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2011年07月08日

SPECIAL

The Chemical Brothers『HANNA』特集

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'92年にデビューして以来、本国イギリスはもちろん、世界を代表するエレクトロニック・ミュージック・アーティストとして活躍してきたケミカル・ブラザーズ。彼らが、昨年発表した通算7作目のオリジナル・アルバム『時空の彼方へ』に続き、キャリア初となるサウンドトラック作品『ハンナ』を7月13日にリリースします。8月27日に全国公開されるジョー・ライト監督最新作『ハンナ』(主演:シアーシャ・ローナン)のために書き下ろした音楽をまとめた、オリジナル作品です。

ここでは、そんなケミカル・ブラザーズ初のサウンドトラック、『ハンナ』の内容についてご紹介しましょう。なお、彼らは今年のフジロック最終日7月31日に、グリーン・ステージにてヘッドライナー出演することが決定しています。


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THE CHEMICAL BROTHERS

大胆かつ繊細なサウンドスケープが詰まった、
スーパー・エレクトロ・ミュージック・デュオの映画音楽


昨年、ヒット・シングル「Swoon」を収録した通算7作目のオリジナル・アルバム『時空の彼方へ』(原題:further)をリリースし、音楽と映像が一体となったファンタスティックなサウンドスケープを披露したケミカル・ブラザーズ。アーティストとしてさらに一歩高みに登った彼ら、トム・ローランズとエド・シモンスが次に着手したのは、なんと映画のサウンドトラックを制作することだった。その映画とは、『プライドと偏見』('05)、『つぐない』('07)といった人気作品を送り出してきたイギリス人監督、ジョー・ライトが手がけた最新サスペンス・アクション『ハンナ』。『つぐない』でオスカー候補となり、一躍人気女優の仲間入りを果たした天才少女、シアーシャ・ローナンと再びコンビを組んで送り出す、話題作だ。

映画のストーリーは、元CIA工作員の父とフィンランドの山奥で人知れず暮らし、並外れた格闘テクニックを叩き込まれた主人公、ハンナの心の旅を描いた、フィンランド、モロッコ、スペイン、ベルリンを股にかけた壮絶な逃亡~復讐劇なのだが、そのサウンドトラックをケミカル・ブラザーズが担当することになったのは、ジョー・ライト監督自身のアイディアで、撮影が実際にスタートする前の段階で依頼があったという。そして彼らは、撮影が始まる前に、既に曲を書き始めていたそうだ。どのような流れで、このサウンドトラックの制作は始まったのだろうか? トム・ローランズは、The Wall Street Journal “Speakeasy”の取材で、次のように答えている。

「ジョー・ライトが台本を送ってくれて、ドイツのストリップ・クラブのシーンについての詳細と、そのシーンを演出するために彼がどんな音楽を必要としているのかということについて、教えてくれたんだ。聞いてよかったよ。だから、その前に俺たちが思いついていた口笛のモチーフは、映画の別の部分で使うことにした。ジョーは、この童話のお伽噺のようなシナリオの背景がクラブだってことを説明してくれた。彼は、この空想の世界の背景に、純真無垢なテーマを組み合わせたかったんだ」

また、トムは次のようにも語っている。

「ジョーは、俺たちにとてもクリアなアイディアを提示してきた。彼は、彼のアクション・スリラー映画に、他の映画と同じ(音楽的な)言語を持たせたくなかったし、緊張の瞬間があることを表現するのに、震えるようなストリングスを使いたくもなかったんだ。彼はむしろ、そういったものとつながるために、壊れたシンセサイザーが混ざり合ってできたようなサウンドを使いたかったんだよ」(Speakeasy)

こうして始まった『ハンナ』のサウンドトラック制作は、20年近くのキャリアを誇る彼らでも、新たな発見の連続だったという。例えば、通常のアルバム制作の場合、彼らは何者からも制限を受けずに、ただただ自分達がやりたいサウンド、彼らが“圧倒するようなフィーリング”と語る、あの刺激的なエレクトロニック・ダンス・サウンドをつくり出していくだけだ。しかし今回の場合は、あくまでもプロジェクトの指揮権は、ジョー・ライトにあった。ところが、その曲づくりに制約があるという条件こそが、彼らにかつてない刺激を与え、特定のモチーフを音楽の中に取り込むというアイディア自体に、一番やりがいを感じたという。

