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MOBY インタビュー/LOUD124号

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開演、モービー主演ラヴ&ロマンス劇場


これまでにも増して、何やら切ないトーンに支配されているモービーの音楽。と思ったら、やはり彼の心境はしばしハートブレイカーのそれだったようだ。1999年のアルバム『PLAY』が全世界で1500万枚のセールスを記録してからというもの、カルヴァン・クラインの広告モデルやオリンピック閉会式でのパフォーマンスなど、メジャーな活躍が目立っていたものの、モービーの音楽は今でもリスナーのすぐ隣にあるような親しみのあるサウンド、そのままだ。いや、むしろさらに肉薄してくるかのようでもある。  モービー約3年ぶりとなるニュー・アルバム『HOTEL』は、ニューヨーカーである彼らしいパーソナリティが従来以上に表現された意欲作だ。メランコリー、アイロニー、ユーモア、どれをとっても深みが増した感じ。ダンス・ビートに乗って弾けまくる超人的パフォーマンスと表裏一体のエモーショナルでロマンティックな世界が、生演奏と自身のヴォーカルを全面に配した楽曲群によって、スタジオ・アルバムにおいて上手く表現されている。もちろん従来のクラビーな感覚は健在だ。ニュー・オーダーの名曲「Temptation」をスローにしたカヴァーもやっている。  また、今回は『Hotel ー Ambient』と題されたボーナスCDを付けた2枚組デラックス盤も同時リリースされるが、こちらは一転して自身が述べている通り、静かでメロディアス、そして穏やかな内容だ。「辛くて長い一日の後に聴くと、気持ちが鎮まるんだよ」とは、彼自身の弁。あぁ、分かるよ、別れは辛いもの・・・というのは冗談にせよ、ともかくモービーという特異なアーティストの醍醐味を堪能できる内容ではある。


