MARK DE CLIVE-LOW インタビュー/LOUD119号
ブロークン・ビーツ界の鬼才、セカンド・アルバムをリリース!
ウェスト・ロンドンを拠点に活動を展開しているマーク・ド・クライヴーロウは、次世代ニュー・ジャズ・シーンの担い手として注目を集めているアーティストの一人。4歳の頃からピアノを始めた彼はこれまでにキーボーディストとして様々なセッションに参加、ロンドンでも老舗のジャズ・クラブ、Jazz Cafeや
そんな彼が4年振りとなるアルバム、 『Tide's Arising』 を完成させた。ニュー・ジャズ・ファンにはたまらない豪華ゲスト陣が参加しているこのアルバムについて、話を聞いた。
『Tide's Arising』はソウル・アルバムで、深いところにジャズがミックスされているんだ
―『Six Degrees』から約4年振りのアルバムですが、ずいぶん時間が掛かりましたね。この4年間、このアルバムの為に一体どのような準備をしてきましたか?
「『Six Degrees』が出てから2年ほどは、レコードをプロモーションするためにツアーもたくさん行ったし、別のアーティストとのコラボレーションや自分の作品で忙しかったんだよ。新しいアルバムで表現したいことをまた見いだすのに時間もかかったし、様々なことを吸収していたね。機材をMPC2000から3000に変えて、いろんな制作のテクニックを試してみたり、昔の素晴らしいソウルミュージックを再発見したりしていたんだ。2001年に僕がVERVEのためにやったシャーリー・ホーンのリミックスはターニングポイントになったと思う。『Six Degrees』のように大きくジャズに頼ったサウンドではない、新しいサウンドを見つけたから。ビート・メーカーとして、プロデューサーとしての自分のスキルを磨くいい挑戦になったと思うよ」
―ここ数年、DJスピナやマスターズ・アット・ワークなど様々なアーティストとコラボレーションを行っていましたね。そうした経験は、このアルバムに役立っていると思いますか?
「もちろん! DJスピナの『Beat Generation』に参加したのはとても楽しかった。僕はずっと彼のヒップホップがかっこいいと思っていたんだけど、スタジオに一緒に入ったとたん、すぐに気があったよ。ケニー・ドープとの仕事も素晴らしかった。彼はとんでもないビートマスターだ。素晴らしいプロデューサーやアーティストとコラボレーションするのは、相手が誰であれ本当にいいインスピレーションになる。お互いにたくさんのことを学べるのが素晴らしいね」
―前作と比べ、参加メンバーも大きく変わったと思います。特に今回はベンベ・セグェ、ヴァネッサ・フリーマン、カイディ・テイタム、ネイサン・ヘインズ、アブドゥール・シャイロンなど、ウェスト・ロンドン勢の参加が目に付きます。全面的にウェスト・ロンドンでつくられたアルバムだと言えると思うのですが、そうした点で前作との違いはどんなところになっていますか?
「基本的に『Six Degrees』はジャズ・ミーツ・ダンスフロアという感じだったのに対して、『Tide's Arising』はソウル・アルバムで、深いところにジャズがミックスされているんだ。『Six Degrees』で1曲ギターを弾いてくれたネイサンの兄弟、ジョエル・ヘインズが今回のアルバムでは全部ギターを演奏してくれたんだけど、こういうふうに音楽的な人間関係をレベルアップできたのは嬉しいことだね。彼は間違いなく天才だよ。パーカッションを担当してくれたミゲル・フエンテはプエルトリコ出身で、今はニュージーランドに住んでいるんだ。過去にジョージ・ベンソン、パティ・ラベル、ガムボール・アンド・ハフ、マイルスなど数え切れないほどの巨匠たちと仕事をしてきたミュージシャンだ。うまいだけでなく、打ち込みのビート・カルチャーやリズムの発展にもオープンに対応できるパーカッショニストはなかなかいないね。ウェストロンドンに住んで5年以上になるけど、こういうサウンドが出来上がったのはとても自然なことだと思うよ。今でもダンス・ミュージック、ソウル、ジャズで最も新しいサウンドはここウェストロンドンから生まれてくると強く感じているんだ。ベンベ、アブドゥール、カイディなどみんな本当に素晴らしく才能溢れるアーティストだ。僕らはこれまでの音楽にも深く愛着を持っているけど、自分たちが音楽をつくるときには未来を見て書いている。前作との最も大きな違いは、前回はMPC、打ち込み、エレクトロニック・ミュージックからの影響を混ぜ合わせた僕にとっての初めての試みだったけど、今回は機材にも慣れているし、僕自身が経験を積んだミュージシャンになっているので自然と音楽にもその成長が現れていること」
―マークはキーボディストとしての役割もさることながら、全体のプロデュース、そしてトラック・メイカー、プログラマーとして、実に沢山の役割をこなしていますね。自分の中では、特にどの部分にポイントを置いてアルバム制作にあたりましたか?
