'83年にオクラホマで結成されて以来、USオルタナティヴ・ロック・シーンの重鎮として、唯一無二のサイケデリック・サウンドをつくり続けてきたバンド、ザ・フレーミング・リップス。『ザ・ソフト・ブレティン』('99)、『ヨシミ・バトルズ・ザ・ピンク・ロボッツ』('02)といったヒット作で知られる、世界的人気を誇るビッグ・アーティストだ。中心メンバー、ウェイン・コイン(Vo/G)の類い稀なカリスマ性に影響を受けたアーティストも数多く、その言動はシーンに高い影響力を持っている。
そんな彼らが、『アット・ウォー・ウィズ・ザ・ミスティックス(神秘主義者との交戦)』('06)以来、約3年ぶりとなる、通算13作目のオリジナル・アルバム『エンブリオニック』をリリースした。全18曲もの楽曲を収録した、ダブル・アルバム作品だ(日本盤は、ボーナス・トラックを含む全19曲を収録したCD1枚組仕様)。ジャム・セッションを軸に完成させたというその内容は、前作のカラフルな趣きとは打って変わって、よりフリーキーでディープな音世界を探求したもの。MGMT、カレン・O(ヤー・ヤー・ヤーズ)が参加した楽曲を含め、彼ら独自の音楽性が凝縮した作品に仕上がっている。
正にサイケデリックな大作『エンブリオニック』の内容について、8月にサマーソニックで来日を果たしたウェイン・コインに、対面で話を聞いた。
テーマは、君たちみんなで考えて
――早速、ニュー・アルバム『エンブリオニック』について聞かせてください。本作のメイン・テーマは何でしたか?
「正直なところ、自分でもよく分からないんだ(笑)。とりあえず先に曲をいくつかつくってみて、後からテーマを考えてみようという感じだったね。で、制作途中の段階で、このアルバム・カバーの写真を決めて、再び曲づくりを行なっていった。だから、このアルバム・カバーから何かインスピレーションを受けたということはあったと思う。とても不思議な写真だろう?」
――そうですね。ともかく本作は、このアルバム・カバーの写真などからインスピレーションを得て、自然発生的にできていった楽曲をまとめた作品なんですね。
「人間って、直感的に良いか悪いかを決めていく部分があって、そこから何かが生まれてくることも多い。今回のアルバム・カバーは、本当に不思議な写真だ。彼女は喜んでいるのか嫌がっているか、分からない。でも、そこがいいね。つまり、このアルバムはそういう作品なんだ。テーマ自体は、何百もありそうな気さえしている。だから、このアルバムのテーマは、君たちみんなで考えてみてほしい(笑)」
――分かりました(笑)。
「で、この作品は、アルバム2枚分の長さがあるから、みんなにはかなり長い旅をしてもらえるんじゃないかと思う。様々な愛の形が詰まっていると思うよ。一つ言えるのは、ある男女がいて、そこには愛や悪意があったりするんだけど、愛とは悪意の先にあるものだから、愛に到達するためには、一度悪意の中に入らなきゃいけないということなんだ。で、二人は、そこから純粋な愛というものを見つけ出して、最終的には制約も何もない、自分達が求めていた自由な愛というものを得ることができるんだよ。このアルバムでは、そういったことも取り上げている」
――あなたらしい、形而上学的な話ですね。ところで、本作は、当初からダブル・アルバム分のヴォリュームでリリースする計画だったんですか?
「今作では、曲を捨てないようにしようって思ってね。一枚のアルバムの中に、シングル・アルバムでは捨ててしまうような、あんまり良くないと感じた曲を入れておくのも、正直でいいじゃないか、って思ったんだ。何枚もアルバムをつくっていると、何でもいろんなことができるって感じになってくるのかもしれないね。実際、『Zaireeka』('97)では4枚組のアルバムをつくってしまったし、前作もダブル・アルバムにしようという計画があったんだ」


