THOM YORKE
THOM YORKE インタビュー139号
レディオヘッドのフロントマンであるトム・ヨークが、初のソロ・アルバム『ジ・イレイザー』を完成させた。メジャー傘下ではないUKのレーベル、XL RECORDNGSから唐突にリリースが発表された経緯も手伝い、目下世界中で大きな話題となっている。 レディオヘッドのサウンドにも大きく貢献してきたナイジェル・ゴッドリッチをプロデューサーとして起用した本作は、かねてよりソロ作の構想を抱いていたというトムが、二年ほど前から準備を進めてきたアルバム。タイトル曲「The Eraser」、ファースト・シングル「Black Swan」など全9曲を収録した約40分の内容で、サウンドの骨格はコンピュータでつくられている。そのエレクトロニックな音響世界は、レディオヘッドの『キッド A』(2000年)や『アムニージアック』(2001年)と表面上は連なるものだ。しかし、バンド・サウンドがベースとなっていたレディオヘッドの作品と比較すると、本作にはどこか自由奔放な質感がある。電子ビートに絡むギター、ベース、キーボードの音も、繊細なトーンで刻まれる電子音自体も、彼が自己表現をするために生み出した、パーソナルなテイストを持つものばかり。もちろんトム・ヨークだからして、メランコリックでペシミスティックなムードは健在だが、決して沈鬱なものにはなっていない。彼自身が“ヒューマン”と形容する、等身大のエモーションを堪能できる作品だ。 現在はレディオヘッドとしてツアーで新曲も披露しているというトム・ヨークから、『ジ・イレイザー』について話を聞いた。
―なぜこの時期に突然ソロを出そうと思ったのですか?
「リリースの経緯は唐突な感じがあるかもしれないけど、制作にはかなりの時間を費やしているよ。だから僕としては、やっと出せたって感じなんだ。ソロの構想は以前からあって、時期的には二年前のコーチェラ・フェスティバルの後、本格的な制作に入ったんだ。あの頃は、メンバー全員がレディオヘッドという怪物から少し距離を置こうとしていた。活動もストップしていた時期で、僕の方からメンバーにソロをつくりたいという話をしたら、みんな快諾してくれた。で、レディオヘッドでお願いしていたナイジェル・ゴッドリッチと一緒に制作に取りかかったんだ。メンバーの他には、誰にもソロの話はしていなかったから、発表したときは結構驚かれたよ。だから、“突然”という印象になるんだろう」
―レコーディングは、どういうスタッフで行ったのですか? 「今回は、ほとんどのことをナイジェルと僕でやった。ゲストを呼ぶとか、そういう発想はなかったね。一人で楽しんでつくった感じだ。ただ、ジョニーが一部で参加しているよ。一曲目「The Eraser」のピアノ・コードはジョニーさ。とはいっても、本人は(この作品に使われるとは)知らないで弾いてたんだけどね(笑)。僕が録音していたものを、録った一年後に“使っていい?”って聞いたら、“いいけど、お金ちょうだい”って言われたよ(笑)」
―ナイジェル・ゴッドリッチ以外の人と組もうとは思わなかったんですか?
「思わなかったね。特にこのアルバムは、ナイジェル以外は考えられなかった。ソロ制作は僕にとって初めてのことだったから、全体像から説明してくれる人が必要だったんだ。ナイジェルは制作の途中で“現在、位置はここだ”という説明をしてくれるんだけど、それが非常にうまい。だから安心して、僕なりのチャレンジができた。この作品にはエレクトロニックなパートが多いけど、もしそういったジャンルに特化したプロデューサーを選んでいたら、僕自身が挑戦できることは少なくなっていただろう」
―ソロ・アルバムとレディオヘッドの作品を比べて、制作面、精神面において違う点があるとすれば、どんなことでしょうか?
「一番大きな違いは、バンドとの関わりがないということだった。だから、発想も手法も出てくる音も全く新しかった。制作プロセスは、孤独でもあり、自由でもあった。朝から晩までコンピュータの画面を見ながら作業するというのは、不思議な感覚だったよ。だからなのか、長い間つくっていたわりには、あっという間にできあがった感じがする。あと違ったのは、今どういう制作状況にあるのかを誰にも説明しなくてよかったことだ。誰にも聞かれなかったし、誰も知らなかったから、伸び伸びとやれたよ」
―アルバム・タイトル『ジ・イレイザー』の意味を教えてください。
「今回のアルバムは、テーマとしては『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』に近いけど、アプローチの仕方が全然違う。現実のヘヴィネスに対して攻撃性を持った『ヘイル・トゥ...』とは違って、このアルバムではそのヘヴィネスから逃げたい、目の前へ迫っているものに目をつぶり消し去りたいといった、もっと“ヒューマン”な部分が出ているんだ。だから、“eraser(消し去る人・もの)”と名づけた。歌詞は、非常にパーソナルなものになっているよ。また、今回ジャケットをやってくれたスタンリー(・ドンウッド:レディオヘッドのアートワークを手がけている人物)は、切り絵でアートワークをつくってくれたんだけど、その手法にも合うと思ったのさ」
―この作品を手がけるにあたって、インスピレーション源となったのものは何ですか?
