ROISIN MURPHY インタビュー125号
マーク・ブライドン、そしてロイシーン・マーフィーによる男女デュオ、モロコは、結成以来シーンに輝かしい足跡を残してきた。UKナショナル・チャート2位を記録し、プラチナ・ディスクの偉業を成し遂げたサード・アルバム『Things To Make And Do』('00)、よりポップでキャッチーなダンス・トラックをものにした最新フォース・アルバム『Statues』('03)と、その人気はクラブ・シーンにとどまらず、今やポップ・フィールドにまで波及している。 そんなモロコのボーカリスト、ロイシーンが、自身初となるソロ・アルバムを完成させた。プロデュースを手がけたのは、何とあのマシュー・ハーバート。ハーバート、ドクター・ロキット、レディオ・ボーイなど様々な名義を使い分け、リミックスやDJでも非凡な才能を見せる彼と、その歌唱力と美貌には定評ある歌姫の強力合体は、インパクト充分の化学反応を生んでいる。ちなみにマシューは、初の“マシュー・ハーバート”名義となるアルバム『Plat Du Jour』も完成間近。こちらも期待大だ。この1月、プロモーションで来日した二人に、今作『Ruby Blue』が生まれた経緯について聞いてみた。
―二人が初めて出会ったのはいつ頃?
マシュー(以下:M)「モロコのファースト・シングルからリミックスをやっているから、音楽的には長い関わりがあったね。でも、実際に会ったのはわりと最近のことだよ。ロンドンのクラブだったかな。レディオ・ボーイ名義で掃除機を使ったパフォーマンスをやった時、ロイシーンが来てたんだ」 ロイシーン(以下:R)「ええ、そうだったわね。.....ところで、あなたとは握手したっけ?」
―や、まだですね(笑)。
R「じゃあ握手! よろしくね(若干酔っている様子.....)」
―よろしくお願いします(笑)。あなたはマシューのどんなところに魅力を感じますか?
R「一体どうしたらあんなにアヴァンギャルドな音をつくれるのか、すごく興味があるの。キャリアも独特の道を歩んでるし、その意味でこれまでのリミックスも頼んでいたわ。正直言っちゃうと、彼以外に一緒にやりたいと思えるアーティストはこのシーンにいないし、そもそもソロ・アルバムだってつくろうとは思ってなかった。マシューがプロデュースをしてくれるっていう話が実現したから、このアルバムも制作することにしたの」
―逆にマシューは、ロイシーンのどんな才能に魅力を感じますか?
M「二つあると思うんだ。まず、メジャー・レーベルから4枚ものアルバムを出しているにも関わらず、自分らしさを常に保っていて、非常に面白いアイデアを持っていること。もうひとつは、独特のボーカル・スタイル。プロデュースを通じて、逆に色々なことを学んだ気がするよ」
―ロイシーンはモロコの歌姫として、今やポップ・スターの地位にありますよね。逆にマシューは、メジャーのレコード会社とは一切契約せず、マクドナルドやGAPの袋を破ったり、グローバル・カンパニーに対してラディカルな姿勢を続けています。端から見ると、とても不思議な組み合わせに感じるんですが。 M「ああ、それはよく分かるよ。ただ、僕は全てのメジャー・レーベルが悪いとは思ってない。そもそも僕が好きなレコード、例えばマイルス・デイビス、スティービー・ワンダー、クラシック音楽、いくつかのヒップホップ.....そのほとんどはメジャー・レーベルのものだしね(笑)。僕が批判しているのは、メジャー・レーベルの構造自体なんだ。音楽が巨大なビジネスになってしまっていることに、大きな不満を感じている」 ―それではアルバムのことについて聞かせてください。制作にあたって、2人でどんなことを話し合いましたか?
R「ジャンルがどうとか、スタイルがどうとか、決めごとは一切なかったわ。レコーディングからマスタリングまで、すべてのプロセスを丁寧にこなして、そこで生まれたものをピュアに受け止めていった。一緒にスタジオに入って、そこで生まれたものをありのままに音に込めただけよ」
―これまではモロコとして、マーク・ブライドンとコラボレーションを重ねてきたわけですが、何か新しい発見はありましたか?
