CUT CHEMIST

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CUT CHEMIST インタビュー/LOUD140号

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CUT CHEMIST
The Audience's Listening
(JPN) WARNER / WPCR-12372
ソロ活動で飛躍する世界的ターンテーブリスト

カルフォルニア出身のヒップホップDJ、カット・ケミスト。Q-バート、DJシャドウ、ミックス・マスター・マイク、DJ KENTAROらと同様に、世界屈指のターンテーブリストに数えられる凄腕だ。
ダンサブルなオールド・スクール・テイストが持ち味のヒップホップ・グループ、ジュラシック5におけるプロデューサー / DJとしてもお馴染みだろう。近年は実験的なソロ活動にも精力的で、DJシャドウと7インチ盤のみを音ネタに使ったコラボレーション企画“Product Placement”を行ったり、STONES THROWのマッドリブらと共に、伝説的なベテラン・ドラマー達と“Keepintime”でセッションに取り組んでいた。
卓越した技術、深い音楽知識、前衛的な姿勢という三拍子を兼ね備えた、類い稀なる存在だ。
 ここで御紹介する『The Audience's Listening』は、そんな彼が完成させた初のソロ・アルバム。
ジュラシック5でも定評あるサンプリング・センスとDJスキルが、いかんなく発揮されている。全12曲中10曲がインスト・トラックになっているため、秀逸なサウンド・プロダクションもじっくり堪能できる。
ヒップホップ・ファンのみならず、幅広い層にアピールできる充実作と言ってよいだろう。
 ようやくソロ活動も結実し、順風満帆に見える彼だが、一つ気になる情報が入ってきた。
時を同じくリリースされる、ジュラシック5本体のサード・アルバムに、彼の名前がクレジットされていないというのだ!  そこでLOUDは、カット・ケミストを電話でキャッチ! ソロ活動に込める想いと共に、ファンが囁く噂の真相を聞いてみた。

ファットボーイ・スリムやモービーのように、 キャッチーでポップだけど、DJミュージックとして成立する音楽をやりたいと思った。 サイケデリアとヒップホップ・カルチャー両者のインパクトを、アブストラクトに交ぜ合わせた。

