BUGZ IN THE ATTIC インタビュー/LOUD140号
ウエスト・ロンドンの屋根裏から世界に送る フューチャリスティック・ソウル・ヴァイブス
イギリスはウエスト・ロンドンで近年盛り上がりを見せている、ブロークン・ビーツ・シーン。広い意味ではフューチャー・ジャズ・シーンに分類されるが、かつてのアシッド・ジャズ・ムーヴメントとは別系譜のルーツを持つシーンだ。その音には、ジャズやファンク、ソウルといったブラックネスを、テクノやハウス、ヒップホップなどの近代テクノロジーでブラッシュアップしたかのような独特の世界観がある。硬質で跳ねた、不規則なビート・プログラミングも特徴的だ。 ここで御紹介するバグズ・イン・ジ・アテック(以下、バグズ)は、オリン“アフロノート”ウオルタース、ポール“セイジ”ドルビー、カイディ・テイタム、ダズ・アイ・キュー、アレックス・フォンツイ、クリフ・スコット、マーク・フォース、マット・ロードから成る8人組のプロデューサー集団で、ブロークン・ビーツ・シーンの中心に位置する最重要プロジェクト。ここ日本でも、ジャズ / クロスオーバー・シーンを中心に、コアな人気を集めている。 彼らの代表曲としては、イギリスBBC Radio1の人気プログラム『Gilles Peterson World Wide』が、“Track Of The Year 2004”に選んだ「Booty La La」が挙げられる。このヒットで彼らの地位は確固たるものとなっているが、それまでのリリースは、アナログ・シングル、リミックス・ワーク集、そしてミックスCDのみだった。ゆえに、オリジナル・アルバムのリリースが渇望されていた。 そして、ついに! 満を持してファースト・アルバム『Back In The Dog House』は、リリースされた。ゲスト・ボーカルには、クィーン・オブ・ブロークン・ビーツことベンベ・セグエ、ベースメント・ジャックスのシンガー、シャーリン・へクター、リール・ピープルのメイン・ボーカル、ヴァネッサ・フリーマンなどが参加、作品にさらなる活気を与えている。 メンバーを代表して、落ち着いた雰囲気を持つ生っ粋のトラック・メイカー、バグズ一の高身長、アレックス・フォンツイがインタビューに応じてくれた。
俺達が愛する、'80sソウル、ハウス、ジャングル、'70年代のフュージョンなどを全て融合させた、エキサイティングで楽しいダンス・ミュージックを再びつくりたいという気持ちが原動力になっていた。 パーティーにピッタリなアルバムを目指したんだ。 家でかければ、遊びに来た誰もが楽しめるダンス・アルバムに仕上がっているよ。 最終的には完璧なライヴ・バンドとして活動したい。
―まずは、ブロークン・ビーツ、あるいはウエスト・ロンドン系という名で語られる音楽の誕生について聞かせてください。
「ブロークン・ビーツっていうジャンル名は、実は数年前に日本のメディアがつけた名前なんだ(笑)。ジャングルやドラムン・ベース、ハウス、R&B、ヒップホップなど、幅広い音楽から影響を受けてきた(ブロークン・ビーツ)シーンの連中の多くがウエスト・ロンドン在住だったことから、いつの間にかウエスト・ロンドン系として浸透するようになったんだ」
―どんな経緯でバグズは結成されたんですか?
「他のウエスト・ロンドン系の仲間達も似た状況にあったと思うけど、俺達はドラムン・ベースやハウスに飽きてしまって、当時の音楽シーンにフラストレーションを感じていたんだ。それが結成の切っ掛けだね。俺達が愛する、'80sソウル、ハウス、ジャングル、'70年代のフュージョンなどを全て融合させた、エキサイティングで楽しいダンス・ミュージックを再びつくりたいという気持ちが原動力になっていた」
―バグズにリーダーはいますか?
