AFRIKA BAMBAATA インタビュー/LOUD119号
AFRIKA BAMBAATAA
Dark Matter Moving At The Speed Of Light
巨人動く 大地揺れる 胸躍る 感極まる――バンバータ降臨!
Fワードがやたら多く、女性をビッチと呼び捨てる今のヒップホップは大切なことを忘れている。基本は楽しむこと、人間を正しい道に導くことだ
'82年にリリースされた「Planet Rock」の狂喜は、すべてのダンス・フリークにファンタジーとリアリティーをもたらした。「ヨーロッパ特急」(クラフトワーク)の上で創造的に戯れるポッピン・スタイルのラップ。アフリカ・バンバータ率いるソウルソニック・フォースは、一瞬にしてテクノ・ポップと黒人音楽の歴史をひとつに束ねてしまったのだ。
バムはこう謳う。 「クラフトワークはファンクだ!」 いまだ鮮明な光りを放ちつづけるこのメッセージ。それはヒップホップだけではない、全ダンス・ミュージックが、この提唱にして発明(エレクトロ)による恩恵を蒙り、今日も深く激しく呼吸しているからに違いない。 折りしも8月末、バムは野外フェス<メタモルフォーゼ>に出演するため来日した。このインタヴューはそのときにおこなわれたものだ。取材中バムは、創造主のようにくり返し諭すのが印象的だった、「白人社会の秩序から脱却しろ!」と。それはブラックに偏向した思想とも違う、白でも黒でもない正義、倫理に照射しながら、未来の人間界に新たな生命力をもたらす哲学であり経典なのだ。
いずれにせよ、ここに投下された20年ぶりのTOMMY BOYレーベル復帰作『Dark Matter Moving At The Speed Of Light』がすべてを明らかにしてくれるだろう。伝説が蘇るとき、そこには新たな歴史が創られ、もうひとつの伝説が積み重なる。バムが動き出したとき、そう思うがいい。騒げ! 喚け!! 踊れ!!!
(このインタヴュー寸前......いや、100分押しで出先の秋葉原商店街から直行してきたバム)で、秋葉原体験はどうでしたか? 「モノが溢れてひとも多すぎて、クレイジーだな(笑)。まったく“ブレードランナー”さながらの未来都市じゃないか。だからどうしても行きたい場所だったんだ。待たせてしまって申し訳ない。そうだ、今オレの声を録ってるMD、こういったポータブルなものを探してたんだ。あいにく見つけられなかったけどな(苦笑)」
―ホントですか!? どこにでもあると思いますが......まぁそれはいいとして、今回のアルバム、いつもながらの“バム節”が冴え渡りながらも、始めから終わりまでひとつのトラック上にいろんなDJ、MC、シンガーがフィーチャーされるという、じつにセッション的な楽しみ方で聴かせてもらいました。
「そうか、そうだ、そのとおりだ。セッションというところでは、プロデューサーのウバーゾンによるフリースタイルな構成力によるところが大きいだろう。ただ彼のソロ、あるいはオレだけでやってる作品ならこういうベクトルには向かわなかったとも思う。いろんなアーティストが楽曲ごとに参加しているんだ。そうすることで、全体のバリエーションとかメリハリとかが強く出せると考えたからだ」
―先行シングルにもなった「Metal」(ゲイリー・ニューマン参加!)には、共同プロデュースにあたってるポール・デイリー(ex. レフトフィールド)の名が見られますね。彼とは'97年に「Afrika Shox」というシングルで共演してますが、そういった経験も含め、90年代はヨーロッパでの活動に積極的だったわけですが、やはり彼の地のテクノ・シーンからの影響や新たな発見はありましたか?
