――その当時は、どんな楽曲をつくっていたんですか?
「最初から楽曲づくりを始めたわけじゃなくて、ドラムやベース、ピアノの音そのもの、いわゆるシンセサイズからつくりはじめました。クラフトワークが自分の根底にあって、彼らが音をゼロからつくっていたので、シンセを買った当時は、クラフトワークの音づくりに没頭していました。それである程度シンセの使い方を習得して、次に、クラフトワークの楽曲を耳コピして、打ち込みでつくり始めました。その当時から、楽曲制作のスタンスは変わっていなくて、既存のプリセット音は絶対に使わず、音が一番気持ち良く響くポイントを探りながら曲をつくっています」
――その他に、楽曲制作において心がけていることはありますか?
「映像が見える音楽をつくりたいと思っています。他のアーティストの作品を聴いていても、音を映像に変換して、自分の中で物語をつくったりするんです。逆に、映像を見て音をつくることもありますね。今回のアルバム、『コンビナートデ鳴ラスベキ音楽』がまさにそうで、日常生活では感じることのない、工業地帯やコンビナートが持っている、圧倒的で異様な威圧感を音で表現しようと思いました」
――この『コンビナートデ鳴ラスベキ音楽』を制作することになったきっかけは、何だったんですか?
「新宿のジュンク堂書店に、工場や廃墟、巨大建造物の写真集とかグッズを売っているコーナーがあって、そのコーナーを担当している店員さんに、“CDを置いてみない?”と依頼されたんです。で、せっかく音源を置くなら、そのコーナーにちなんだコンセプトの作品をつくろうと思ったのがきっかけでした」
――そこでなぜ、コンビナートをテーマに選んだんですか?
「一番馴染みがあるというか、すぐに映像や音が浮かんだのが、コンビナートだったんです。川崎は自分の散歩道みたいなものだし、そこの空気感を自分の中で消化できていたので、作品にできそうだと思いました。あと、ブックレットをつけて、ビジュアルと音を組み合わせたかったので、石井哲さんに写真を使わせてもらいたいとオファーしました」
――具体的には、コンビナートのどんな部分が、作品のインスピレーション源となりましたか?
「僕が巨大建造物のどこに興味を持っているかというと、内部の機械や稼働ではなく、建物自体や、ディテールなんです。コンビナートをよく知らない、普通の人でも分かるように、パっと見で格好いいかどうかが重要だと思っています」
――収録曲のタイトルには、専門的な機械用語が用いられていますが、これは、サウンドとリンクさせているんですか?
「アルバムのタイトルは直球ですが、曲名には、実は思惑があるんです。というのも、テクノの楽曲って、“何でこのタイトルなんだろう?”というものや、曲名が単なる記号でしかないものが多いですよね。それを逆手に取って、本作では、“コレ何?”と疑問に思われるような専門用語を並べてみたんですよ。だから、曲調とタイトルをリンクさせたわけではありません。曲名が説明的すぎると、聴く人の想像力に制限をかけてしまうと思ったので」
――なるほど。曲を聴いて、タイトルになっている機械がどんなものか想像するのも、おもしろそうですね。
「そうですね。ただ、唯一8曲目「[1965-2004]No.5 SOGA」のタイトルには、意味を持たせています。これは、千葉県の蘇我にある、現在取り壊されている、JFEスチールの製鉄所をテーマにしました。蘇我にフクダ電子アリーナという サッカー・スタジアムがあって、そこから製鉄所が丸見えなんです。いわば、街の中に製鉄所という異物がある、異様な風景なんですよ。その製鉄所が、操業停止になりながらも大地に踏み留まり、どんどん解体されていくというノスタルジーに近い心象風景を、この曲では表現しました。製鉄所に対するレクイエムといったところですね」
――この「[1965-2004]No.5 SOGA」は、最もアンビエント・タッチな一曲ですね。ブックレットに載っている、夕日を浴びる溶鉱炉の写真も印象的でした。曲順は、何かのストーリーに沿っているんですか?
「ストーリーというよりも、ランドスケープということで、まずは全景を見渡して、続いて各工場をクローズアップし、夜景や昼間の配管むき出しな姿を掲載しています。あとは、人間がつくったというより、配管の入り組んだ機械たちが、勝手につくり出した音楽をイメージしました」


