THE CHEMICAL BROTHERS インタビュー/LOUD151号
ようこそ、輝けるクレイジー・ナイト・トリップへ
イギリスはもちろん、今や世界を代表するクラブ/エレクトロニック・ミュージック系アーティストとして知られているケミカル・ブラザーズ。数々のヒット・シングルを世に送り出し、クラブ・ミュージックが最先端のポップスとして通用することを証明してきた彼らが、最新アルバム『We Are The Night』をリリースした。
通算6作目となる本作は、彼らの得意技であるハウス、テクノ、ヒップホップ、ロックを自在に融合させたグルーヴをベースにしながらも、かつてなかった“新ケミカル・ブラザーズ・サウンド”を提示する作品だ。タイトル・トラック「We Are The Night」やファースト・シングル「Do It Again」に象徴される、シンプルでクリーンな印象を持つ楽曲群で統一された内容となっている。
深く美しいムードを有した本作で、彼らはどのような境地にたどり着いたのだろうか。トム・ローランズとエド・サイモンズから話を聞いた。
7年くらい前、僕らはスイスの首都バーンにある無断居住地でプレイしたんだ。
そこは'70年代から存在する、ものすごく広くて有名な場所でね。
その夜は、とにかく常軌を逸したワイルドでクレイジーなギグになったんだ。
そのときのイメージを曲にしたのが、「We Are The Night」だね。(エド)
ジャスティスやシミアン・モバイル・ディスコのような
ディストーション・ノイズたっぷりの音楽は、
僕らは既に通っているんだ。経験済みさ。
今回は、その荒くてザラザラしていた面に磨きをかけたというわけ。(トム)
そのとき僕らは夜になった
——『ウィ・アー・ザ・ナイト』は通算6作目になるオリジナル・アルバムですが、どのようなテーマで制作に入りましたか?
エド・サイモンズ(以下E)「いつもと同じように、自分達が愛せるアルバムをつくるということだったね。僕らはケミカル・ブラザーズとして、長いこと一緒に音楽をつくってきた。だけど、今でもスタジオで曲をつくっていると、興奮したり、挑戦したくなったり、怖くなったりする。僕らの音楽は、そういった自分自身の気持ちに大きな影響を受けている。そして、僕らにより難しい課題を投げかけてくるんだ。そんな中で、このアルバムは、僕らにとって音楽的にも精神的にも満足のいく作品になった。ハッピーだよ」
——あなた達の音楽の根底には、“モダン・サイケデリック・ミュージック”というコンセプトがありますね。その点に関して、何か変化した点はありますか?
トム・ローランズ(以下T)「確かに僕らの音楽には、リスナーをトリップさせるための要素が存在している。今作ではアプローチのやり方を変えて、いくつか新しいアイディアやコントラストを取り入れているけど、ベースとなっている信念は常に同じだよ。聴いた後、自分の脳や肉体が以前とは違うことに気付くような音楽、それをつくり続けることが僕らの目標だからね。言い方を変えると、音楽の持つ、人を変えるほどのパワーを信じる、ということさ」
——“ウィ・アー・ザ・ナイト”という言葉には、どんな気持ちを託しているんですか?
E「今作のアルバム・タイトルにもなった「We Are The Night」という曲は、最初から方向性がはっきりしていた曲の一つなんだ。曲をつくるときに最初から明確なアイディアがあることって、珍しいんだよね。数年前に...いや、あれはいつだったっけ?」
T「1999年頃かな」
E「そうそう。7年くらい前、僕らはスイスの首都バーンにある無断居住地でプレイしたんだ。そこは'70年代から存在する、ものすごく広くて有名な場所でね。その夜は、とにかく常軌を逸したワイルドでクレイジーなギグになったんだ。まるで1973年にタイムスリップしたような気持ちでパフォーマンスしたよ。そのときのイメージを曲にしたのが、「We Are The Night」だね」
T「それに“ウィ・アー・ザ・ナイト”はひねりのある言葉だから、アルバム・タイトルにも合っていると思ったんだ。“We Are The Chemical Brothers”とするよりも興味をひくし、もっと内容を知りたくなるだろうと思ってね。夜は、面白いよね。様々ことが起きる」
E「夜は“逃げ場所”でもあるし、全く違う世界へと変化する。何が起こるか分からない。そんな夜の中へと入っていく僕ら… ウィ・アー・ザ・ナイト、ということさ(笑)」
——“night”は、“knight(騎士/ナイト爵)”にもとれると思ったのですが、そういった含みはありませんか? あなた達のキャリアと実績を考えれば、相応しい言葉だとも感じますが。
T「ハハハ。そうだといいね〜。まぁ、“knight”って、僕らに欠けているクオリティだと思うけど」
E「僕とトムは、中世史を一緒に学んだ仲だしね。そういえば、友人に今回のアルバム・タイトルを言ったら、“それってKの付くナイト?”って聞かれたよ。実際、僕らはKの付くナイト”だからさ(註:もちろん、これはエドの冗談です)」
T「それなら、プログレッシヴ・ロックのアルバムでもつくった方がいいね(笑)」
トレンドに逆らう音づくり
——では、アリ・ラヴが参加したファースト・シングル「Do It Again」は、どういう心境を表現しているんでしょうか?