「それは違う。たぶん逆だろうな。彼らはオレからの大きな影響がある。もちろん唄ってくれているゲイリー・ニューマンは、オレが若いころからのアイドルだし敬意を表したい存在だ。クラフトワーク、イエロー・マジック・オーケストラといったアーティストにしてもな。でも彼らのはテクノ・ポップでありエレクトロ・ポップだ。オレがやってきたことは、それを“エレクトロ・ファンク”に作り替えたことだ。だから今回、新たな挑戦をしたかと言えば、それほどのものでもないだろう。昔から信じてやってきたことを続けてるにすぎない。 もちろん、ここでよく考えてみてほしい。今、新しいと呼ばれているサウンド、ドラムンベースだったりエレクトロ・クラッシュだったりラテン・ヒップホップだったりマイアミ・ベース......ヨーロッパに行くともっと新しいカテゴリーの音楽が生まれてるが、それらはみなエレクトロ・ファンクの遺伝子をはらんだ子どものようなものだ。プロディジーを聴いてもそう思ったし、ミッシー(・エリオット)の「Gossip Folks」を最初に聴いたときだって、“これはオレが今までやってきたエレクトロじゃないか”と思ったよ。彼らは彼らなりの語法で組み立てていることは認めるが、根っこにあるものはすべてエレクトロ・ファンクだ」
―現在のヒップホップに対する考えをもう少しお聞かせてください。不満とか不足しているところとかあったりしますか?
「そうだな......今、MTVやラジオから流れてくるヒップホップはリズムの速さがスローだよな。それが悪いとは言わないし、カッコイイものもあるぜ。ただグルーヴの高揚感とかとなると、それだとなかなか出てこないよな。オレが得意とするスピーディーなパーティー・チューンのヒップホップ、オレ流のヒップホップの復興を望みたいところだ。カラダを激しく揺らしてダンスする、ヒップホップの基本はこれだろうから。 あとリリックにしてもそうだ。Fワードが多かったり、女性をビッチと呼んだり、そういうのが主流にある。だが、オレはみんながイイ気持ちになることが重要で、楽しめなくちゃいけないと思っている。そういう排他的な要素はムダなものだ」
―具体的にこのアルバムだとどこらへんに当たるでしょうか。
「タイトル曲「Dark Matter」なんかそういう方向性があるだろうな。他にもアタマで考える、意識的なところへのメッセージも含まれてる。つまりどの曲にも“ズールー・ネイション”というオレ独自の哲学にも繋がるリリックが書かれているんだ。そこには古代エジプトにまつわる神秘的な神々が登場してくるんだが......アフリカだけではない、日本にだって中国にだってそういうのはあるだろう。そうだ、オフだった昨日、京都へ行ってお寺や神社参りをしたが、入り口のところにいるドッグ......? コマイヌというのか、そういう神として崇められている日本のものにもおなじスピリチュアル性はあると信じている。 たとえばだ、長年続いた白人主義によって肌の色で人間の価値観は識別されるようになってしまったが、これなど理不尽極まりないことじゃないか。もちろんそんなこと、神々の前では何の意味も持ちはしない。人間は太陽の光と大地を打ち鳴らす振動によって目覚め、今日まで生き続けている。そういうルーツにもういちど立ち返る必要があるんだ。そういうメッセージが込められているんだ」
―いっぽうで、テクノロジーに対する急速な取り組み方もバムさんを特徴とする面ですよね。
「テクノロジーの発達は否定しない。なにしろエレクトロの要素はそれに負うところが大きいしな。ただ、そのいっぽうで失われてしまうもの、情報が正しく伝達されてなかったり、勝手に操作されてしまうところへの不信感、不安感というのもあるし、それに対しオレたちは厳しい眼で監視してなくちゃいけないんだ」
―では、そういった啓蒙的な意識が反映されたトラックは?