あらゆる意味において男女の恋愛関係をテーマにしているんだ。


―今作『HOTEL』のテーマを教えてください。
「今回のアルバムでは、あらゆる意味において男女の恋愛関係をテーマにしているんだ。数年間、非常にエモーショナルかつ情愛のこもった付き合いをしていた女性がいたんだけど.....残念ながら関係が上手くいかなかった。中には楽しいナンバーもあるけど、アルバム全体を通して“ロマンティックなのに物悲しい”雰囲気が存在するんだ。作品の最後の部分では、“恋人をすごく愛しているのに、二人はどうしても上手くいかない”という悲しい予感を描いていたりね」
―“HOTEL”というタイトルにしたのはどうしてなんでしょう?
「アルバム・タイトルの『HOTEL』には、“個人的な秘め事”というプライバシーの概念が大きく関連しているんだよ。人間とプライバシーの概念に関して僕が魅力を感じているのは、“人が私生活でおこなう行為は、人間の誰もが行っている行為”ということだ。例えば、誰かがホテルにチェック・インしたら、自分の部屋に入ってドアを閉め、風呂に入り、セックスをし、泣き叫び、そして笑う。この地球上にいる他の人間と同じことをしているのにも関わらず、人はなぜか自分のプライバシーを隠すことにもの凄いエネルギーを注ぐよね。誰もが同じことをやっているのに。これは実に不思議なパラドックスだと感じているんだ」
―今作のデラックス・エディションにはアンビエント・ディスク(『HOTEL ー Ambient』)を追加していますが、こちらはどのような試みなのか教えてください。音楽的な表現の幅をアピールしたい、リスナーへのサービス、自分自身のヒーリングのため、いろいろ考えられるのですが。
「気持ちを落ち着かせて、リラックスできるような作品をつくりたかったんだ。僕の場合、大好きな音楽を制作するのは自分とリスナー両者のためだね。このCDは辛くて長い一日の後に聴くと、気持ちが鎮まるんだよ。アルバム『HOTEL』が非常にパーソナルでヴォーカル中心の作品だとしたら、『HOTEL ー Ambient』はその真逆に位置する、静かでメロディアス、そして穏やかなアルバムだよ。とても静かなアンビエント系エレクトロニック・ミュージックが収録されている。CDを通して、徐々にこの静けさが増していくんだ。寝る前に聴けば、安眠を誘うね」
―ハーブ・ティー的な音楽ですね。
「うん。ハーブ・ティーと同じ効果がある(笑)」
―『PLAY』以降、毎回ジャケットの写真が面白いんですが、今作はどんなアルバム・ジャケットになるんですか?
「ロウワー・マンハッタンで僕が経営しているティー・ショップ、“TEANY”の目の前に新しく建設された“HOTEL ON RIVINGTON”という高層ホテルで撮った写真を使用している。このホテルの部屋からマンハッタンの景色を一望に収めることができるんだけど、新作のジャケット写真では、窓の前に立つ僕が眼下に広がるロウワー・マンハッタンを見渡しているんだ」
―先ほど、パーソナルでヴォーカル中心の作品と紹介してくれましたが、今作のサウンドでは『PLAY』や『18』と比較すると、「レイニング・アゲイン」に代表されるようなバンドっぽいフィーリングが強く打ち出されているように感じます。大幅にドラマーを起用したり、ギターの音色も要所要所で効いていたり、もちろんあなた自身がヴォーカルを担当していることも関係していると思います。どうして、このようなアプローチとなったのか教えてください。
「とにかく、よりパーソナルでヴォーカル中心のアルバムを制作したかったからなんだよ。だからこそ、今回はヴォーカル・サンプルを一切使用しなかった。確かに君が言う通り、バンド的な要素が強調されたアルバムだけど、ドラム以外の全ての楽器を自分で演奏したから、“バンド的フィーリング”にはアイロニーが秘められているんだ。つまり“ひとりバンド”ってことだね(笑)」
―パフォーマー、エンタテイナーとして成長を遂げたことが、今作のアプローチに影響していると思うのですが、スタジオ録音とライヴ・パフォーマンスの関係についてどのように考えていますか?
「ライヴ・ツアーではフル・バンドで演奏するけど、マンハッタンにある自宅スタジオで作品を制作する際は、全ての楽器を自分ひとりで担当しているんだ。現代のレコーディング技術は素晴らしいよね。ひとりで演奏したのに、まるでバンドが演奏しているように聴こえる作品が仕上がるんだから。これまではライヴで再現が難しいようなエレクトロニック・ミュージックが多かったけど、今回はほぼ全曲をアコースティック・ギター1本で書いたから、バンド形式での演奏が可能になったんだ。新作のツアーは、半分がバンド形式、残りの半分はエレクトロニック・ミュージックという構成になると思う」
―ニュー・オーダーの「Temptation」をスロー・テンポでカヴァーしていますね。以前もジョイ・ディヴジョンの曲をニューオーダーと一緒にカヴァーしていますが、彼らのどんな部分が好きなんでしょう? 今回「Temptation」をピックアップした理由は何ですか?
「ある時、“TEANY”で店内BGMとして誰かがかけたニュー・オーダーのベスト盤を聴いていた時に、この曲のロマンティックで無防備な歌詞内容に感動したのがきっかけだね。で、スロー・テンポでカヴァーしたいという気持ちに駆り立てられたんだ。ジョイ・ディヴィジョンやニュー・オーダーは、とてもメロディアスであたたかくて、そしてエモーショナルなポップ・ミュージックを書くから、昔から大好きなんだ」