「俺達はアナーキーなグループだから、リーダーはいない。音楽制作中は常に白熱した議論が飛び交っているよ(笑)。俺は当時ハウスやガラージが大好きだったセイジと、17か18歳の頃にクラブで出会い、一緒に音楽制作をするようになったんだ。二人で制作した楽曲を、フィル・アッシャーに紹介してもらったオリンのレーベル、MOUSETRAPから発売した関係で、俺達はバグズに加入することになった。メンバーのマーク・フォースは、以前セイジとドラムン・ベースの作品を発表していた仲さ。カイディ・テイタムは、ある時ハーバライザーの隣のスタジオでミックス・ダウンしていた時にふらっと現れて、そのとき加入することになった。他のメンバーに関しては、オリンがそれまで一緒に仕事をしてきた仲間達だよ。クリフ(・スコット)は、レコード・ショップ勤務のハウスDJ兼プロデューサーだったな。今のメンバーが揃ったのは'06年の年末だったけど... そもそもの出会いは約10年前になるね」
―ユニット名が個性的ですね。
「名前は、フィル・アッシャーが住んでいた、ウエスト・ロンドンのリッチモンドにある屋根裏部屋スタジオで起きた事件に由来しているんだ。フィルの友人であるオリンが、フィルのスタジオにいた時に、フィルがミキシング・デスクの上で死んでいたハエを“おい、見ろよ。屋根裏部屋の虫(bugs in the attic)”って言ったのをヒドく気に入ったんだ。で、フィルがその時“じゃ、いつか使っていいよ”と言ったらしい(笑)」
―昨年、同じくウエスト・ロンドン・シーンで活躍するI.Gカルチャーが来日した際、彼はバグズのTシャツを着ていました。彼に話を聞いたところ、“メンバーではないけど、リスペクトしてるし、仲間意識は大切だろ?”と言っていました。ウエスト・ロンドン・シーンには、他にもフィル・アッシャー、パトリック・フォージ、ディーゴ(4ヒーロー)、マーク・ド・クライヴーロウ、リール・ピープルなどの実力者がいますが、彼らとはどういった関係を築いているんですか? イースト・ロンドンにあるクラブ、Plastic Peopleでは、彼らと一緒に
「I.Gと俺達は古い友人だよ。スタジオも隣同士だから、ほぼ毎日顔を合わせている。フィル・アッシャーも、パトリック・フォージも、ディーゴ、マーク、リール・ピープルも、全員がソウル・ミュージックの大ファンという点で、同じ土台を基に活動している仲間だよ」
―ブロークン・ビーツは昨今、ウエスト・ロンドンを飛び出し世界中で盛んになりましたね。例えば、同じヨーロッパでは、ジャザノヴァや、アレックス・アティアス、アメリカでは、DJスピナ、アイロ、ティトントン、ここ日本では、KYOTO JAZZ MASSIVEやJAZZTRONIKなどのアーティストが、ブロークン・ビーツのグルーヴ / ビート感を取り入れた作品を手がけています。また、彼らのなかには、バグズをフェイヴァリットに挙げる者も多いです。こういった現象を、どのように受け止めていますか?
「ブロークン・ビーツが拡がっていくのは良いことだし、フェイヴァリットに挙げてもらえて、とても嬉しい。今挙がったアーティスト達は“ブロークン・ビーツ+ハウス”、“ブロークン・ビーツ+ヒップホップ”という具合に、ウェスト・ロンドンの音楽とはまた違った形で独自の作品を発表している点がいいね」
―ブロークン・ビーツ・シーン以外で、注目しているアーティストはいますか?
「ハウスとブロークン・ビーツを融合させたソニック・グルーヴというプロデューサーや、UK出身のMC、ワイリー、ノルウェイ出身のトッド・テリエに注目している。他にも、カール・クレイグ、ケリー・チャンドラーなどのテクノ、ハウスもの、ネプチューンズをはじめとしたUSヒップホップもの、ポップ・ミュージックなら新人のリリー・アレンが気に入っている」
―それでは、アルバム『Back In The Dog House』について聞かせてください。これまでにバグズは、数多くの12インチ、リミックス、さらにファブリックからのミックスCDなどを発表してきましたが、オリジナルCDアルバムは今作が初です。今作に収録されている「Once Twice」は、'98年のファースト・シングルをリメイクしたものですが、アルバムの青写真は、この頃からあったのでしょうか?
「デビュー・シングルを発表した'98年頃からアルバムを制作したいと考えていて、タイミングを待っていたんだ。だから、思い出深い出来事は山ほどあるね。アルバム制作は長くて大変な過程だった。みんな、とにかく自分の意見を主張する奴ばかりだから、議論が絶えなかったよ(苦笑)。「I'm Gonna Letcha」は特に難産だった。ヴァースはあるのに、いいコーラスがなかなか思いつかなくて、完成させるのに半年かかったんだ」
―アルバム・タイトル『Back In The Dog House』に、特別な意味はありますか?
「名前は言えないんだけど(苦笑)、以前俺達バグズの1匹がガールフレンドに内緒でフラットを借りていて、奴は彼女に怒られるたびに、“犬小屋(dog house)”と呼んでいたその隠れ家に逃げ込んでいたんだ。こういう仕事をしていると、夜遅くまでスタジオ作業が続いたり、ツアーで会えなくなったり、ガール・フレンドと揉めることが多いだろ(苦笑)? 俺達は物事が上手くいかなくなると、“犬小屋行き(back in the dog house)”ってフレーズを仲間内で使っているんだよ(笑)」
―「Happy Days」や「Inna Row」などのクラシカルなブロークン・ビーツ・チューンのみならず、ブギーや、R&Bテイストの落ち着いたグルーヴ、さらにブレイク・ビーツ・テイストの曲まで、アルバムには収録していますね。今作を制作するにあたって意識したコンセプトはありますか?
「パーティーにピッタリなアルバムを目指したんだ。家でかければ、遊びに来た誰もが楽しめるダンス・アルバムに仕上がっているよ」
―楽曲制作は、8人全員で行っているんですか?
