AUDIO ACTIVEインタビュー/LOUD118号
キミが思えば、宇宙はそこに現れる
オーディオ・アクティブのインストゥルメンタル集『Melt 2』
誰しも音楽にうっとりさせられ、身体が舞い上げられるような瞬間を感じたことがあるだろう。音楽が我を忘れさせてくれる瞬間というのは、自分自身と世の中とを繋いでいる枠組みが突然ぶらり外れてしまう、そんな瞬間だ。それは社会的な束縛やルールからの脱出と解放というよりも金属が溶解していくような瞬間で、とても生々しいものだ。その瞬間をバンド内のセッションを通して捕まえること、あるいは自らも我を忘れるような状態のなかで音楽の快感を録音物に残すこと、それがオーディオ・アクティブのインストゥルメンタル集『Melt 1』だった。まさに「じっくりキマりたい時に聴く(効く)」というお題目通り、『Melt 1』は音の強弱だけでも人体の感覚が覚醒されるその瞬間を捕らえている。それはダブの奥義であり、オーディオ・アクティブの音楽を構成する主要な成分でもあるが、『Melt 1』はその自由度がオリジナル・アルバムよりもはるかに高い。純粋にその音響を感じることを目的とした『Melt 1』は、記号としてのダブを溶解させた音の記録である。それはダブの概念を理論づけることへの拒絶と抵抗から生まれているようにも思える。周りくどい言い方だが、純粋に音を感じることに対して多くのアーティストが躊躇し踏み込めないでいるプリミティヴな領域にオーディオ・アクティブは突き進んでいる。そして2年ぶりにリリースされた『Melt 2』は、さらにその情熱をメラメラと燃え上がらせている。『Melt 2』をCDプレイヤーにセットしてボタンを押せばそこから先は境界線のない、無限の宇宙が広がっている。こんなことを言うと、ただのブッ飛んでいるヤツだと思うかもしれない。しかし、メンバーの七尾君は無限の宇宙についてこう言う。「自分が思えばそこにあるもの」それがコズミック感覚だと。まったくその通りだと思う。さあ、なにも戸惑うことはない。心の扉を開いて『Melt 2』を聴こう!
—まず、『Melt 2』制作のインスピレーションというところでは、人里離れた山中(長野県戸隠)の環境が大きいんでしょうか?
K(河西)「デカイですね。ペンションに機材を持ち込んでレコーディングしたんですけど、そこの周りから聴こえるのは、風の音と木々が揺れる音と鳥の鳴き声と虫の声だけなんですよ。あまりに静かな空間でビックリしました。なによりも雑音や騒音が一切ないっていう部分で、音に対して真っ白になれるというか。そういう環境に身を置けたことがまず良かったです」
—レコーディング環境が大きいのかもしれないけど、コズミックな感覚が全面に出ていると思って。
K「ほぅー」
—もちろん、オーディオ・アクティブのオリジナル・アルバムにもコズミック感覚はあるんだけど、それ以上に自由度が高くてエモーショナルな雰囲気を感じて。そこはオリジナル・アルバムとは大きく異なる点だと思ったんだ。
「正にそこだと思います。オリジナル・アルバムの場合だと雑念というか、オーディオ・アクティブはこうじゃなきゃいけない、みたいなイメージが自分のなかにあると思うんです。ま、そう感じているのはオレだけかもしれないですけど(笑)、でも『Melt』を制作しているときは雑念に捕らわれないでやっているんです。そこですね」
—例えば、4曲目の「Monody For Rain」は河西君のギターが印象的な曲ですよね。もの悲しい感じではあるんだけど、でも強いパッションを感じる。ああいう感じはオリジナル・アルバムではあまり伺い知れないところだよね。
「そうですね。あのフレーズもアコギをポロポロ弾いているうちに出てきたもので、こういうフレーズが生まれちゃったんだから録るしかないっていう気分なんですよ。後半にはギター・ソロが入っているんですけど、あれもギター・ソロをやろうと思っていたわけじゃなく、ただ弾きたかったから弾いたんです」
—「Monody For Rain」は雨の日につくった曲なの?
K「ちょうど台風がきていたのかな。曲頭とか雨音が入っているんですけど、あれは部屋の窓を全開にして雨音をおもいっきり拾うようにしながら、アコギを同時に弾いて録ったんです。それにアコギはオーディオ・アクティブでは使ったことがなかったから」
—あっ、そうか。
K「ええ、だから使いたかったんですよね。オレがアコギの音を録っていたら、七尾君がドラム叩くって言って二人で演奏したものなんだけど、録音したあとに“アコースティックいいなー(笑)”っていうカンジはありましたね」
—「Monody For Rain」の後半は、ジミ・ヘンドリックス的なエレキ・ギターが炸裂しますね。
K「オレのなかではトム・ヴァーレインかな(笑)」
—テレヴィジョン。
K「ええ(笑)。でもジミ・ヘンはいつも頭から離れないですね。あの人のレコードは聴く度に発見があります」
—ギタリストとしてはジミ・ヘンに最も影響を受けたという感じですか?
「存在として巨大な人ですよね。ギター・プレイ的なところだったらジェフ・ベック大好きだし(笑)、そういうギタリストはたくさんいるんですけど、ジミ・ヘンはそれを軽く超えちゃってますよ」
—確かに! ところで、最近良かったレコードはありますか?