「ミュージシャンとして自分は常に向上しているし、学んでいるし、変わってきてもいるだろう。それがクリエイティブ・アートの一番いいところだ。プロデューサーとしての役割はここ数年で特に磨いてきたスキルだと思うし、ほかの誰とも違うオリジナルなサウンドをつくったと思う。クインシー・ジョーンズやミゼル・ブラザーズが手本となっているんだ。ビート・プログラミングも大切な部分だ。ただリズムを刻むというのではなく、ドラムキットに人格があるかのように、曲を良く聴こえさせるために最適なサウンドをつくらなくてはいけない。さらに新鮮な新しい音でなくてはいけないけど、それでいてあまりにかけ離れていてもいけない。何人かのプロデューサーから“君のアルバムのビートをやらせてくれ”と言われたけど、ビートは僕にとって相当重要な部分なんだ。だからそこは自分で自分のサウンドをつくらないといけない」
―アルバムでまず印象的なのは、「Slide」、「Syndrome」、「Tide's Arising」、「Sila's Theme」といったヘヴィーでファンキーなナンバーで、今まで以上に力強いマークの姿を見たような気がしました。こうした曲が多くなった背景には、何かあるのでしょうか?
「前のアルバムの時、たぶん僕はまだジャズなモードだったんだ。ビル・エヴァンズやスタン・ゲッツの歌詞の世界が大好きだった。でも、ブーツィーやプリンスの生っぽいファンクも最高だ。ジャズでできたように、今なら自分のパーソナリティをうまくファンクに持ち込むことができると思うんだ。だからどっちか、もしくはどちらも必要な時には使うよ。ファンクにはジャンプ感とツイスト感がある。ファンクはセックスでジャズはロマンスといった感じかな。どちらかが欠けていてもいけない。陰陽のバランスと同じだね」
―一方、「Traveling」、「Quintessenial」では、そうしたファンクっぽい流れの中に都会的で洗練されたフィーリングを持ち込み、さらに「State Of Mental」、「Heaven」はメロウなフィーリングを感じさせる作品に仕上げていますね。「4 Y.V.」ではラテン的な要素も取り入れ、都会的なメロウネスとはまた違った感じを受けました。全体的に、そうしたファンキーさとメロウさが共存した印象があるのですが、アルバム・トータルの流れで特に気を使った点は何でしょう?
「特にはないね。僕はアルバムをつくるために40、50曲と曲を書いて、その中から最もいい10曲を選んでCDに入れるといったアーティストではないんだ。それをやると意味がなくなってしまい、自分のアートが水で薄まってしまうような感じになる。アルバム用につくった曲で2曲、今回のアルバムに入らなかったものがあるけど、それは他のものとのマッチングがうまくいかない場合があるから自然なことだと思う。でも全体的には最初から思っていたバイブレーションで、全ての曲に関連性があるように、同じ流れとフレーバーで曲をつくっていったんだ」
―最後に、このアルバムで、特に注目してほしいところはどこですか?
「全部!いろいろな聴き方ができると思うよ。ただビートを楽しんでもいいと思うし、歌詞を深く聴いてもいいし、ボーカルのアレンジに注目してもらってもいいと思う。たくさんのレイヤーがあるからバリエーションはいくつもある。曲によっては驚くほどシンプルに聴こえるものもあるだろうけど、聴くたびに新しい発見があるだろう。どれも100%ポジティブなものだから、このアルバムを聴いてそういったことを感じてもらえたら嬉しいね」
text 高橋 亮
question 小川 充(DMR)


