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BASEMENT JAXX インタビュー/LOUD141号

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あらゆる音楽を飲み込む情熱的ラジオ局誕生

 フィリックス・バクストンとサイモン・ラトクリフからなるベースメント・ジャックスは、1990年代のUKハウス・シーンが生み出した最大の才能だ。「Samba Magic」「Flylife」といったクラブ・ヒット・トラックを経てのデビュー・アルバム 『Remedy』 (99年)で全英チャート一位を獲得して以来、『Rooty』 (01年)、『Kish Kash』(03年)とコンスタントにアルバムをヒットさせ、昨年はこれまでのヒット・シングルを網羅した『The Singles』もリリースしている。グラストンベリー・フェスティヴァルのトリも務め、“ベスト・エレクトロニカ・アルバム”部門でグラミー賞も受賞、名実共にトップ・アーティストの地位を確立している大物だ。
 そんなベースメント・ジャックスが、四作目となるオリジナル・アルバム『クレイジー・イッチ・レディオ』をリリースする。インタビューで二人が語ってくれた通り、今作は“ラジオ”をテーマにした内容。 アルバム冒頭の「Hush Boy」からアルバムを締めくくる「U R On My Mind」の間には、ハウス、R&B、グライム、ジャズ、ブラジリアン、エレクトロ、ロック、カントリー、クラシック、トラディショナル・ミュージックまで、ラジオ局さながらの様々な音楽的要素が詰めこまれている。
 この新作について、7月にプロモーション来日していた二人に話を聞いた。


現代社会での生活、現在のロンドンでの日常を象徴しているんだ。
混沌としている一方で、そのことでより美しく豊かにもなっている。(サイモン・ラトクリフ)

“イッチ”は、ムズムズする感覚。
“生きていること”や“何かをやりたいという衝動”を感じると起きるね。(フィリックス・バクストン)