E「んー。ダンス・トラックだよ。それ以上でも以下でもない。緊張感のあるヴォーカルが入った、クラブ向けの曲さ」
T「エレクトロニック・リズムに染まった脳内で、二つの異なる感情がもつれ合うような感じかな。聴いている人のマインドを混乱させるような感じ。そういう意味では、容赦なく迫ってくる曲だと言える。分かりにくいかもしれないけど、それが曲の解説だね(笑)。スタジオにいるとき、僕らは“Let’s do it again!(もう一度やってみようぜ!)”っていう、まるで何かにコントロールされているようなモードになるんだ。みんな、クラブの暗いフロアの中でも“Do It Again”とループする声に操られて、その強烈な感覚を味わって欲しいね」
——また冗談で申し訳ないんですけど、実は一度解散しかかったんだけど、やっぱり“Do It Again”だとか、ありませんか?
E「いや~(笑)」
T「違うよ、僕らが音楽を通して伝えたいことを反映しているだけさ」
E「長いこと一緒にやってきたけど、解散しようなんて考えたことは、まだ一度もないよ」
T「まぁ、もし実際に解散したとしたら、再結成のときに使えるね。そうなったら、特別盤としてリリースしよう(笑)」
——真面目な質問に戻りますね。先ほど、“今作ではいくつか新しいアイディアを取り入れた”と言っていましたが、今回サウンド面で特に意識した点は何でしょうか? 全体的に、光沢感のあるクリーンな音で統一されているようにも感じましたが。
E「光沢があってクリーンか、いいね。そうだね、確かにクリーンだ。それは、昨今リリースされている他のエレクトロニック・ミュージックよりも、ディストーション・ノイズが少ないからだ」
T「僕らは、分かりやすいディストーション・サウンドを使わずに、でもこれまで同様のパワフルなフィーリングを表現できる、新しい方法を思いついたんだ。だから、今作は全体的にすごくパワフルだし、緊張感のある作品になったと思う。例えば、また「Do It Again」の話になるけど、ああいうテンションが高くて閉所恐怖症的な印象のある曲を、昔はサウンドだけを頼りに仕上げていたんだ。でも、今回はヴォーカル・アレンジメントを使って、同じ効果を演出することができた」
——なるほど。
T「それって、ある意味で今のトレンドに逆らっていると思う。でも、ジャスティスやシミアン・モバイル・ディスコのようなディストーション・ノイズたっぷりの音楽は、僕らは既に通っているんだ。経験済みさ。今回は、その荒くてザラザラしていた面に磨きをかけたというわけ」
僕らは成熟しない
——やはり、キャリアを重ねてきたからこそ可能となった方法なんでしょうか。今作で、より成熟した“ザ・ケミカル・ブラザーズ・サウンド”を完成させたという意識はありますか?
E「“成熟”という言葉は、僕らが最も求めていない表現だな。悪く思わないでね。もちろん、良い音楽をつくる自信はあるけど、僕らは自分達のサウンドを“完成”させたくないんだ。それは活動を始めた頃から、ずっとそう思っていた。僕らの音楽をずっと聴いてきているから先入観があるのかもしれないけど、全てを一度忘れたら、僕らがやっていることは成熟とはほど遠い、かなり未熟なものだって気が付くと思う」
T「例えば「Saturate」という曲なんて、僕らの作品の中でも一番インパクトの大きいクラブ・トラックじゃないかな」
E「かなりイケイケだよね」
——“自分達のサウンドを完成させたくない”とは、あなた達らしい表現ですね。
E「僕らが世に出している作品は、スタジオにある無限の可能性の中から“ピックアップ”してきたものなんだよ」
T「僕らは、今作でいろいろなことをやったつもりだから、視点を変えればいくらでも議論できると思う。例えば「The Pills Won't Help You Now」や「Battle Scars」に焦点をあてると、作曲レベルが向上したと感じられるはずだ。逆に「The Salmon Dance」は、僕らがこれまでにつくった曲の中で、一番アホな曲だね。だから、そういうふうに際立った個性を持った曲を一つに束ねたことが、今作の特徴かもしれない。僕らは常にアルバム各曲の多様性を大切にしてきたけど、今作は、その中でも最も各曲間の振れ幅が極端なアルバムなんじゃないかな。それにも関わらず、どの曲も“ケミカル・ブラザーズ”になっているよ」
刺激を求めるコラボレーション
——わかりました。では、参加アーティストについても教えてください。今回、クラクソンズ、ウィリー・メイソン、ミッドレイクといった新星アーティストを選ぶに至ったポイントは、どの辺りになりますか?
