TIGA インタビュー/LOUD133号
TIGA
Sexor
(EU) HOSTESS/DIFFERENT/PIAS / DIFB1040CD
TIGA アシッド + ブリープ + エレクトロニック・ポップ モードの先端を行くクラブ・サウンド
ティガは2001年、エレクトロクラッシュ・ムーヴメントを象徴するトラック「Sunglasses At Night」を世に送り出し、一躍知られる存在となった人物だ。当時はDJヘル、フェリックス・ダ・ハウスキャット、DFA、フィッシャースプーナー、ミス・キトゥン、トレヴァー・ジャクソンらと共に、ニューウェイヴ・リヴァイバルの急先鋒として注目されていた。21世紀の最新型クラブ・サウンドへ向かう扉を開いた重要アーティスト、といっても過言ではないだろう。 その後の活躍も目覚ましく、「Hot In Here」「Pleasure From The Bass」といったクラブヒットを制作、自身のヴォーカルをフィーチャーした、フェリックス・ダ・ハウスキャット「Madame Hollywood」やソウルワックス「E Talking」のリミックスも好評を博している。ニューウェイヴ、ディスコ・パンク、テクノ、クリック・ハウスを横断するハイ・センスなDJとしても人気だ。'98年には自身のTURBOレーベルもスタートし、レーベル・オーナーとしての顔も持っている。 2005年も暮れの現在、さすがにエレクトロクラッシュという言葉の効力はもう失われているが、ニューウェイヴ/80's的な精神が活かされたサウンドは、時代の通奏低音として定着、いよいよ全盛期を迎えようとしている。そんな中、ティガが遂にデビュー・アルバム『セクサー(Sexor)』をリリースする。時代の先駆け組としてはほぼ最後、満を持してのリリースだ。 この作品は、もちろん“エレクトロクラッシュ”のアルバムではない。逆に、ティガが決してエレクトロクラッシュに限定されることなく、現在までその魅力を失わずに活躍できている理由が詰まったアルバムだ。プロデューサーには2・メニー・DJsとして知られる鬼才、ソウルワックスと、最近ではOUTPUTからDK7名義で作品を発表している注目株、イェスパー・ダールバックを起用。かねてより醸し出していた初期アシッド・ハウスやブリープ/ハードコア・テクノからの影響と、“ツヤ”のある歌声から引き出されるニューウェイヴ/エレポップ的なムードを両立させることに成功している。“熱”を含んだシンプルなビート/サウンドの連続からは、ティガが紛うことなきダンス・ミュージック・アーティストであることを感じとることもできる。もちろん彼の得意技であるカヴァーも健在で、今作ではナイン・インチ・ネイルズ、パブリック・エナミー、トーキング・ヘッズという三組をピックアップ。その広範囲に渡る音楽的趣味でアルバムに花を添えている。なお、先行シングルとしてリリースされた「You Gonna Want Me」は、オルタネイト(編注:ALTERN 8=レイヴ期を代表するUKのハードコア・ユニット)のトラックがインスピレーション源となっているのだが、そこにゲスト・ヴォーカルでシザー・シスターズのジェイク・シアーズを参加させるという、マニアックかつオシャレな実験も試みている。 時代をキャッチする卓越したセンスと様々なバックボーンを重層的に表現する、ディープかつスタイリッシュな『セクサー』。2006年2月4日にリリースされるこの話題作について、
僕は譜面も読めないし、曲もかけないし、ピアノも弾けないから、 何か曲のアイディアが浮かんだら、自分で適当に歌って録るしかない。 初めはそうやって歌を吹き込むようになったんだ。
僕はミュージシャンとしてユニークなテイストを持っていると思うんだ。 アシッド・ハウスも好きだけど、フランツ・フェルディナンドも好きなんだから。
デペッシュ・モードは絶対にカヴァーしないな。 彼らの持っているテイストが、自分のものと似ていると思うから
―何度も日本に来ているような印象がありますが、実は初来日なんですよね。
「僕自身も驚きだよ。地元でも“なんで日本に行かないの?”と言われることが多かったし、これまでにオファーもあったんだけど、今回のために取っておいたんだ。一番良い時まで取っておいたのさ。仕事だけじゃなくて、何日かリラックスする時間もほしかったから。素敵なプレゼントを開けずに、楽しみに待ってたってとこかな。今後はもっと日本に来たいよ」
―カナダのモントリオール出身ですが、活動初期はパーティーのオーガナイズやレコード・ショップの運営もしていたそうですね。'90年代初頭の話ですか?