―最新アルバム『クレイジー・イッチ・レディオ』のテーマはラジオですよね。なぜラジオに着目したんですか?
フィリックス・バクストン(以下 F)「制作当初からこれといった大きなコンセプトがあったわけじゃないんだ。できあがった曲がいろいろなムードや曲調を持っていたから、それらの曲を一つの作品としてまとめるにあたって、一つのラジオ番組としてくくるとつながりやすいし、一番説得力があるんじゃないかと思ったんだよ」 サイモン・ラトクリフ(以下 S)「タイトルについては「Hush Boy」という曲から発想を得ている。曲のイントロに“クレイジー・イッチ・レディオ~”っていうジングルがあって、曲の終わりにはちょっと他の曲とオーヴァーラップするんだけど、それがにいかにも本物のラジオっぽかったんだ」
―ロンドンでラジオ放送というとパイレーツ・ラジオを連想しますが、そういった環境は本作に影響していますか?
F「たしかにパイレーツ・ラジオのことは考えたよ。イギリスには、車に乗っているときオートマティック・チューニングに設定していると、次から次といろんなジャンルの放送をキャッチしてしまうくらい数があるからね。次々と新しい放送局も誕生しているし」
S「違う音楽を放送しているラジオ局が、近い周波数帯にいるから、曲が重なって聞こえることもある。一方がシリアスな番組をやっているのに、もう片方はレゲエDJが去年のクリスマスのことを話していたりもする(笑)。今作では、そういった様々なことが面白く同時進行している様子も表現したかったね」
F「今作には、ラジオならではの雑多な感覚があるんだ。現在のMTVジェネレーションが、いろいろな音楽を同時進行で聴く感覚と一緒だよ」
S「現代社会での生活、現在のロンドンでの日常を象徴しているんだ。いろいろな文化が隣り合わせで存在していて、お互いに衝突することもあれば、活かし合うこともある。混沌としている一方で、そのことでより美しく豊かにもなっている。もともと、ベースメント・ジャックス自体がそういった様相をもっていると思うんだ。僕らは常にいろいろな文化を取り入れて、いろいろなサウンドをミックスした一つの融合体として存在しているからね。今作では、そういったベースメント・ジャックスの音楽性も再認識したね」
―“クレイジー・イッチ”とは、どんな感覚のことですか? ムズムズする感じ?
F「“クレイジー”は言葉の通り。“イッチ”は、君の言う通りムズムズする感覚。“生きていること”や“何かをやりたいという衝動”を感じると起きるね。朝目覚めたときに躊躇するようなことがあっても、前進しながら生きていくということ自体が、まさに“Life Is Itch”、人生ムズムズって感じだと思う」
―生きている実感、生きているよろこびを象徴する言葉ですか?
F「そうそう。人生はすべてが完璧なわけじゃない。常夏の楽園にいても蚊に刺されてムズムズしたりするよね(笑)? そんな感じかな」
S「人生で衝動を感じなければ、生きている意味はないということだ。実は“クレイジー・ビッチ・レディオ”というタイトルも考えていたんだ。ただ、それだとあまりにもお決まりの感じで、スヌープ・ドッグとかがやりそうじゃない?(笑)。僕らっぽくない。だから“クレイジー・イッチ・レディオ”にしたんだ」
 ―各曲では、どのように雑多な感覚が表現されているのでしょうか?
F「アルバム全体がよりパンキーなサウンドだった『Kish Kash』と比較すると、今回はとても温かくて、カラフルで、楽しい雰囲気になっていると思う。カントリーっぽい「Take Back To Your House」、ジャズ・フレイヴァーのある「On The Train」、ブラジルでグライムとバングラが融合してしまったような「Run 4 Cover」といった具合だよ。あと、メロディ・ラインは1930年代のベルリン風で、サウンドはユーゴスラビア辺りの東欧的な雰囲気がある「Hey You」は、自分でもどういう風に形容したらいいのか分からないようなトラックだ(笑)。個人的にとても気に入っている「Lights Go Down」は、オーケストラと聖歌隊が入っていて、全体的にメランコリックな感じのある曲だね。いずれも新しいスタイルに挑戦していると思う」
―サイモンさんの、今作で特に印象深い曲はどれになりますか?
S「僕も「Lights Go Down」が好きだね。曲自体がもっているメランコリックな雰囲気が好きなんだ。歌詞では、パーティーが終わったときの喪失感や、自分ひとりになったとき“自分はいったい何者なのだろう”と感じたり考えたりすることを歌っている。本来なら典型的なアウトロ・タイプの曲なんだけど、今回この曲がすごく気に入ったから、みんなに聴いてもらう機会をミスしないよう中盤に入れたんだ。ストリングスの具合や感情豊かなパートには、特に注意を払ったよ。聖歌隊とオーケストラに音を出してもらったときは、かなりグッとくるものがあったね。というのも、僕らが音楽をつくるときは、18才の頃と変わらず、今でも家でコンピュータをいじりながらやっているんだ。そんな風にしてできた曲を、ちゃんとしたオーケストラが演奏してくれたんだから、そりゃあ嬉しかったってわけさ。そんな経験ができて光栄だったよ」
―今作には、聖歌隊とオーケストラの他にも様々なアーティストが参加していますね。彼らを紹介してもらえますか。
F「「Hey You」には、スウェーデン人のシンガー、ロビンが参加している。彼は本国では大ポップ・スターで、スウェーデンの音楽賞も獲ったことがあるほどの人物なんだよ。この曲には50才でロシア出身のアコーディオン奏者も参加している。「Lights Go Down」には、'70年代から活躍しているリンダ・ルイスが参加している。かつてのグラストンベリー・フェスでは結構ラリラリだったね(笑)。一緒に仕事がしやすい、とても素敵な人物だった。「Take Back To Your House」では、Dragonetteというカナダのエレクトロ・バンドで活動しているマルティナが歌ってくれている。あと、「Smoke Bubbles」には『キッシュ・キャシュ』のときにも歌ってくれたエミリー、「Hush Boy」には去年の『ザ・シングルス』に収録した新曲「Oh My Gosh」で歌ってくれたヴーラ、「Everybody」にはロック・シンガーのエリダ、「Run 4 Cover」にはイースト・ロンドン出身のグライムMC、「On The Train」にはトニー・ブレイズというジャズ・シンガーが参加している」
―多彩な雰囲気が、参加アーティストからもうかがえますね。50才のロシア人アコーディオン奏者は、どうやってピップアップしてきたんですか?
F「彼とは、僕がATLANTIC JAXXから出したコンピ『Gypsy Beats & Balkan Bangers』を手がけたときに知り合ったんだ。長年イギリスでロマ民族の音楽イベントを手がけている人物から、シンガーとして紹介してもらったんだよ。ところが、彼はアコーディオンも演奏できたんだ。スタジオでは、いきなりミキシング・デスクにコーヒーもこぼしてくれた(笑)」
―おちゃめなんですね(笑)。曲づくりにおいて、ふたりのコンビネーションに変化はありましたか?
S「結成した頃は、僕がスタジオで曲をつくり、フェリックスはDJをやるという関係だった。いろいろとパーティーをやっていくなかで、フェリックスの“こんな曲をプレイしたい”というニーズに応えるように、僕がスタジオで形にしていたんだ。彼がヴィジョンや方向性を示す役だった。でも、最近はより共同作業的な曲づくりになっている。フィリックスも技術的な面や楽器を扱えるようになったからね。とはいっても、今でも昔と同じような関係性はキープされているかな。僕ら二人は正反対のキャラクターなんだ。フィリックスは社交的で、パーティーやイベントを企画して、人と人を結びつけるようなことが好きなんだ。ベースメント・ジャックスにも、いろいろな人を呼び込んでくれる。一方の僕はちょっと内向的で、ベースメント・ジャックスではミュージシャンとしての役割が強い。作業をするときは、ドアを閉めて一人でこもる方なんだ(笑)」