「モデルとなったのは『リメイン・イン・ライト』や『My Life In The Bush Of Ghosts』など、デイヴィッド・バーンとブライアン・イーノの作品かな。今作には、バンドとの関わりやバランスを考えることなく、ビョークのように自分でビートをつくって歌うという、シンプルな作業にあこがれてつくった面があるんだ」
―XL RECORDINGSからのリリースとなりますが、このレーベルを選んだ理由を教えてください。
「このアルバムは、会社の臭いがするメジャーから出したくなかったんだ。ソロをつくる発想やプロセスの根本には、自分なりのインディーズ・スピリットがあったからね。だから、XL RECORDINGS / BEGGARSはピッタリだった。それに、メジャーはアルバムができてからリリースするまでにすごく時間がかかるけど、インディーズはフットワーク良く対応してくれる。XLのアーティストも気に入っていたし、ナイジェルもXLを推薦してくれた。それで、今回は彼らに相談したんだよ」
―このアルバムを聴いたメンバーの反応は、いかがでしたか?
「嬉しいことに、気に入ってくれたよ。少なくとも、気に入ったと言ってくれている(笑)。これは、僕にとって凄く大切なことだ。どう思われるか心配だったし、レディオヘッドとは全く別のものだから、その反応を見るときは緊張したね」
―現在ツアー中ですが、今作の楽曲も演奏しているのですか?
「今回のツアーでは全く演奏していない。先日ソロ作があるということを発表したばかりだからね。でも、近い将来やるかもしれない。ただしバンド演奏用にはつくっていないから、やるとしたらアレンジをやり直す必要がある。今回のツアーでは、レディオヘッドの新作に入るであろう曲を多く演奏してるよ。どれも入るかもしれないし、どれも入らないかもしれない、といった状況ではあるけど」
―レディオヘッドのアルバム制作も順調に進んでいるんですか? 新作は、いつ頃に聴くことができるのでしょう?
「分からない。制作がスタートしているのかどうかも分からない。曲をつくって、ライヴで演奏してはいるけど、レコーディングが始まっているわけではないからね。まだまだ未定だよ」
THOM YORKE BIOGRAPHY オックスフォード出身のロック・バンド、レディオヘッドの中心人物であるトム・ヨークは、イギリスのイングランド中部、ノーサンプトンシャー州ウェリングボロー出身で、1968年10月7日生まれ。フル・ネームはトーマス・エドワード・ヨークという。エクセター大学時代の専攻は、英文学とアートだ。ベジタリアンで、人権問題や環境・社会問題にも積極的に取り組んでいることで知られている。なお、現在の彼は学生時代からの恋人、レイチェル・オーエンスとの間にノアとアグネスという子供を持つ、二児の父でもある。 レディオヘッドは、彼が中学時代に現バンド・メンバーであるエド・オブライエン、コリン・グリーンウッドと結成したバンド、‘On A Friday’が母体。その後、敬愛するトーキング・ヘッズの曲名にちなんで、バンド名をレディオヘッドに改名したという。
彼らは、1992年に全英チャート7位を記録した「Creep」でデビュー。
これまでにリリースしたオリジナル・アルバムは『パブロ・ハニー』(1993年:UK32位/US32位)、『ザ・ベンズ』(1994年:UK6位/US88位)、『OKコンピューター』(1997年:UK1位/US21位)、『キッド A』(2000年:UK1位/US1位)、『アムニージアック』(2001年:UK1位/US2位)、『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』(2003年:UK1位/US3位)と、6枚を数える。
特に、'90年代のロックを代表する傑作と評価され、全世界で600万枚のセールスを記録した『OKコンピューター』、グラミー賞の最優秀オルタナティヴ・アルバム賞に輝いた『キッド A』以降の活躍は目覚ましく、アルバム累計セールスは約2000万枚に及ぶ。名実共に現在のロック・シーンをリードするバンドと言ってよいだろう。 『ジ・イレイザー』は、そんなモンスター・バンドのフロントマンとして活躍するトム・ヨークにとって初のソロ・アルバム。トムは当初ファンクラブに「“ソロ”という言葉を聞きたくない」と宣言していたけれど、この点は本人も含めてなし崩しになっている模様。
interview HANAKO TABATA
text LOUD
photo SAYURI MANABE
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THOM YORKE
The Eraser
(JPN) BEGGARS JAPAN/XL RECORDINGS / WPCB-10001