「そうだね、'90年代の初めだ。音楽はずっと好きだったけど、'91~'92年頃に旅をするようになって、ドイツへ旅行したとき、そこでテクノなどの音楽シーン、レイヴを知ったんだ。で、地元に戻ったあと、同じことを再現したくて活動を始めた。モントリオールでもレコードが手に入るようにしたかったからレコード・ショップを始め、パーティーもあったほうがいいと思ってオーガナイズしたんだ。あったらいいなと思ったものを、どんどん具現化していったんだ。若かったし、周囲の友達を巻き込んで夢を追っていたなぁ」
―当時モントリオールにダンス・ミュージックは、あまり入ってきてなかったのですか?
「いやいや、ヴォーカル・ハウスやディスコを中心とした、少し古いスタイルのダンス・ミュージックには大きなシーンがあったよ。夜になると踊りに出かける人口も多かったけど、それは古いジェネレーションの人たちだった。レイヴやテクノ、エクスタシー・カルチャー的なジャンルはなくて、そこにはジェネレーション・ギャップがあるようだった。僕らが求めるものはなかったんだ」
―なるほど。『セクサー』からの先行シングル「You Gonna Want Me」は、オルタネイトの「曲名!」にインスピレーションを得て、かつて彼らがサンプリングした女性ヴォーカル部分を引用していますよね。この曲は、そのレイヴ時代の思い出とも言えますか?
「そうそう。コーラスの部分ではサンプルを使ってる。たしかに、あの曲は僕が初めて夢中になったテクノ・トラックなんだ。まるでファースト・キスのようなものだ。もう14年前のことかな? リスペクトを込めて使わせてもらったんだ」
―その後アーティストとして活動するようになるわけですが、あなたの特徴は、自身のトラックで歌うことですね。現在のスタイルを始めるようになったキッカケを教えてください。
「ちょっとしたアクシデントなんだ。最初「Sunglasses At Night」(Tiga & Zyntherius名義)を作ったときはヨーリ(・ハルコネン)と組んで曲を書いたんだけど、彼が主に機材方面を担当していた。僕は譜面も読めないし、曲もかけないし、ピアノも弾けないから、何か曲のアイディアが浮かんだら、自分で適当に歌って録るしかない。初めはそうやって歌を吹き込むようになったんだ。それがごく自然なことだったね。で、何曲かやったあとフェリックス・ダ・ハウスキャット「Madame Hollywood」のリミックスで歌ったら、周りから僕のヴォーカルが良い、って評価されたんだ。それで自信もついて、歌うようになった。ただ、自然な流れだったから、今でも自分をシンガーだとは思っていないんだ。何か...すごく不思議な感じなんだ。これまでに一度もシンガーになりたいと思ったことなんかないのに、やってるからね」
―「Sunglasses At Night」は、ヨーロッパを中心に特大ヒットとなりました。だから、その時期に当然アルバムも出すと思ってましたよ。
「そのつもりだったよ。実際に作ったんだけど、ただ単に僕らは出さなかっただけ」
―今回このタイミングでアルバムを出すことにしたのは、何らかの思いがあってですか?
「いろんな理由があったんだけど、良いタイミングを待っていたということではないんだ。当時ヨーリとすぐにアルバムを出すべきだったけど、僕らは住んでいる場所が遠く離れていたから、アルバムを作ったんだけど、出さなかった...今考えるとちょっと不思議だな。その作品は、今もそのままキープしてあって、完成はさせていないけど、ほぼでき上がっている。それも、いつか出すつもりだよ。僕らが歳をとるまで待つかもしれないけど(笑)。結局DJのほうが忙しくなってきて、ツアーで旅行も多かったし、ミックスCDをやったり、家族の問題もあったりで、延期に延期を重ねてきたんだ。あと、去年はレーベルの意向でずっと待たされたな。これまでのレコードはスタジオでつくったら直ぐにリリースされていたのに、待たされたから、それは嫌だったよ」
―アルバム・タイトルの“セクサー(sexor)”には、どんな意味が込められているのですか?
