DJ KENTARO インタビュー/LOUD147号
ターンテーブリズムの壁を越えて
“No Wall Between The Music=音楽に壁はない”。
これは'02年に世界最高峰のバトルDJコンペティション
そんなdj KENTAROの音楽性が、このたびNINJA TUNEから世界リリースされる、初のオリジナル・アルバム『Enter』にて結実した。ヒップホップ、ブレイクビーツ、ドラムンベース、ハウス、レゲエ、エレクトロニカなど、多彩なジャンルをクロスオーバーさせた今作は、まさに“No Wall Between The Music”を体現するもの。ファーサイド、スパンク・ロックなど豪華なゲスト陣も、サウンドにさらなる広がりを与えている、
ターンテーブリストの領域を飛び出し、より幅広い層からの注目を集め始めたdj KENTARO。彼のクリエイター・スピリットに迫るべく、対面で話を聞いた。
アンダーグラウンドでもオーバーグラウンドでもない、これが俺のニューグラウンド。
—なぜオリジナル曲を制作しようと思ったのですか?
「パフォーマンスを、自分のヴァイナルでやりたかったからです。ライブ・リミックスをやったり、会場に来た人だけが聴けるバージョンもつくってみたかったんです。自分の曲とDJプレイで持ち味を出したかったんですよ」
—アルバムは、どのようなスタンスで制作しましたか?
「ファースト・アルバムなんで、自分の集大成を含めた内容にしたいと思いました。例えば一曲目「Enter The Newground」のテーマは“アンダーグラウンドでもオーバーグラウンドでもない、これが俺のニューグラウンド”というものなんですが、そこには同時に“俺がこの世に生まれてくる” みたいな意味も持たせています。また、世の中の全てはサークルを描くようにループしているという考えから、“円”という言葉の響きもアルバム・タイトルに使っています。あと、俺にしかわからない部分かもしれないけど、微妙な音づかいで四季感も出しています。加えて俺の故郷は仙台なんで、北国感も盛り込んでみました」
—ターンテーブリストの手がけるアルバムということを意識しましたか?
「ターンテーブリズムってスクラッチのみでつくるイメージがあるじゃないですか。今回はそんな制限をなくそうと思いました。自分がかけたい曲、聴きたい曲というのを一番に考えたんです。ミュージック・アーティストとしてのアルバムにしたいなという想いがありました」
—とはいえ、得意のスクラッチは随所に光っていました。
「スクラッチに関しては、スキルを聴かせるというより、スクラッチを使って楽器の音を引き立てたり、気持ちよく聴かせるように意識しました。だから、過剰なスクラッチやソロ・パートはないんです。味つけでちょこちょこ入ったりするぐらい。でも、ターンテーブルだけでつくった曲も3曲ありますね。たとえば「One Hand Blizzard」では、ドラムンベースのループをひたすら片手で進行させています。だから“片手吹雪”という意味のタイトルなんです」
—ゲストも豪華ですね。フィーチャリング・アーティストによって、曲づくりに違いを持たせているようにも感じました。スパンク・ロックを迎えた曲はブーティーなブレイク・ビーツ・トラックだし、ファット・ジョンとやった曲は、どこかサイケデリックですよね。
「スパンク・ロックに関してはその通りで、“このビートにはスパンク・ロックが絶対合うな”と考えたんです。ファット・ジョンもビートが先でしたね。ニュー・フレッシュをフィーチャーした「Rainyday」をつくっていた時には雨が降っていて、タイトルを思いついた時に“ニュー・フレッシュだ!”って思ったんです。マイナーっぽいベースラインのジャングルっぽい音だったから、彼のイメージにも合うと思いました」
—印象に残っているコラボレーションは?
「ファーサイドは、まさかやってくれると思わなかったから印象深いですね。スパンク・ロックとは、すごい酒飲みながらレコーディングしました。ハイファナやガグルとは、やっとできたって感じです。リトル・テンポのは新境地でした。ニュー・フレッシュとニンジャスタジオで一緒に録ったのも思い出です」
—コラボレーションと一人での制作には、どんな違いがありましたか?
「コラボレーションでは、俺が好き放題やったトラックにラップを乗せれば格好いいわけじゃないということを覚えました。ラップを引き立てるためのトラックは、シンプルであるべきだということに気づいたんです。コラボレーションでは、音を抜く作業に時間をかけました」
—ピッチ・コントローラーで演奏する「桜」など、お馴染みのパフォーマンスは収録されませんでしたね。
「そのリアクションは想定していました(笑)。今回はスクラッチのスキルを聴かせるものではなく、自分のDJで使う楽曲や、家で楽しむ楽曲を意識したので、セッションものやルーティンは全部排除したんです。ルーティンはライブに来て見てもらえたらと思っています。だから、スクラッチをあえて入れていないパートもあるんです。余白を残しておけば俺が現場で擦れるから。他のDJが回す時もその余白で擦れるし。そこはDJ的な感覚で制作しました」
—ところで、今でもスクラッチの練習をしたりするんですか?
「練習ではないんですが、“スクラッチやりたいな”と思ったらターンテーブルに向かいます。でも“練習してあの技を覚えよう”というのはなくなりましたね。練習したり誰かの真似をすると、その人の音になってしまうから。真似される人は、好き勝手やって独自のサウンドをつくったわけじゃないですか。スクラッチでは、そんなふうに自由に面白さを追求した方が、グルーヴや荒さが出ると思うんです。ミスしたとしても、逆にそれが面白くなることがライブではあると思いますしね」
—今後のバトルDJシーンは、どうなっていくと思いますか?
「
—機材を拡張することには否定的なんですか?
「個々のソロやライブ活動には、いろんな機材を取り入れて好きにやった方が絶対にいいと思います。俺もDVJを使ったりします。でも、それはメインではなくて、今でもアナログが98%ですね。とはいえ、DJプレイの味つけになるような機材が出てきたら、積極的に取り入れていきたいですね」
—どんな機材があったら面白いと思います?
「何だろうな...。ヴォコーダー機能付きのキーボードにターンテーブルをつないで、こすりながらキーボードを弾くと、スクラッチがメロディーになるようなものかな。そういうことを試したことも実際にあります。今作にも、ちょっとそういう音を入れているんですよ」
—DJを目指している人へのメッセージはありますか?
「俺みたいなスタイルのDJもいれば、ヒップホップやハウス一筋っていうDJもいるだろうけど、純粋に自分の音楽ライフを楽しんでいるDJなら、どんなDJも俺と全く同じスタンスだと思うんです。自分が楽しくて、DJやりたいという気持ちでやっている。そこをみんなも楽しんで、やりたいようにやって欲しいです。楽しい道だけを進んでいって欲しいですね」
—では、壁にぶつかったり挫折を味わった時には、どうやって乗り越えたらよいのでしょう?
「誰かの言葉に“失敗は成功のもと”とありますが、その通りだと思うんです。俺もバトルで負けて悔しい思いをすることはありました。失敗したりヘコんだ時って“自分のどこがいけなかったんだろう?”と考えるじゃないですか。そういうことがあるから、次に進めるんじゃないかな」
—最後に今作を手に取るリスナーへメッセージをお願いします。
「車で聴いたり、外で聴いたり、いろんな状況で楽しんで欲しいですね。俺のDJを見たことある人の中には、意表をつかれたと思う人がいるかもしれません。でも、これが俺の新たな扉、“Enter”です。俺のニューグラウンドだと思って聴いてください」
interview & text SOICHIRO NAITO


