ASIAN DUB FOUNDATION インタビュー/LOUD123号
ダブ侍、ネズミを斬る。
在英エイジアンを軸に、そのコミュニティーを基盤とした活動で、弱者の立場に立って社会的な矛盾を痛烈なリリックで斬ってきたバンド、エイジアン・ダブ・ファウンデーション(ADF)。政治的なメッセージを発信し続けているこのバンドは、'98年リリースのセカンド・アルバム『Rafi's Revenge』の高い評価から、プライマル・スクリームとツアーを回ったり、デビット・ボウイのライヴでフロント・アクトを務めるようになり、一気にブリティッシュ・ロック・シーンで人気を獲得。当時、再注目を集めていたバングラ・ビートを、より攻撃的に昇華したダビーなサウンドで、現在に至るまで特異なポジションを築き上げている存在だ。
'03年にはフロントを務めていたMCのディーダ・ザマンが脱退、新たに二人のMC(アクターとスペック)をメンバーに迎え、再スタートを切っている。ここから出来上がったアルバムが『Enemy Of The Enemy』だった。ヨーロッパ圏の国境解放や、9.11の同時多発テロといった、世界的な問題に目を向けたこの作品では、ブリティッシュ・ダブのパイオニア、エイドリアン・シャーウッドをプロデューサーに迎え、シニード・オコナーやレディオヘッドのギタリスト、エド・オブライエンをゲスト・ミュージシャンに起用。サウンド、メッセージの両面において話題となった。
近年はライヴ活動をメインに、制作面では鳴りを潜めていた彼らが、フィフス・アルバム『Tank』をリリースした。2MC体制に加え、今作からOn-U Sound所属のヴォーカリスト、ゲットー・プリーストがバンドに参加。彼のラガ・テイストあふれる甘い歌声は、ADFのサウンドに新たなエッセンスを加えている。その一方で、共同プロデューサーには、ジュノ・リアクターのベン・ワトキンス、レフトフィールドのサウンド・エンジニアとして知られる、アダム・レンを起用。クラブ・ライクなビートも際立っており、よりエレクトロニックな方向性も感じさせるアルバムに仕上がっている。
バンドのコアを成す、ギターのチャンドラ・ソニックに話を聞いた。
自分が政治アナリストだとは思わない。音楽とバンドで、純粋に自分達が感じたことを曲にして表現する、というだけのことなんだよ。
―まずは、『Tank』というタイトルの由来を教えてください。
「タイトルはジャケットを見た通りだと思うんだけど......(笑)。最初、タイトルをどうするか考えていなくて、曲名をモチーフにデザイナーがつくったジャケット案の一つがこれだったんだ。曲名とアートワークがぴったりとハマッているね」
―前作『Enemy Of The Enemy』では、9.11の同時多発テロがインスピレーション元になっていましたよね。その後、アフガンやイラクの問題、そこに見え隠れする石油の利権争いなど、西側諸国の横暴で、世界はさらに混迷を深めたと思います。ADFには政治的なパブリック・イメージが強くありますが、このような世界情勢の変化は、あなた達の音楽に何か変化をもたらしましたか?
「そのイメージについては、自分達自身でも感じているよ。アーティストとして自分が感じたことを表現したいと思う、それだけのことなんだけどね。だから、ADFに対してそのようなイメージを持たれてはいても、自分が政治アナリストだとは思わない。音楽とバンドで、最終的には純粋に自分達が感じたことを曲にして表現する、というだけのことなんだよ。「Oil」はまさしく石油にまつわる世界情勢のことを歌っているし、「Take Back the Power」(権力を取り戻せ)も君が言うような、ここ2年間の状況を歌っている曲だ。現在の世界情勢を率直に表した“事実”という意味でも、また感情的な部分においても、(このアルバムは)こういった世情に対する僕らのレスポンスなんだ。他に言いようがないよ。わかりやすい表現はできないな。だいたい、音楽というのはそういうものなんだ。決まった表現方法や形がないから良いものなんだし、だからこそ僕らは音楽をやっているんだ。好きなことを自分の思う方法で表現して良いのが音楽だからね」
―「Oil」の中には“タカ派の中に隠れているネズミの王”というくだりがありますが、これはブッシュ大統領のことですか?
「もちろんだよ!(笑)」
―ちょうど彼は政権2期目に入りましたが、それについてはどう思いますか?
「世界にとっての悲劇だ。誰にとっても大打撃だよ。本当にトップにいる少数の軍部関係者や産業界のリーダー以外の我々にとってね。ちなみに「Oil」は一番気に入ってる曲かな。全ての面においてね」
―「Powerlines」では、マッド・マイクとコラボレーションを行っていますが、彼と組むことになった経緯を教えてください。
「“The Fire This Time”(ポルトガル語&スペイン語圏の国に住む先住民族達による反体制&反企業経済運動。http://www.firethistime.com/)と“Indigenous Resistance”(前述TFTTの音楽レーベル。参加アーティストが世界各地へ出向いて、先住民族と音楽でコラボレーションするなどの活動をおこなっている)のプロジェクトで、彼とコラボレーションしたことがあるんだ」
―そういえばADFもURも“ATTAC”(反グローバリゼーション運動)のコンピレーション・アルバムに参加していましたね。あの集会に参加したことはありますか?