「普段の俺たちは、ただサウンドを色々試して、お互いを驚かせて興奮させようとしてるだけなんだ。でも今回は、一つ一つのシーンのために、特殊なサウンドとアイディアを打ち出さなければならなかった。いつもならスタジオに座っているだけだけど、その自由さが裏目にでることもしばしばでね。でも今回、いざ骨組みとプロジェクトの制限を抱えて作業してみると、かなりの解放感があったんだ。何でも選べるっていう方が、逆に人を無力にすることもあるんだね」(Speakeasy)

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そして、彼らはスタジオにスクリーンを設置し、映し出された映像に向かってシンセを演奏するという、従来とは全く異なる制作方法で『ハンナ』のサウンドトラックを完成させた。そして、そのサウンドトラックを一枚のアルバム作品としてさらにまとめ直したものが、ケミカル・ブラザーズの新作として送り出されるCD『ハンナ』だ。

『時空の彼方へ』に続く作品としては、ある意味完璧な流れだといえる本作。その内容は、そもそも彼らに一般的なサウンドトラックをつくらせるつもりなどなかった、ジョー・ライト監督のケミカル・ブラザーズに対する理解(ジョー・ライトとケミカル・ブラザーズの二人は、同世代のイギリス人同士だ)と、彼の意図を的確にサウンドで表現したケミカル・ブラザーズの音楽的センスが結実した、アルバム作品として純粋に楽しめるものとなっている。トムが“純真無垢”と語るサウンドは、「Hanna's theme (vocal version)」や「the devil is in the details」「the devil is in the beats」で見事に表現され、本作のハイライトと言えるであろう、彼ららしいエレクトロニック・ダンス・サウンドを打ち出した「scape 700」「car chase (arp worship)」「container park」などは、『ハンナ』を離れ、ケミカル・ブラザーズのニュー・シングルとして発表されても全く違和感のないトラックに仕上がっている。もちろん、そこには従来の彼らの音楽にはなかったアイディアが反映されているので、聴く者にかなり新鮮な印象を与えるだろうが。

ケミカル・ブラザーズの新たな魅力と、彼らのトレードマークである、あのオリジナルな音世界を同時に楽しめる『ハンナ』。本作は、彼らの、エレクトロニック・ミュージック・アーティストとしての揺るぎない才能を再確認できる会心作だ。

最後に、本作のポイントについて語った、トムの言葉を再度聞いてみよう。

「俺たちのアルバムは、いろんな方向に動きを変えるんだ。聴き始めて1分の部分では黙示録的なサウンドだったのに、夜中の3時にはアシッド・メルトダウンの音楽になる。で、それが美しい田園的な、メロディックな音楽へと変化していく。少なくとも俺たちの頭の中では、いつもそんな感じさ。個人的には、『ハンナ』の中にある柔らかな時間が大好きでね。あれができたのは楽しかったよ。ジョーは常に“もっと”、“更にもっと”を要求してきたけどね。おそらく、彼はどこかのクラブで俺たちのプレイを聴いた経験を、再現しようとしてたんじゃないかな。クレイジーになっている5000人の人々と一緒に120デシベルの音楽を聴いている時の、あのフィーリングを作品に持たせたかったんだと思うよ」(Speakeasy)


text Loud Magazine
tanslation Miho Haraguchi
(Tom Rowlands interview by Speakeasy, blogs.wsj.com)
photo Yasuyuki Kasagi (The Chemical Brothers at Fuji Rock Festival '07)


【リリース情報】

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THE CHEMICAL BROTHERS
HANNA
(JPN) HOSTESS / HSE-60075
7月13日発売
HMVでチェック

tracklisting
01. Hanna's Theme
02. Escape 700
03. Chalice 1
04. The Devil is in the Details
05. Map Sounds / Chalice 2
06. The Forest
07. Quayside Synthesis
08. The Sandman
09. Marissa Flashback
10. Bahnhof Rumble
11. The Devil is in the Beats
12. Car Chase (Arp Worship)
13. Interrogation / Lonesome Subway / Grimm's House
14. Hanna vs Marissa
15. Sun Collapse
16. Special Ops
17. Escape Wavefold
18. Isolated Howl
19. Container Park
20. Hanna's Theme (Vocal Version)

【オフィシャルサイト】
http://www.thechemicalbrothers.com/
http://hostess.co.jp/news/2011/06/000559.html


【映画『ハンナ』】
8月27日(土)新宿ピカデリーほか全国公開
監督:ジョー・ライト
出演:シアーシャ・ローナン、ケイト・ブランシェット、エリック・バナ、トム・ホランダー、
オリビア・ウィリアムズ、ジェイソン・フレミング
音楽:ケミカル・ブラザーズ
上映時間:1時間51分
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
http://www.hanna-movie.jp/