「これにしてもタイトル曲になるだろう。あとは「2137」。これは『フィラデルフィア・エクスペリメント』('84年作/監督スチュアート・ラフィル)という映画にインスパイアされて生まれた曲だ。その映画はこういうものだった。第二次世界大戦中にUS海軍が極秘に進めていた政府組織の実験プロジェクトが題材になっていて、タイムゾーンを越え人間が自由に空間移動できるという話なんだ。人間を未来に送り、のちに過去の遺産として発見されるという、“クレイジー!”(笑)としか言いようがないストーリーだ。たいがいの人間ならそうやって笑い飛ばすだろうが、オレはあながちウソでもないとも思ってる。最近ニュースに流れる怪奇現象さながらの事件、事故なんかイイ例だろう。つまりこれまで蓄積してきた常識だけで物事を推し量ることはできなくなってるんじゃないかということだ。“なぜだ?”と考えたときに思いつくのは、さっきも話したように白人たちが我々に正しい情報、知識を与えていないからということじゃないか。12月25日にキリストは生まれたとか、コロンブスがアメリカ大陸を発見したとか、そういった歴史を誰もがシェアしコモンセンスのように認識してしまってるが、それは本当に正しいのか、そういうことを再確認する時代が訪れてると思う。我々の生活をコントロールしかねない、そういった世の中のトリックを暴く時代なのでは、とな。今世紀にやるべきことは、これまでの情報を採集、再検証し、正しく改め整理すること。そういうことを唱えてるのが、まさに「2137」なんだ。「2137」という数字の意味するものは、『フィラデルフィア・エクスペリメント』で時間旅行したときの年代が“2137年”だったからだ。
―深い!
「おなじような例で『2001年宇宙の旅』があるだろ。あれは制作当時、ファンタジーとして扱われたが、今ではリアリティーに変わっている。しかし、こんどそれがリアリティーだと思い込んでいれば、バーチャル・リアリティーだったりもする(笑)。『スター・トレック』なんかもそうだ。あそこに出てきた舞台セットは、たとえば空港の動く歩道として現実となり実用化されている。こういうことを見ても世界は変わってきてるんだ。いや、生活環境だけではなく人間の意識も変わってきている。そういうことを見つめ直すのはとても重要だろう」
―ジェイムス・ブラウン、ジョン・ライドン(ex. セックス・ピストルズ、PIL)、ビル・ラズウェル(ex. マテリアル)など、異種格闘技ともいえる大物(&クセ者)との共演によっても、そういった潜在意識は引き出されたのでしょうか。
「ああ、そういう場合もあったな。かつてジョン・ライドンと共演したときなどイイ例だろう。知ってるとおり、彼はまったく違う畑の人間だ。そんなヤツとの共演など失敗に終わるだろうと、みんなタカを括っていた。だがオレは、いろんな人間とやることで特別なスピリットが降臨してくることを信じていたんだ。実際、そうやって完成されたのが、ジョンとの「World Destruction」('86)だったし、周りの連中が驚いたほどの作品を生み出すことに成功したんだ。この新作にも言えることだろうな。もちろん基盤となるのはズールー・ネイションという思想であり、人との出会いによってそれはますます強い意識のもと、働きをみせるものなんだ」
―今回、特別なこととして古巣のTOMMY BOYレーベルへの復帰ということが挙げられますが、これについてはどういうお考えがありますか?
「そうだ。TOMMY BOYはオレにとって特別なレーベルだ。音楽ビジネスとして関わった最初のカンパニーだったからな。'85年を最後にオレは他の会社に移籍してヨーロッパのテクノ系レーベルなんかとも組んだけど、こうやってふたたび戻ってきたんだ。とてもうれしいし、新たな心境に立ち返った気分だ。オレは他にも自分のレーベルを持っていて、そこからもアルバムをコンスタントに出してる(注釈:近作は今年の『Everyday People/The Breakbeat Party Album』)。こっちは普遍的なヒップホップというか、トラックのプロダクションを重視したものだ。基本にあるのはパーティ・チューン。Bボーイ、Bガールという存在もまた復活してきてるし、イイ風が吹きはじめたと思ってるよ」
―TOMMY BOYはあなたに何を期待してると思いますか?