「本来はライブをやる予定だったんだけど、メンバーの奥さんが急病になったために辞退したんだ。残念だったよ」
―『Tank』リリースまでに数多くのライブをこなしてきましたよね。バンドはどのような成長を遂げたと思いますか?
「いや、ほんとにライブは多かったよ。このアルバムにも参加してくれているゲットー・プリーストの加入は大きいね。俺は彼の声がとても好きなんだ。甘いレゲエの声質を持っているからね。それがバンドとしての成長で、もっとも大きい点だよ」
―「Flyover」は、ゲットー・プリーストのヴォーカルで、曲全体が強烈なラガ・フレイバーを帯びながらも、クラブ・ライクな2ステップ・ビートがとても馴染みやすく、アルバム中一番印象的な曲だと思いました。
「それはうれしいね! この曲は最初に俺が歌詞を思いついたんだけど......、これまでには出来得なかった曲だね。基本的にはロンドンへの愛情と憎しみについて歌っている曲なんだ。僕は車を運転しないし、自動車文化にはどうも馴染めない。人は運転をするとアグレッシウ゛になりがちだよね。ロンドンではみんな、怒り狂った人間のように運転しているんだ。運転している人間はみんな自己中心的で、何か問題が起こると必ず他人のせいにする。だから、俺は道路上から車が消えることを望んでいるんだ。環境汚染もイヤだし、自動車を取り囲む環境や文化も嫌いだ。それがこの曲のテーマなんだよ。まあ、俺の好きな音楽、ジャングルやドラムンベースは、もともとロンドンの車の音から来ていると思うんだけどね(笑)」
―そういえばロンドンには、車で市内に入る時はお金を払わなければいけない、という新しい条例ができたんですよね?
「そうそう。それでもまだ車はとても多いけどね。でも良い動きだと思うよ。自己中心的で身勝手なドライバーは不満らしいけどね。俺は大歓迎だ」
―「Melody 7」は、映画“アルジェの戦い”が題材になっているようですが?
「そう、上映中にオレたちがライブで演奏したプロジェクトだ」
―この映画はどのような映画ですか?
「アルジェリアの独立運動を描いた映画で、独立後のアルジェリアで初めて制作された作品なんだ。フランス占領軍とそれに抵抗する北アフリカ在住のアルジェリア人達、どちら側も描写している点が素晴らしい映画だね」
―その映画用にサントラをつくったということですか? それとも実際に観客が映画を観る中で、ライブ演奏をしたということ?
「劇場で観客が映画を観ている中、昔のサイレント・ムービーにオーケストラがいたように、オレたちが映画の映像に合わせて演奏をする、というプロジェクトだったんだ。観客は映画を見ながら、俺たちの音楽を聴くんだ。とてもうまくいったよ。これまでに関わったプロジェクトの中で、最も素晴らしいものだった。オレたちのアイデアだったんだけど、非常に実験的な試みで面白かったね」
―このような実験的活動から得たものは何ですか?
「ADFにとっては必要不可欠な部分だと思うんだけど、新しいアイディア、新しい試みをどんどんやっていくことは重要なんだ。特にライヴ・パフォーマンスは、音楽においてまだ革新性が残されている領域だと思うんだよ。現在ではもう、あらゆる音楽はやりつくされていて、どんな音楽も誰かが既にやった足跡を踏んでいるような感じだね。その点ライヴというフォーマットには、まだ試されていないことや、実験的な要素がたくさんある。しかもダウンロードできない。その瞬間にしか享受できない、常に貴重なものがあるんだ」
―最近の、音楽ファイルをダウンロードして楽しむという傾向には反対ですか?
「挑戦だと思うね。音楽は買う・買わないは別として、とても手に入れやすいものになった。それは素晴らしいことだけど、その反面、音楽の価値を下げることにもつながっているんだ。そんなに簡単に手に入ってしまっては、特別感は薄れるだろ? それに、CUBASEなどのシーケンス・ソフトが発達し、ソフトとラップトップだけで誰でも音楽がつくれてしまう。これによって、以前よりもオリジナルなことをするのが難しくなったと思うよ。今ではかつてのように、パンクやアシッド・ハウス、ドラムンベースといった、音楽における革命は起こらなくなってしまった。あの時代は終わったんだ」
―では、今のデジタル・ミュージック世代以降には、昔のように大きなインパクトのある音楽的ムーヴメントは起こせないと思いますか?
「誤解しないでほしい。音楽は常に進化するし、これからも革新的なサウンドは出てくるだろう。人々は今後も素晴らしい音楽を生み出していくに違いない。でも、その社会的な影響力は薄いと考えているんだ。それに、新しいアイデアが出てきても、今の時代ではすぐに使い果たされてしまうし、すぐに捨てられてしまうんだよ」


