'80年代後半からデトロイトやシカゴ、ニューヨークを拠点に活動してきたDJ / プロデューサー、ジェフ・ミルズ。ミニマル・テクノのオリジネイターとして知られ、テクノ・シーンの前進に貢献した重要人物だ。彼は、“ターンテーブルの魔術師”との異名を取るほどの超絶DJテクニックでも有名で、渋谷のクラブ、WOMBで4年連続レジデント・パーティーを行うなど、日本でも絶大な支持を集めている。
そんな彼だが、'06年に突如リスナーの前から姿を消した。それから我々の前に姿を現すことなく3年の時が過ぎたが、ついに新しいアルバム『Sleeper Wakes』を完成させた。なんでも、彼はこの3年間、宇宙空間で創作活動を行っていたというのだ。なぜ宇宙空間で創作を行うことにしたのか? ジェフ・ミルズに聞いてみた。
「エレクトロニック・ミュージックにおける、新たな展望をプロデュースする方法を、僕は常に模索してきました。世界はすでに多くの録音物であふれています。だから逆に、私がDJもプロデュースもせず、存在を消したことによって、より注意深く新たな関心を持って、作品を聴いてもらえるよう期待しています」
宇宙で制作された前代未聞の作品、『Sleeper Wakes』は、これまでのジェフ・ミルズ作品と同様、深遠な音像を帯びたミニマル・テクノが貫かれている。だが、何層にも重ねられたミニマルなループとミステリアスなフレーズには、これまでになかった、未知の空間に対する彼の期待や不安、驚きも表現されているようだ。そんな『Sleeper Wakes』の収録曲には、「Space Walk」(宇宙遊泳)、「Radiation Storm」(放射線攻撃)といったタイトルが付けられている。それらは、どのようなストーリーを描いているのだろうか?
「外部レーダー・モジュールの修理のために、かに星雲(Crab Nebula)付近を宇宙遊泳(Space Walk)していたところ、予想外の放射線攻撃(Radiation Storm)を受けました。その攻撃を仕掛けてきた悪質な物体には、未知の生命体反応があり、僕は幸運にもその一つを捕らえることに成功しました。この生命体を検査したところ、敵意や危険がないどころか、無害で穏やかな種であると判断できました。さらなるテストと検査が、僕の帰還までの間に行われる予定になっています」
そうジェフ・ミルズが語るように、『Sleeper Wakes』では、彼が宇宙で遭遇した様々な出来事を追体験できる作品となっている。地球上と宇宙空間での創作活動における最も大きな違いは、何だったのだろう?
「最大の違いは、全ての物から隔離されているということ。地球の円運動や回転といった物理現象から解放されるため、無限に拡大していく宇宙での物質運動によって、私の本能に変化が生じました。さらに、秩序や連続性といった、音楽をつくる上で鍵となる要素も影響を受けました。それによって、様々な音を活性化させ、音をより自由に選択できる方法を発見しました」
『Sleeper Wakes』のリリース後、ジェフ・ミルズは'10年1月1日00時00分01秒に、いよいよ宇宙から、ここ日本の渋谷WOMBへと帰還する。その瞬間への期待を、彼は以下のように語っている。
「僕がWOMBを旅立った'06年から'09年の間、オーディエンスの知能にいかなる進歩があったのか、比較することを楽しみにしています。どのように進化した一体感が味わえるのか、'10年の最初の瞬間に私は知ることになるでしょうね」
translation YUKO ASANUMA


