕のショーにはヒップホップ・ファン、エレクトロニカ・ファン、インディーロック・ファンが来るけど、みんなが同じように楽しんでくれる。良いことだね。アメリカだと特にロック好きのお客さんが多くて、サヴァス&サヴァラスとか、別プロジェクトのファンがプレフューズ73もサポートしてくれるって感じなんだ。オーディエンスのタイプ、人種、年齢が幅広いのは嬉しいことだよ。ジャンルの壁を取り除いたのは、プレフューズ73が成し遂げたことの中でも最高のことだと思う。だから、ライブの趣向は毎回変えることにしているんだ。ある時は爆音ロック主体のショー、ある時は直球ヒップホップのショーっていうように、予想を裏切ることをやっている。人と人の間のバリアをなくすことが音楽の役目だと思うんだけど、まさか自分がそういう音楽をつくるとは思っていなかったな(笑)」
——現在の音楽シーンには“金、女、暴力、ドラッグ”をテーマにしたヒップホップが溢れかえっていますが、あなたはこの状況をどう見ていますか?
「僕はあらゆる種類のヒップホップを聴くけど、暴力とかドラッグがテーマのものを毎日聴きたいとは思わない。自分自身も荒れた環境で育ってきたし、今住んでいるのも夜中は麻薬中毒者がうろつくようなハードコアなエリアだ。だから、他人の持っている銃の種類が何だとか、何人殺したとかっていう歌を、わざわざ聴く必要はないんだ。外に一歩出れば本物を見れるんだから。ああいったヒップホップを聴いて、銃を持ったラッパーに憧れちゃうのは、都会に住んでいない子供達なんだよ。危険なことだと思う。“ヒップホップ=エゴ”という図式は昔から変わっていない。でも、それは人を撃つことじゃなかった」
——では、あなたの愛するヒップホップは、どんなものですか?
「ヒップホップにのめり込んでから20年以上経つし、それって自分の年齢とあまり変わらないから(笑)、それだけ長い年月をかけて聴いてきたってことになるね。僕の愛するヒップホップは楽しいもの。'90年代半ばくらいから暴力的なヒップホップが存在感を増してきたけど、僕は良いビートと良いラインを持ったヒップホップだけに夢中なんだ。エンターテイメントとしてのヒップホップは確かに存在するし、それは仕方ない。だけど、それが田舎の子供達に悪影響を及ぼす危険性については考えた方がいいと思う」
究極の目標
——ところで、前作『Security Screenings』をリリースした当時、あなたはブログで“次のアルバム(今作)がプレフューズ73としてはラストになるかもしれない”と公表していましたが...。
「あれは、あの時に感じていたフラストレーションをついブログに吐き出しちゃったんだよ。マネージャーなしで『Surrounded By Silence』のコーディネーションをやるのに四苦八苦してさ、すごく嫌気がさしていたんだ。“音楽なんて所詮ただのビジネスだ、それならクソ食らえっ!”って気持ちが、1、2年続いたかな。その後冷静になって、そういったストレスを抱える必要はないと気がついたんだ。自分が好きな音楽をつくって、好きなアーティストとコラボレーションすればいい。それは恵まれていることなんだってね。要するに、あの発言は単なるワガママだったってこと。多分、酔っ払っていたんだろうな(笑)。アホだよね。レーベルにも悪いことしたって思うよ」
——今作がラストじゃないことを願っています。
「大丈夫。プレフューズ73は常に色んな面で進化を続けていくよ。次のアルバムを出すには、かなり極端なコンセプトが必要だけどね。僕にとって特別な理由を持つサウンドをつくりたいから」
——楽しみにしています。最後に、今後の目標を聞かせてください。
「僕にとって究極の目標は、リスナーがどんな混沌や混乱の中にいても、何か精神的なつながりを感じることのできる音楽を提供していくことなんだ。自分の音楽を通してみんなとつながっていくことは、僕にとって最も大切なことなのさ」
interview & text SOICHIRO NAITO
translation KYOKO MAEZONO
HMVで購入↓
PREFUSE 73
Preparations
(JPN) BEAT / WARP / ????

