AIR インタビュー/loud79号
★前作から約3年経っていますが、その間はどんなふうに過ごしていたんでしょうか?
ジャン=ブノワ(J-B)「ずっと働いてた。年に1枚はアルバムを作ってたからね。それに『ヴァージン・スーサイズ』の後はレーベルを立ち上げたり…」
ニコラ(N)「子供を作ったり」
J-B「そうそう、子供を作ったり。全部手のかかる仕事だったよ(微笑)」
★え?結婚していたんですか?
N「僕ら?(とジャン=ブノワと自分を指さし)僕らは結婚してないよ(笑)」
★(笑)いやいやいや。そういうことではないんですけど。子供は男の子?女の子?
J-B「僕は男の子が1人と女の子が1人」
N「僕は男の子が1人。2人目は5月に生まれるから、まだわからないんだ」
★忙しいながらも穏やかな日々、といった感じ?
Nrうーん。自分たちのリズムで働くことを学んだって感じかな。実際はそこにたどり着くまでには、晴間をかけて徐々に進んでいったんだ。というのも『ムーン・サファリ』の頃はなんにも知らなかったからね。いろんな経験をして、時間をかけてミュージシャンとして生きること自体、ミュージシャンとしての人生をまず学んだんだ」
★そして、その時間をかけてミュージシャンとして生きることを学んだんだ結果、完成したのが今回のアルバム『10000ヘルツ・レジェンド』ということになるんですか?
J-B「っていうか・・・今回のアルバムに時間をかけたのは事実だね。このアルバムでは、自分たちのすごく深いところまで探ったし、真の美しさを追求したし、そういう点ではすごく時間がかかったんだ音も、歌詞も、曲を作る段階からね」
N「僕らのやり方って、全てを一度にやるんだ。作曲も、詞をつけるのも、録音もミキシングもすべて同時にやる。なおかつ全ての作業において美しさを追求するわけだから、音も詞も和音も最後の仕上がりまで全てに気を配らなければならなかったんだよ。全部繋がっているからね」
★『10000ヘルツ・レジェンド』いうタイトルがすごく面白いですよね。これにはどういう意味が込められているんですか?
J-B「録音や音を作っているときにスタジオで起きたマジックをそのままタイトルに込めたんだ。誰もが理解できるユニヴァーサルなもので、僕らが音楽のなかに追い求めたものを感じさせるもの。テクニカルで詩的で魔法のようなストーリー」
★魔法ですか?
J-B「僕らはスタジオでマジックを起こしたかったんだ。そして、それが実際に起きた。だから録音しているときや音を作っているときに起こったマジックをそのまま込
めたというわけ」
★その10000ヘルツ今のエールにとって一番美しい音だったという風に解釈していいんですか?
N「僕らにしたら初の試み0『ムーン・サファリ』では使わなかったよね。ミキサーのアルフが丸くて暖かくて柔らかい音を作りたがったから。あのアルバムではその部分が大きな課題になってたんだ。心地良い音世界を作るってことに徹底してた。でも、このアルバムでは全くそんなコンプレックスを感じることなく、あるがままの音、あるべき音をレコーディングしたんだよ。騒々しい音や尖った音、心地良いと思われないような音も使う自信がついた、ってことだよ」
★その尖った音というのは、『ヴァージン・スーサイズ」から参加するようになったドラムのブライアン・リエトゼル(元レッド・クロス)の影響があると思うんです。
N「もちろんだよ」
★なぜ彼を起用しようと思ったんですがエールにもたらした影響はどのようなものなんでしょう。
J-B「ツアーの影響が大きかった」
N「『ムーン・サファリ』では「SexyBoy」以外ドラマーはいなかったから、ドラマーが入ることを想定して作っていなかった。だから『ムーン・サファリ』のツアーで実際にバンドとして演奏したら、どの曲も同じように聞こえてしまったんだ。それで『ヴァージン・スーサイズ』では、最初にドラムなしで録音して、後からブライアンに叩いてもらったんだけど、彼はいろんなスタイルを使いこなせる人だったから、それぞれの曲で違った表現方法をしてくれたんだ。そして今回のアルバムでは、当初からそれぞれの曲のそれぞれの世界を表現したかった。だからドラムもそれを想定して作ったんだよ」
J・B「彼はコンセプショナルな人で、彼のやり方が傍らすごく気に入っているんだ。ポジティヴなエネルギーを発散して、僕らをポジティヴな方向にもっていく人でもあるね」
★なるほど。それでその結果、確かに前作よりもストレートに耳に入ってくるんですよ。リアルな感じというか、よりバンドっぼい音というか。N「そう。『ムーン・サファリ』はイージー・リスニングとも
取られてしまったんだ。誰かをディナーに招待したときのムード・ミュージックにでもするようなね。でもこのアルバムは、イージー・リスニング的なところはない。集中して聴くための音楽だよ。で、『ムーン・サファリ』は外界への旅って感じだったけど、今作は自分たちの内面への旅っていう感じだった。ちょっとした狂気とかもね」
J・B「マジカルなおとぎ話を語りたかったからすごく集中する必要があったし、聴く人もそうだと思うんだ」
★では、ファーストの頃はエールはエスケープ・ミュージックだとか言われていましたが、その点に関してはどうですか?