K「TROJANからリリースされたジャー・ウォーブルの3枚組のアルバム『アンソロジー』、あれはいいですよ。あの人、P.I.Lやる以前はベースも素人だったんだけど、我流で好きなことをやりつつも、ポップ・ミュージックにも影響を与えているところが“スゲェーや”っていう(笑)。そういう人に憧れますね、型にはまらずに自分の音を出している人が好きです」
—今、我流をやるのは難しいよね。
K「ええ。今こいつ“スゲェー”って人、誰がいますかね?」
—どうだろう? もし、それを突き詰めるんだったら、それこそ人里離れたところに行くとか。
K「でも、それだと単なる変わり者になっちゃう(笑)。それで片づけられちゃうし、世捨て人にはなりたくはないし。我流を突き詰めながらも社会との繋がりをもちつつ。大事なのはそのバランスなんですかね」
—ということは、『Melt』の音宇宙は現実逃避というわけではないんだね。
K「それは一切ないです。メンバーそれぞれの宇宙が出ているんでしょうね」
—じゃあ、河西君にとってコズミック・サウンドにはどういうイメージがありますか?
K「オレの場合は、子供の頃からその感覚は変わらないんですよ。子供の頃に感じたことは今もずぅーとあるもので、たぶん永遠とか無限とか境界線がないとか、そういうイメージなんですよ」
—ところで、今日はあの話をしようと思って取材しにきたところもあるんだ。
K「『Melt 1』のレヴューの件ですよね(笑)」
—(笑)そうそう。あのレヴューでオレは『Melt 1』には「ユーモアが足りない」ってことを書いて。それを読んだ河西君は、当時ラウドで連載していたコラムに「一度酒でも飲みながら話をしましょう」って返事を書いてくれたよね。まあ、とにかく、正直に告白すると、あの時のオレは『Melt 1』に接する以前にSF的でユーモラスなオリジナル・アルバムの世界をそこにイメージしていたから“ナンダこのダークな音は?”と思ってしまったんだよ。
「そういう人、多かったと思います。当時、同じような意見はそこら中で聞いたんで。やっぱ、オーディオ・アクティブはそういう風に思われているんだなって」
—それが『Melt 2』では、まず音を感じることが大切なんだなと思ってね。なぜそう感じたのかうまく説明できないんだけど。
K「大村さん(2DD)ともよくその話をするんですけど、当時リリースしたときは周りの評判もあまり良くなくて。“えぇー、こんなの出しちゃっていいの?”くらいの感じだったんですよ。でも、時間の経過とともに自分の中でも“これはすごくイイ作品だな”って思えてきて。それはなんだろうって考えたら、純粋に音楽に向かっているからなんです。その部分が一貫しているんだなっていうことがわかったんですよ。不純物ゼロみたいな(笑)。『Melt 2』もそういう意識をもって創ったつもりなんです。だから“この世界がいいなー”って感じられれば『Melt 1』も好きになれると思います。遡って『Melt 1』も聴いてほしいっていうところはありますね」
さて、河西君へのインタビュー終了後、沖縄にいる七尾君に電話をかけた。というのも、彼は沖縄移住を計画しているそうで、いまはその下準備のため現地を訪れているのだという。会話は10分ぐらいの短い時間だったが(テープが終わってしまったのだ)、それでも興味深い話を訊くことができた。
—長野県戸隠のペンションでレコーディングしたということだけど、実際やってみてどうでしたか?
N(七尾)「自分たちで場所を選んでレコーディングしたのは今回がはじめてだったから。それはすごくいい経験でしたね。なによりも場所を変えて録ったことが」
—それはリラックスした雰囲気のなかでレコーディングできたということなの?
N「もう完全にそうですね」
—人里離れたところでレコーディングしたことについて、河西君は音に対して集中することができたと言ってましたが、七尾君はどうですか?
N「かなり集中できました。それから音が出来上がっていく様が面白かったですね。次はキーボードを被せていくとか、ギターを被せていくとかいう感じで、レコーディングするというよりもレコーディング体験みたいな感じ。自分的には今回は完全にドキュメント・タッチといいますか(笑)」
—ぼくは『Melt 2』にコズミックな感覚とメルヘンの世界を感じたんだけど。
N「それはレコーディングが七夕だったからですね(笑)。6月と7月の2回にわけて行ったんですけど、確か七夕の日がありましたね。夜は星空も綺麗だったし、静かな場所だったんでかなり耳が冴えました」
—それにしてもエモーショナルなサウンドが表現されていますよね。
N「完成する音を考えながらつくったというよりは、ホントにドキュメントですね。今、長野で録っている、メンバーがこういうことをしている、みたいな感じが記録できれば良いというか」
—とにかく、東京とは時間の流れが違ったんじゃないですか? ゆったりとした時間が流れているというか。
N「場所が違うと現実が違うというのかな。かつて海外ツアーに行って向こうの街並みを見たときにも感じたことなんですけど、その時と同じ目線で日本を改めて見ることができた。それは自分自身に対してもそうだけど」
—ところで、七尾君はコズミック感覚というものをどう定義します。
N「自分と関係なく存在しているというよりは、自分が思えばあるもの。例えば、CDを再生したら部屋の空気が急に変わるみたいな。そして聴いてるときに実際に現実に作用する生々しい音っていうか。そういうのがやりたいなと思っています」
—また、『Melt 2』のコズミック感覚にはカオティックな感じもあるけど、ラヴ&ピース的なムードも強く感じられるとぼくは思っているんだけど、この意見ついてはどう思いますか?
N「ラヴ&ピースって表現が正しいのかわかんないんだけど、それに近いものは確かにありましたね。実際、地元のオーディオ・アクティブ・ファンのコたちが来たりしたから。やっぱり応援されているような態勢でレコーディングしていると気持ちも違う(笑)。“どうせ、みんなわかんねぇーよ”っていうネガティヴな気持ちにはならなかったです」
interview&text:小林正弘