「具体的な意味がなく、見た人が自由に解釈できるような、意味のないタイトルをつけたかったんだ。基本的に、アルバムや僕がやる全てのことはイマジネーションなんだよ。僕にとって“sexor”はあるキャラクターを指すんだけど、ほかの人たちにとっては違う意味であっていい。受け取る人が好きなように想像して意味づけをしてほしいな。僕はいつもそうしているから。このアルバムは、そんな僕の世界へのイントロダクションなんだ」
―プロデューサーにソウルワックスとイェスパー・ダールバックの二組を起用しています。彼らと制作しようと思ったのはどうしてですか?
「イェスパーは昔からの友人で、お互いよく知ってるんだけど、一緒に曲をつくり始めたのは3年くらい前だね。彼は素晴らしい才能の持ち主で、天才だと思う。二人で組むと、お互いの良いところをちゃんと評価し合えるんだ。彼はテクニカルな面でスゴいし、僕はクリエイティブでコンセプチュアルな方が得意だから、良いチームとしてやれるね。アシッド・ハウスやテクノなど、同じようなバックグラウンドを持っていることも良いと思う。お互いをよく理解できて、何を求めているのかがはっきりわかるから」
―ソウルワックスはどうですか?
「ソウルワックスに関しても、もともと友人としてスタートしている点では同じだね。でも、音楽的には違ってて、彼らのサウンド自体は僕が求めている音ではないんだ。今回はオールド・ファッションの音楽制作も試してみたかったから、やってもらった。ギターなど本物の楽器を使うオーソドックスなレコードの作り方においては、彼らを何よりもリスペクトしているからね。僕とイェスパーだとマシンだらけになっちゃうから、おかげで良いバランスになったと思う。ソウルワックスは信じられないくらい才能のあるアーティストだから、一緒にできたことはラッキーだったね。とても良いチームワークで、まるで一つのバンドとしてやっているかのようだった」
―あなたやソウルワックス、イェスパー・ダールバックは、'90年代的なクラブ・ミュージックのマナーにとらわれず、新しいダンス・ミュージックの地平を切り開いているアーティストという点で共通していると思います。今作も、トラディショナルなハウスやテクノをベースとしながらも、新鮮な感覚を持っている点が鍵だと思っているのですが、あなた自身は今作をどのように捉えていますか?
「ありがとう。キミの意見が僕の目標だったわけではないし、意図的にやっているわけでもないけど、僕にとってそれは最高の賞賛だ。僕のバックグラウンドはダンス・ミュージックなんだ。人によってはロックやヒップホップなどがバックグラウンドになっているけど、僕にとってはテクノとハウスがベースで、それはどうにも変えられないこと。だから、そういったバックグラウンドとなっているものに、何か新しい解釈や新しいスタイルを与えられたら最高だと思うんだ」
―アルバム全体からは、初期のシカゴ・ハウスやレイヴにあって、最近は忘れられてしまった空気、熱気が伝わってきます。そこに、あなたのサウンドが新しく聞こえる要因があると思いますが、いかがでしょうか?