J・B「このアルバムでは僕たちの経験した様々な体験や感情を物語りたかったんだ。喜怒哀楽がある。どちらかというと、そういったコンセプトのあるアルバムだよ。『ムーン・サファリ』はもう少し明るくて軽みのあるものだったけど、今回はもっと力強い。聴いた人に入り込んでもらえるような強い感情を込めた、ということなんだ」
★ところで、いっそのことブライアンをパーマネントなメンバーにして、工一ルのメンバーを増やそうとは思いませんか?
N「エールは傍ら2人だけだけど、レーベルもあるし、バンドのミュージシャン達もいるし、LAにもたくさん友達がいる。傍らの周りにはいつも家族みたいなコミューンがあるんだよね。レコーディングには色んなミュージシャンに参加してもらったけど、1週間くらいずつの参加だったし、ブライアンは3週間くらい。でもそこに行き着くまでは僕ら2人で6ケ月間スタジオに籠もって構築していったわけで・‥もう充分ややこしいのに、これ以上ややこしくするつもりはないんだよ(笑)」
J-B「でもLAからの影響は大きいね。参加してくれたミュージシャンはみんなLAの人間だし、彼らの存在っていうのは、ものすごく僕らにインスピレーションを与えくれたから。彼らは時にすごくプロらしくスマートに科学的にすらなれるのに、そうかと思えば誰よりもメチャメチャでクレイジーにもなれるのがすごいところなんだ。そんなことができるのは彼らだけだし、そういう友達はフランスにはいないから」
★特に4曲目の“The Vagabond”や10曲目の“Don't Be Light”に参加しているベックとか?
N「彼もLAの友達のひとりだね。今回参加してくれたミュージシャン達はみんなそう0『ムーン・サファリ』を出したことによって色んな人と出会って、その友人関係でこのアルバムは成り立ってる。ベックも、彼が友達ですごくいいユーモアの持ち主だったから頼んだんだ。彼が‘あのベッグ’だったからじゃない。バッファロー・ドーターもそう」
J-B「ベックとは「Sexy Boy」のリミックスを頼んだのが最初で、それ以来ブライアンやステイーヴといったバンドのメンバーを通してずっと友達なんだ0“Don’tBe Light”は今回のアルバムでも掛こ重要な曲だよ。それにストリングスのオーケストラを録音したのもLAなんだ。LAって映画音楽のメッカでもあるから、他にはないようなスタジオや機机技術者やオーケストラが全て揃ってる。僕らはアレンジャー兼指揮者のロジャー・ニールを通して、映画のサントラをよく手掛けるオーケストラにストリングスのレコーディングを頼むことができたんだ。彼らは技術もすばらしかったけど、すごくエモーショナルだし、なにより僕らが望む音を作るために根気よく熱心に付き合ってくれたんだ」
★一方で、7曲目の“Sex Born Poison”では日本のバッファロー・ドーターのSUGARとYUMIKOが参加し
ていますが、これはどういう経緯で?
J・B「そうそう、僕らすごく日本人の女の子が好きなんよね(笑)。最初に彼女たちのコンサートを観たときに、すぐにその魅力にやられてしまったんだ」
N「あんなに華奪な女の子があんなノイズを出すなん
て!ってね。あんなエネルギーが一体あの小さな体のど
こから出て来るんだろう?って驚いたよ」
J-B「SUGARが弾いていたムーヴもすごく印象的だったんだ」
★でも書的にはバッファロー・トターとエールは正反対だったりしますよね。どうして?
N「そうだよね。でも話をしてみたら感性は近かったし、分かり合えるっていうか、僕らの間にはどこか惹かれ合うものがあったんだ」
J-B「僕らの間に電気が走ったんだ、ビビビって(笑)」
N「それで、“Sex Born Poison”でバッファロー・ドータ一に参加してもらおうと思ったのは、なんていうか、突然閃いたからなんだよ。ちょうど(ジャケットの)デザイナー、マイク・ミルズが僕らのスタジオに遊びに来ていて、3人でこの曲を聴いていたら、どう言うわけか3人して突然『この曲に日本語の歌詞をのっけたら面白いんじゃない?』って思いついたんだ。で、やってみたら実際すごくハマったんだよね」
★それでですね、確かに今作でエールは美しさと騒々しさを獲得していると思うんですが、ラウンジ的でドリーミーな要素が後退する代わりに、今度はどんな曲にしてもダークで重い部分が一層目際だつようになっていますよね。
N「うんうん」
★その点がやはり『ムーン・サファリ』とは一番異なる部分だと思うんです0エールが目指している真の美しさというか、美しさと暗さの関係というのは2人の中ではどういう風に捉えているのですか?
N「うーん…でもダークさっていうのは、ずっとエールの音楽の中にあった要素なんだよ。誰もそうとは言ってくれないけど『ムーン・サファリ』だって、すごく悲しみに満ちたアルバムだと思うよ0それに、人生ってそういうものじやない?ネガティヴな要素と美しさってのが常にあるものだと思うんだ」
J-B「美しさって、暗いものや汚ないものと一緒にあるときほど引き立つと思うし」
N「例えばすごく瞳のキレイな女の子がいたとして、その周りに黒いアイラインを引くと余計美しさが強調されるでしょ。音楽も同じなんだよ」
★では、先ほど狂気という言葉もでてきましたが、エールにとって自己の内面を深く潜ること、つまりエールにとって音楽的なストリーとは一体何なのですか?
J-B「幸運なことに僕らには音楽があるんだよ。そして自分たちの狂気を探ってそれを音楽として出すことによって鎮静される。つまりそれがセラピーみたいな効果をもたらすってことなんだよ」
インタビュー 谷上史書
通訳/翻訳 山田香子