R「もっと高い声も出せるんだ、っていうことを知ったわ。最初マシューにリクエストされた時は“そんな高い声、絶対無理!”って言ったんだけど、“大丈夫、やってみなよ”って言われて(笑)」
M「あれはグレイトだったね(笑)」
R「あと、必ずしもボーカル・ブースで録る必要はないんだ、っていうことも知ったし。彼は歌詞について一文字すら口を挟まなかったから、その点でも自信がついたわ。まだまだたくさんあるんだけど、これ以上挙げたら一晩中かかっちゃうから、これくらいにしとくわ(笑)。プロデューサーといっても、人によって全然違うものね」
―逆にマシューは、これまでダニ・シシリアーノのプロデュースを行ってきましたが、何か違いはありましたか?
M「今回ロイシーンには、メロディと歌詞を全て任せたんだ。初めてのソロ・アルバムっていうこともあって、かなり自由を与えている。例えば「Closing Of The Doors」では、僕がまるで予想していなかったところで彼女が歌い始めたんだ。でも、あえてそこでストップをかけないで歌わせてみたら、自分が思い描いていたよりも遥かに良い曲になったよ! プロデューサーとして、それは大きな発見だったね。ダニとやっている時は、メロディも歌詞も全て自分で用意して、ダニにはただ歌ってもらうだけっていう状態だった。今思い返してみると、ちょっと自由を制限しすぎてしまったかなって思う。ずっとスタジオにこもっていると、時々王様になったような気分になってしまうことがあるんだ(笑)。だから今度やる時は、ダニにも自由を与えてみたいと思ってる」
―マシュー、あなたの音楽には総じてポリティカルな主張が込められていますが、今作にもその思想は反映されていますか?
M「ポリティカル、っていうのは非常に個人的なことなんだ。人生そのものと言ってもいい。例えばスターバックスの従業員だったら、そこで働いているだけでも、世界に大きな影響を与える歯車のひとつになる。ピース・ボートで働いている人でも同じだよね。そこで働いているっていうことだけで、人から色々な想像をされたりもする。まあ、スターバックスに潜り込んで中から潰してやろうと考えている人や、ピース・ボートに潜り込んでいるCIAがいるかもしれないけどね(笑)。このアルバムの世界には、ジョージ・ブッシュもスターバックスも出てこないし、コカ・コーラの自動販売機も出てこない。そういった意味では、ある意味ポリティカルな主張が込められているとも言える」
―ジョージ・ブッシュの名前が出ましたが、昨年、あなたのように多くの人たちがブッシュ再選を阻止すべくキャンペーンを展開したにも関わらず、彼は再選を果たしました。果たして音楽に現実の世の中を変える力はあるのでしょうか。
M「まさに僕はそう思ってる。音楽は世界を変える、ってね。例えばレイシズムが激しかった時代でも、黒人の音楽はそれを越えてどんどん世界に拡がっていったし、今の時代にもそれが広く浸透していている。ストラヴィンスキーが曲を披露した時も、とてもクレイジーにみんなが暴れまくって、暴動が起きるほどだったそうだ。だから、音楽にそういった力があるっていうことは知っている。ただ、世界をどう変えていけばいいのかっていうことについては、まだ模索中って感じかな」
―最後にひとつ。このアルバム・タイトルはどちらの案?
M「これはロイシーンのアイデア。彼女のキャラクターそのものを表現しているんだ。“RUBY”は彼女の情熱的な面を表していて、“BLUE”はメランコリックだったりミステリアスな面を表している。歌詞もそうなんだけど、様々な意味合いを持っていて、人によっていろいろな捉え方のできる言葉が好きなんだ。君はこのタイトル、どう感じる?」
interview & text AKIHO ISHII
translation ALAIN BOSSHART
HMVで購入↓
ROISIN MURPHY
Ruby Blue
(JPN) ACCIDENTAL/HOSTESS / AC20CDJ