―ジュラシック5(以下、J5)での活動や、DJシャドウとのコラボレーションなどで大忙しだったと思いますが、今作の制作はいつ行っていたんですか?
「4年前から少しずつ始めていたけど、本格的に動き出したのはJ5を離れた後だな」
―J5を脱退したんですか?
「そう。このレコードをつくるためにね」
―“J5抜けたんですか?!”っていう質問は、もうイヤというほどされたかと思いますが......。
「そうだね...。それがホットな話題だってことはわかっているよ。俺はソロとしてワーナーと契約していたんだけど、J5の活動で忙しかったから、2年経っても作品を完成させることができなかったんだ。だから、2年前にJ5のツアー・スケジュールを3ヶ月先まで渡された時、脱退の意志を示したんだ。ツアーをやっていたら、いつまで経ってもソロ・アルバムを完成させることができない、このままじゃワーナーから契約を切られるし、ソロ・アーティストとしてのキャリアが終わってしまうと思ったんだ。俺がやりたいことの全部をやるのは無理だってことを、(J5の)みんなは理解してくれたし、サポートもしてくれたよ」
―もうJ5とは活動を共にしないんですか?
「できたらいいな...。もし彼らにインタビューする機会があったら、“もう一度入れてくれ!”と伝えてくれよ(笑)」
―え!?
「いや、伝えないでくれ(笑)。こういったことは繊細に扱わないとな。ずっと友達なのは確かだけど、舞い上がったホコリがまた落ち着くには時間がかかるものだから...」
―では、そうまでして制作を進めた今作に込める想いを聞かせてください。
「昼間のラジオで流れるような、ポップ・レコードをつくりたかったんだ。ファットボーイ・スリムやモービーのように、キャッチーでポップだけど、DJミュージックとして成立する音楽をやりたいと思ったんだ。同時に、俺自身のスタイルはシリアスな正統派ヒップホップだから、ヒップホップをルーツに持つ、ディープなクオリティーも必要だった。ポップなのに、ヒップホップのルーツも持ち合わせている、シュールレアリズムを狙ったつもりだよ」
―その挑戦には成功したと思います?
「聴いた人はキャッチーだと感じてくれるだろうけど、ラジオでかかるかと言ったらどうだろうね。J5は(新作に)デイヴ・マシューズを迎えたから必ずラジオでかかるだろうけど、俺のアルバムにはデイヴ・マシューズがいないから(笑)」
―でも、アストラッド・ジルベルトがいます。
「その通り! (今作を)聴いたみんなは、あの曲が好きになるだろうな」
―その曲「The Garden」では、伝統的ボサノヴァ・ソング「Berimbau」を歌う、アストラッド・ジルベルトのボーカルを全面にサンプリングしていますね。ここまで長く、しかも何パートものフレーズを使用しているので、アストラッド・ジルベルトのリミックス曲を聴いているような感覚になりました。
「もともと「Berimbau」というタイトルにしようとしていたんだけど、法律アドバイザーが反対したんだよ。カバー扱いでタイトルをそのままにしてしまうと、俺の出版権が一切なくなってしまうからね。サンプルを使っていても、タイトルを新たにつければ、部分的にでも自分で出版権を持てるんだ。この曲の権利に関しては、50%を俺が持っているよ。今はこの曲を、マッシュアップと俺は呼んでいる(笑)」
―ははは(笑)。
『The Audience's Listening』というアルバム名の由来を教えてください。
「J5のチャリ・ツナからもらったタイトルなんだ。20年ぐらい前につくった歌詞の一部だよ。当時“いい響きだな。いつか俺がソロをやるとき、これをタイトルに使っていいか?”と聞いたら、“問題ないぜ”と言ってくれたんだ。本当は“The Audience Is Listening”なんだけど、アルバムができた時、法的なトラブルを未然に防ぐため“Is”を“'s”に変えたんだ」
―法律の問題が、たくさんあるんですね...。
「大きな会社との仕事だからね。相手は変化球も投げてくるけど、うまくかわす方法は必ずある。クリエイティブであればあるほど、投げられたボールはちゃんと投げ返せるものさ。俺はけっこう楽しんでるよ。緊張感があっていい」
―今作には、スクラッチに代表されるヒップホップDJのスキルを存分にちりばめていますね。そこに新たな挑戦はありますか?
「たっぷりあるよ! 「A Peak In Time」では、ハーモニー・スクラッチをやった。ボーカル・アレンジ vs スクラッチというのは誰もやったことがないだろう。「Berimbau」、あ! 間違えた。君のせいで「Berimbau」って言っちゃったよ(笑)。「The Garden」でもやったよ。トラックを幾重にもレイヤーして、スクラッチでボーカル・ハーモニーをつくったんだ。「Spat」では、ターンテーブル・カンバセーション・スクラッチをやった。この曲では、2台のターンテーブルが電話を介して言い争っている。俺はスクラッチで言葉を発するように音を出せるんだ。同じようなことを、ジャズ・ピアノを使ってもやってみた。これも新しいスクラッチと言えるだろうね。それから「My First Big Break」は、パンク・ロックでロカビリーでサーフぽい曲だけど、最後の方にやったスクラッチでは、シンコペーションをかなり使っている。オフビートにすることによって、そこに存在しないビートを感じさせられるんだ。俺はスクラッチでいろんな技術を開発しようとしているんだよ。多くのDJは、あまりしていないと思うけど」
―でも20年前と比べたら、ターンテーブリストのスキルは格段に向上したと思いません?
「もちろん。でも、何か新しいトリックを開発しようとして、テクニカルになりすぎて、エンターテイメントの枠から逸脱してしまうケースが多いな。そういうものは、俺には数学のように、まるで方程式のように聞こえる(笑)。とはいえ、おもしろいヤツもいるな。例えばキッド・コアラはスゴいよ」
―キッド・コアラもDJシャドウと共演していますね。彼との共通項を感じますか。
「シャドウがプログラミングをベースにしているのに対して、俺はカッティングが基本だ。その辺がキッド・コアラと似ているかもね。キッド・コアラがカッティングの極地にいるとしたら、シャドウはプログラミングを極めている。俺はその中間で二つを融合させようとしている感じかな」
―今作の中で、最も思い入れのあるトラックはどれですか?
「俺にとって変わったサウンドになった「What's The Altitude」だな。これまでに自分が使ってきた、なじみ深いサウンドを歪めたものとも言える。俺ががこれまでにどういう軌跡をたどり、どこへ向かっているのかがわかる曲だ。この曲がたぶん最もポップのポテンシャルを持っていると思う」
―「What's The Altitude」には、ヒムナルというMCをゲストに迎えていますね。
「彼は中学1年からの親友だよ(笑)。素晴らしいスポークンワードのアーティストで、ラッパーでもある」
―子供の頃からの付き合いってやつですね。どんな時間を一緒に過ごしていたんですか?
「数学の宿題(笑)」
―それから(笑)?
「“デ・ラ・ソウル、パブリック・エナミー、ア・トライブ・コールド・クエストたちの音楽が意味するものは一体何だろう?”と、哲学的に分析していた。あと、俺たちはラップ以外に、フォークやロックをリスペクトしていた」
―フォークやロックですか。今作からは、“B-BOYアティチュードに乗っ取った、アブストラクトでサイケデリックな世界”という印象を受けましたよ。
「まさしくそのとおり。ほかに良い表現は、俺自身も思いつかないな。いや、ホントに。俺はサイケデリアの概念を取り込んでいるし、それはヒムナルと哲学的に語り合っていたことに通じるんだ。今作では、サイケデリアとヒップホップ・カルチャー両者のインパクトを、アブストラクトに交ぜ合わせたのさ。ピンポイントに表現せず、全体をぼやけさせることで、ある一つのカテゴリーに入れられることから回避できたと思う」
―最後に今後の予定を教えてください。
「アルバムのツアーをするよ。10月には日本にも行く。アルバムに参加したアーティストではないけど、ラッパーを一緒に連れて行く予定だ。楽しい旅になるだろうな。10月に日本で会おうぜ!」

interview & text SOICHIRO NAITO
translation ERIKO HASE