―「スパイダーズ」では、一瞬デヴィッド・ボウイを思い出してしまったんですが、彼とはツアーを行ったそうですね。ズバリ、そこに影響された曲でしょうか?
「うん。これはデヴィッド・ボウイへのトリビュート・ソングと呼んでもいいくらいだよ(笑)。過去50年間に出てきたアーティストの中で、デヴィッド・ボウイは僕が個人的に大好きなアーティストであると同時に、(世の中に)最も影響を与えたアーティストだと信じているよ。ソングライターとしても実に素晴らしいし、創意に富んでいて.....彼の存在なくしては、現代の音楽は今のような進化を見ることはできなかっただろうね。僕は昔から彼の大ファンだったんだけど、数年前に友人として仲良くなったんだ。一緒にベネフィット・コンサートやツアー、それからバーベキュー・パーティー(笑)で一緒になるようになった」
―いちファンとして、ワクワクする体験ですよね。
「子供の頃のアイドルと一緒にツアーできるなんて、不思議な感じだったよ。毎晩ステージの脇で彼のライヴを見せてもらったのは、本当に素晴らしい体験だった。その時に潜在的に影響されてこの曲が出来上がったのかもしれないな」
―ちなみに今作で一番思い入れのある曲はどれですか?
「「スリッピング・アウェイ」だよ。これは最もパーソナルで、感情的なつながりがある楽曲だから」
―あなたが“パーソナル”や“エモーショナル”という要素を大切にしていることは、音楽から充分伝わってきますよ。例えばストリングスの使い方。特に『PLAY』以降、あなたは随分ストリングスの音色にとりつかれているように感じます。ストリングスが印象的で、心に残る曲が多いんです。あなたにとってストリングスはどんなエモーションをかき立ててくれるものなんでしょうか?
「非常にメロディアスな音色を奏でるから、感情を最も簡単に表現できる楽器だと思うんだ。僕は10歳からクラシック・ギターを弾き始めて、同時に音楽理論を学んできたけど、ギターも含めてストリングス全般が面白いのは、ピアノやフルート、ブラスとは異なり、パーカッシヴ(打奏的)な要素が一切ないことだよ」
―今作をリリースすることで、ダンス・ミュージック系のアーティストという枠を越えて、あなたはますますユニークなアーティスト性を確立しつつあるように思えます。DJもすれば、ライヴ・パフォーマンスもする、さらには、リミックス業、プロデュース業.....オリンピックにも出演できるまでになりました。あなた自身では、アーティストとしてのこうした多面的な要素をどのようにコントロールしていますか?
「ミュージシャンとしてのキャリアを積めるとは全く予想していなかったから、本当に運が良かったね。“きっと僕は誰にも聴いてもらえないような音楽をつくるミュージシャンになるんだろうなぁ”と思っていたんだ。過去15年間自分の作品を発表し、他のアーティスト達の作品をプロデュースしたり、リミックスしたり.....さらには憧れのヒーロー達とも会うことができて、今でも夢を見ているような気分だよ!」
―昔はミュージシャンは、まずミュージシャンだけやっていればよかったと思うんです。副業はおまけ。でも、あなたは、音楽にまつわるいろいろな仕事/役割を一人でこなしています。自分はスーパーマンだと思ったことはありませんか?
「アハハハハ(笑)。そんな風に思ったことはないなぁ。つくりたい音楽をこの手でコントロールできるようにしていたら、こういう結果になっただけ。例えば(レコーディング・)エンジニアやプロデューサー業を身につけたのは、自分が思い描く音を完璧に実現させるためだったからね」
―あなたの才能なら、将来は俳優業などでも大成できるのではないかと思ってしまうのですが、興味はありますか?
「僕が一生涯をかけてやりたいことは、音楽制作のみだよ。自分がいい俳優だとは思わないし(苦笑)。でも、先日俳優のジェフ・ゴールドブラムから、彼が低予算で製作するコメディ映画への出演をお願いされたから、今年は撮影に入り、来年には公開されると思う。俳優業に時間を割くより、聴き手側が彼らの人生における居場所を見つけられるような音楽をつくりたいな」
―今後のスケジュールや活動予定、さらに将来的にはどんな目標を持っているのか教えてください。
「夏までは新作『HOTEL』のツアーに出る予定で、7月か8月頃には日本へ行きたいと考えているんだ。もし夏に行けなかったら、秋には絶対行くつもり。それから僕が経営しているティー・ショップの“TEANY”にも引き続き力を入れたいね。97種類のお茶を置いていて、僕がニューヨークにいる時はほぼ毎日店に出ているんだよ。将来の大きな目標は.....誰かと恋に落ち、家族をつくること。もう40歳になるし、そろそろ家庭を築きたいんだ。独身のまま一生を終えたくはないし、音楽活動以外にも普通の生活を充実させたいから」
―最後に日本のファンへメッセージを。
「まずはアメリカ人として、アメリカ合衆国という国について、みんなにお詫びしたいよ。今、アメリカは政治的に非常に悪い時期を迎えているから、世界中の人達にこんな状況のアメリカに関して謝罪の気持ちを抱いているんだ。昨年の大統領選で僕はずっとジョン・ケリー候補を応援していたから、彼が選出されなかったことを大変残念に思っているんだ。それから、今年日本へ行く際にはみんなと会えることを楽しみにしているよ!」


intervbiew&text:Nori Taniue