「正しいと思います(笑)。キミが僕のプレス担当をすべきだね」
―(笑)ありがとうございます。
「みんなそれぞれが自分の好きなもの、テイストを持っている。僕だったら、白い靴が好き、コーヒーには一定量の砂糖を入れる、犬が好き、といったようにね。それが人のアイデンティティをかたちづくる。それらをかき集めると、その人の個性になる。DJとしての個性は、そういったテイストという部分以外にはなくて、それが他のDJとの差や違いになるんだ。で、僕はミュージシャンとしてユニークなテイストを持っていると思うんだ。アシッド・ハウスも好きだけど、フランツ・フェルディナンドも好きなんだから。だから、そういったテイストを集めてミックスすると、変わったものが生まれる。現在多くの人が音楽をつくっているけど、オルタネイトやシカゴ・ハウスが大好きだという人は、そんなにいないと思う。さらに、僕は古いディスコも大好きだし、かっこいいディスコ・ループもよく使うから、それらを新しいサウンドとミックスすると新しく聞こえるんだろうね。理解してくれる人がいて嬉しいよ(笑)」
―テイストと言えば、あなたらしいテイストを形成しているもう一つの要因は、カヴァー・トラックを選ぶセンスにあると思います。今作でもナイン・インチ・ネイルズの「Down In It」、パブリック・エナミーの「Louder Than A Bomb」、トーキング・ヘッズの「Burning Down The House」をピックアップしていますね。選ぶときの基準は、どこにあるんですか?
「カヴァーはとっても楽しいね。リラックスできるし、偉大な曲を手がけるのは嬉しいことでもあるんだ。選ぶ基準は基本的に...うーん、何だろう。自分のテイストに変えられる曲を選んでいると思う。ティガの曲に変えられる曲をね。オリジナルよりも良くするってことではなく、違ったものにするって意味でね。曲のコンテクスト(文脈)を変えられる曲ならば、やってみる価値はあると思う。ただ、僕はものすごく有名な曲、クラシックスのような曲はカヴァーしないんだ。例えばニュー・オーダーの「Blue Monday」とか、プリンスの「Kiss」とか。既に完璧にでき上がっているから、変えようがないだろう? あと、デペッシュ・モードも絶対にカヴァーしないな。彼らの持っているテイストが、もともと自分のものと似ていると思うから」
―ヴォーカリストとして好きなアーティストは、デペッシュ・モードやニュー・オーダー、プリンスなどエイティーズの人々なんですか?
「僕の好きなアーティストか...(かなり考えて)たぶんヴァン・モリソンかな。声は好きじゃないけどね。ヴォーカル・パフォーマーとしてはプリンスだね。彼は自分の声を自由自在に使って、幅広く何でも表現できる天才だよ。純粋に声だけで言うと、実はボノ(U2)かもしれないな。彼は、あまり声という点では好かれていないかもしれないけど(笑)。もちろんデペッシュ・モードのデイヴ・ガーンも素晴らしいと思う。リアルだし、パフォーマンスも素晴らしい。とてもソウルがこもっている。あと、声質は好きじゃないけどヴォーカル・パフォーマンスは好き、というアーティストもいるよ。例えばレッド・ホット・チリ・ペッパーズのジョン・フルシアンテ。彼の声色はひどいけど、素晴らしいシンガーだと思う。まぁ、若いときにいかにトライするかってのが重要なんだろうね」
―感覚的な意味で、共通する“何か”を感じさせるセレクションですね。
「あと、個人的にソフト・セルのマーク・アーモンドからの影響は強いと言えるね。強いインスピレーションを受けていると思う。「Tainted Love」を聴くと、音階を外しちゃっているのが分かるくらいだから、彼は良いシンガーではないけど、そんなことが気にならないってところがいいんだ。ソウルがこもっていれば、そんなことはどうでもいいんだ」
―ジャンルを超えて、いろいろな音楽が好きなんですね。
「ああ。でもクリスチャン・ロックは絶対聴かないよ。わかる? アメリカの教会でジーザスを歌うバンド。あとデス・ロックも聴かない。それなりに線引きはあるんだ(笑)」
―今回はDJとして
「やったら楽しいかもね。ミス・キトゥンはたまにやってるよね。そのうち始めるかもしれないけど、今の時点では僕にとってDJはDJ、ライブはライブって感じで、二つの別のことなんだ。でも、DJをやってるときも一人で歌ってるから、マイクをつけてもいいかも(笑)。DJしながらマイクを持つというと、“ナンバー○○のお車を駐車されているお客様、お手数ですが移動をお願いします”みたいなアナウンスとか、“はい、みんなでハッピー・バースデイを歌いましょう!”とか、そういうのを想像しちゃうのが問題だな(笑)」
text FUMINORI TANIUE
translation ERIKO HASE