T「クラクソンズは、ニュー・レイヴの話はさておき(笑)、歌詞が特に好きなんだ。興味深いね。サイケデリックだし、今っぽいイギリスの音楽をつくっている。だから、僕らの音楽と相性が良さそうだと思ったんだ。彼らは僕らのファンだったみたいで、スタジオでのコミュニケーションもとりやすかった。すぐにお互いの求めているモノが分かったね」
E「ウィリー・メイソンは、僕ら二人とも彼の「Oxygen」っていう曲が大好きなんだ。すごくパワフルな曲だ。それで彼にアプローチして、一緒に何ができるのかいろいろと試していった。ミッドレイクは、彼らが去年出したアルバムを聴いて、感動したんだ。歌詞もプロダクションも素晴らしいし、エモーションがほとばしる作品だった。だから、彼らが僕らの音楽に加わったら、きっと面白いだろうと思ったんだ」
——そのミッドレイクが参加した「The Pills Won't Help You Now」は、その美しい曲調もさることながら、曲名も印象的ですね。”The Chemical Brothers. The Pills Won't Help You Now”と併記すると、ちょっと衝撃的でもあります。この歌はどういう経緯で誕生したんでしょうか?
T「歌詞を書いてくれたティムが、曲にストーリーをつけてくれてね。どんな話なのかはご想像に任せるけど、老人ホームが舞台なんだ。それでタイトルも、彼が決めてくれた。この曲名を見た人は、みんな“強烈なクラブ・トラックに違いない!”って確信するみたいだね(笑)。僕らのHPの掲示板でも話題になっているよ。でも、本当はすごく美しくて、エモーショナルな曲だ。アルバムの最後を飾るのに相応しいね」
——一方「The Salmon Dance」には、元ザ・ファーサイドのファットリップが参加していますね。これは、どういう経緯で実現したのですか?
E「昔から彼の奇妙なフィーリングが気に入っていて、いつか一緒にサイケデリックで不思議な曲をやってみたいと思っていたんだ」
T「『Bizarre Ride II The Pharcyde』('92)は、最高のアルバムだよね。僕らが選ぶヒップホップ・アーティストは、自分が聴いて育ってきた人達ばかりだから、一緒に仕事をするのはすごくエキサイティングだよ。今回、ファットリップはすごく斬新なアイディアを提供してくれた。僕らも彼のように、みんなが思ってもみなかった、新鮮な驚きを与える音楽をつくり続けたいね」
——ところで、コラボレート相手を選んでいくとき、何か基準にしていることはあるんですか? 毎回とても上手くハマっていますよね。
E「僕らにとってコラボレーションの醍醐味は、彼らと一緒に刺激的な時間を過ごせることにあるんだ。そこには、まずは何かやってみようという純粋な探究心がある。だから、この人と一緒にやったら何かマジカルなことが起こるかもしれないと思える相手なら、誰でもいいと言えるね。別に厳しいポリシーがあるわけじゃない。ピンときたアーティストと、一緒に何かを表現したいって願望があるだけなんだよ」
音楽は僕らの喜びだ
——あなた達は、今年で結成15年目を迎えました。移り変わりの激しいダンス/エレクトロニック・ミュージック・シーンの中で、常に第一線で活躍してくることができた理由は何だと考えていますか?
E「僕ら自身は、トップにいるなんて思っていないよ。大切なのは、音楽をつくることが楽しくて、僕らの音楽を聴きたいと思ってくれる人達がいるということなんだ。それがないと、続けられない。あとは、きっと自分達の音楽に対して妥協してこなかったからだろう」
T「僕は、良い作品をコンスタントにつくり続けていることが理由だと思っている。それは、決して簡単なことじゃないからね」
——現在の音楽活動を支えている、最大のモチベーションは何ですか?
T「“喜び”だね。僕にとって、音楽をつくる喜びに勝るものはない。音楽を仕事にしている人の多くは、困難に直面すると、それに心が支配されてしまい、楽しむことを忘れてしまったりする。だからこそ、様々な困難を乗り越えたときに感じる気持ちは、本当に最高さ。僕らは、全ての歯車がかみ合って、そこから音楽が誕生する瞬間をいつも探しているんだよ。ゼロから音楽をつくることは、まるで魔法のようだ。この世で最高の仕事さ」
interview & text FUMINORI TANIUE
interpretation YURIKO BANNO
translation KYOKO MAEZONO
ptoho KENJI KUBO