「メイン・ソングライターはベンベ・セグエだったから、彼女を中心にして楽曲を書いたんだ。これまでのバグズ作品には、フリースタイルで制作したものが多かったけど、今回初めてヴァース、ブリッジ、コーラス、に分けて、トラディショナルな作曲方法でつくったよ。曲によってパターンは異なるけど、8人全員が集まって楽曲制作に取り掛かるのではなく、2、3人で仕上げてしまうことが多かったな。俺達8人はプロデューサー集団だから、メロディーは書くけど歌詞はシンガーに任せることが多かったね」
―ボーカルをフィーチャーした楽曲が多いですね。バグズの面々はインスト・トラックも得意だと思うんですが、今作でボーカル・チューンを前面に押し出したのには、何か特別な理由がありますか? また、正式メンバーにはボーカリストを入れず、各楽曲ごとにゲスト・ボーカルを招くスタンスを取っている理由も聞かせてください。
「基本的にバグズ名義の作品ではボーカル曲をやりたいんだ。だから、インスト曲は他の名義で発表しているんだよ。当初シンガーを一人に決めたいと考えていたけど、たくさんのシンガー達が参加したいって言ってくれたから、こういう形になった。でも、ライヴではヨランダという女性シンガーがメイン・ボーカリストとして参加しているよ。ヨランダは、ブリストル出身の才能あるシンガーなんだ」
―今作からのシングル・カットには、「Move Aside」「Sounds Like」「Once Twice」「Booty La La」がチョイスされています。これらを選んだのはなぜですか?
「「Booty La La」は、もともとリミックスCDに収録していた楽曲だけど、サビが印象的だから、絶対にシングル向きだと判断したんだ。「Move Aside」は非常にキャッチーで、これもシングルにいいと思った。「Sounds Like」と「Once Twice」は、以前アナログで限定発売したレア盤だったから、ファンのためにシングル・カットしたんだ」
―「Booty La La」は、'04年の大ヒット・トラックですよね! メインストリームも巻き込んだ、あなた方の出世作だと思います。当初ここまでのヒットを想像していましたか?
「コーラスがキャッチーだから、ヒットの可能性はあると予想していたけど、あんなにヒットして驚いたね! 「Booty La La」のテーマは、ズバリ! “パーティー”。バグズを知らない人達でも楽しめると思うし、V2から発売することで、より広い層へと届けることができるから今作にも再収録したんだ。今回のデビュー盤にも収録しないと、大勢の人達に“なぜ入れなかったんだ?!”って問いつめられるとも思ったね(笑)。ライヴでも最高潮に盛り上がる曲だし(笑)」
―ヤーブロウ・アンド・ピープルズによるディスコ・クラシック「Don't Stop The Music」のカバーも収録していますね。
「ディスコ・クラシックというより、'80sソウルのブギー系ナンバーだと思うよ。カバーすることで、俺達8人が愛する音楽的ルーツを伝えたかったんだ」
―今作の収録曲で、特に気に入っている楽曲はありますか?
「タイトなプロダクションに仕上がった「I'm Gonna Letcha」、'80sソウルを彷彿とさせる強力ナンバー「Consequences」、これまでのバグズとは異なる雰囲気のある「Worla Hurt」の3曲が特に気に入っているよ」
―個人的には、「Inna Row」がフロア・キラーな感じで好きです。
「「Inna Row」もいいだろ(笑)? あれはクラブ向きナンバーだね」
―様々な音楽性を披露した今作のリリースによって、新たなファン層も獲得できそうですね。また、かねてからのファンも、新たなバグズの側面を楽しめることと思います。彼らに向けてのメッセージはありますか?
「マジメに考えすぎず、とにかく楽しんで踊ってくれ(笑)! 昔からのファンも、もちろん楽しめる内容だから、今回の新作はぜひともみんなに聴いてもらいたい」
―最近はライヴ活動も盛んに行っているようですね。ステージでのパフォーマンスは、どんな形態で行っているんですか?
「これまではDJ2名とMC1名を中心としたライヴだったけど、今後はバンドに近い形でツアーする予定なんだ。現在はDJ1名、キーボード奏者2名、その他ミュージシャン2名、ボーカリスト2名を中心としている。他にもミュージシャンを増やしていく予定だよ。最終的には完璧なライヴ・バンドとして活動したいね」
―メンバーはソロ活動も盛んに行っていますね。今後の予定 / 展望をお聞かせ下さい。
「個人としては、新しいプロジェクトを開始させたばかりなんだ。クラブ仕様のインスト・トラックを制作する予定。バグズとは違ったエクペリメンタルなサウンドになるよ。イタリアのARCHIVE RECORDSから12インチを発売する。最終的にはアルバムも出したいね。バグズのシングルをリミックスする計画もある。バグズの各メンバーは、それぞれが別プロジェクトも進めているから、みんな忙しくなりそうだ。グループとしては、早く日本でライヴをやりたいよ!」
interview & text SOICHIRO NAITO
translation KEIKO YUYAMA