「それならTOMMY BOYとの再契約の話を先にしておいたほうがいいだろう。もう4年前になるが、こういうことがあった。'00年にTOMMY BOYはレーベル設立20周年を記念したパーティをおこなった。そこにオレは招待されたんだが、ひさびさにトム・シルヴァーマンと会ったんだ。そうだ、オーナーだ。彼はオレのところに寄ってきて、こう声をかけてきた、“こんどは20年というお互いの絆を音盤に刻まないか”と。そう、もういちどアルバムを出してほしいってことだ。オレは返事に迷うことはなかった。答えはひとつしかないからな」 ―90年代全般のTOMMY BOYはR&B路線に走ったりラテン・ダンスなアーティスト育成にも積極的だったりしましたが、ここ最近は当初のエキセントリックな刺激を満たすような作品もリリースされてきてますからね。たとえばブルックリン出身のファニー・パックなんか。昔のバムさんの時代でいうならスウィート・トリオ(注釈:ブギー・ボーイズ「A Fly Girl」のアンサー・ソング「Fly Guy」を出した一発屋)みたいにガーリーなノリがあって面白い。 「具体的にどういう作品がリリースされてるかはわからないが、さっきの質問に対する答えとしてオレが思うに、この先、さらにオルタナティヴなものが必要になってくると、トムは考えたんだろうな。それは何かといえば、くり返しになるがエレクトロ・ファンクということだろう。ダンスを目的としたヒップホップをもういちど発信したいというプランが彼のアタマの中にはあったと思う。そうさ、オレの得意としてるところだ。もちろんオレは、彼やTOMMY BOYの考えに賛同して、こうやってリリースしたんだ」
―ここからはメンツ、プロダクションの話に移させてください。まず、いちばん出番の多い“キング・カモンジ”というMCはどういうひとですか?
「カモンジは、ユニバーサル・ズールー・ネイションを通して発信すべき若手スポークスマンと呼べる存在だな。この数年間、オレが信頼を置いているMCだ。今回の<メタモルフォーゼ>にも連れてきたから、そのスキルは日本のオーディエンスの記憶にも残ってるだろう」
―カメルーン出身のマヌ・ディバンゴのレアグルーヴ古典「Soul Makossa」を取り上げ、2ステップにアレンジしていますが、カヴァーすること自体、バムさんにとって意外とめずらしいことですよね。
「そうかもしれないが、この曲は昔からのフェイヴァリット・ソングなんだ。そうだ、かつてマヌとは実際にコラボレーションしたことがある。彼はすばらしいミュージシャンだし、アフリカン・スピリットというものを大切にしている人間だ。カヴァーした理由もそういうところにあるだろうな」
―「Soul Makossa」もそうですが、全体を通して今のダンス・アルバムとは違うというのを強く感じました。それは“非4つ打ち”であるということ。全体的にBPM120前後なのに、キックはぜったい4/4にならない。昨今のクラブ・ミュージックは全般にハウス化してて画一的になってきてる。何かこだわりとかあったりするのでしょうか。
「答えはシンプルだ。それは私のやってることがヒップホップでありエレクトロ・ファンクだからだ(笑)。ただ、4/4なりハウスをやらないのではなく、やる必要がないだけで、今後は取り組むかもしれないし、いや、わからないな。でも、4曲め「Take You Back」あたりは部分的にハウスというものを取り入れてたりするんだが......そこらへんの事情はよくわからないから、あまりツッこまないでくれ(苦笑)」
―では最後に日本のBボーイ&Bガール、ホーム・ボーイ&ホーム・ガールに強力なメッセージを!
「おぉ、<メタモルフォーゼ>では日本のブラザー&シスターたちと接触できてサイコーだったぞ。そのときの彼らのように、このアルバムを聴いて思いっきり楽しんでほしい。あと、来日するたびにお寺に立ち寄るようにしてるが、どの国に行ってもスピリチュアリティーの大切さを痛感させられるよ。いいか、西洋の社会体形態の中で仕事をしたり秩序を背負って生活をしているひとが多いが、いつでも自分の精神力を取り戻し発揮できるような環境を準備しておいてほしい。同時に、ユニバースとアースに対するリスペクトも忘れるな。地球環境の破壊による犠牲者はオレたち自身なんだから。限りある資源を大切にすることだ。ピース、ラヴ、ユニティー!」
interview & text 若杉実