フィリックスと出会えて良かったと思っているよ。
彼とは、僕のどの彼女よりも長いつき合いになるんだ(笑)。(サイモン・ラトクリフ)

特にロビー・ウィリアムズの音楽が好きなわけじゃないんだけど(笑)、
毎晩5万人くらいの観客の前で演奏するのは有意義なことだ。(フィリックス・バクストン)


―もう10年以上の仲になりますが、その間に解散の危機はありましたか?
S「1993年頃からのつき合いだからね、もちろんお互いに距離を置かないといけないときもあったさ(笑)。活動の中で、個人的に“もう音楽はやってられない。羊飼いとか漁師にでもなりたい”って思ったこともある。でも、彼と出会えたことで、僕の大好きだった趣味で生活ができるようになったわけだし、僕ら二人とも一人では手に入れられなかったものを手に入れたわけだから、フィリックスと出会えて良かったと思っているよ。彼とは、僕のどの彼女よりも長いつき合いなんだ(笑)。性格が違うからこそ、上手く続いているのかもしれないね」
―現在ロビー・ウィリアムズとツアーを行っていますね。ちょっと意外ですが、どういう経緯で実現したのでしょう?
F「今回のアルバム制作が終わって、夏に何をやろうかと検討しているときに、ロビー・ウィリアムズとのツアーの話をもらったんだ。はじめは、彼の前座としてウェンブリー・アリーナで5公演を務める予定だった。ウェンブリー・アリーナは伝説的な会場だし、是非やってみたかったから、提案に同意したんだ。そうしたら、どんどん話が膨らんでいって、UKであと二回、ドイツでもと、気がついたら一ヶ月くらい一緒にまわることになっていたのさ。特にロビー・ウィリアムズの音楽が好きなわけじゃないんだけど(笑)、毎晩5万人くらいの観客の前で演奏するのは有意義なことだね」
―その後の予定はどうなっていますか?
S「10月はオフで、11月からはUKツアーだ。年明けにはオーストラリアに行く。その頃には、日本にも来たいと思っているよ」
―ベースメント・ジャックスとしての今後の目標を教えてください。
S「UKチャート1位もとれたし、グラミーも受賞して、僕の想像をはるかに越えることを達成してしまったから、今はこれ以上何が欲しいのか考えられないよ。だから、アルバム制作など目の前にあることに集中して、それを精一杯やるだけだね。そうすれば、自ずと結果につながっていくと信じているよ。世界制覇を狙うようなアーティストは、僕らなんかよりももっともっと働いて、尋常じゃないツアー日程をこなして、そのかわりに自分らしい生活を失っていくと思うんだけど、僕らはそういう風にはなりたくないんだ。自分たちの幸せや正気は保ちながら、バランスのとれた活動を続けてきたい。僕は今度の9月に父親になるしね! きっと人生が大きく変わるだろう(笑)」

interview & text FUMINORI TANIUE
photo KENJI KUBO