AUTECHRE インタビュー/LOUD125号
AUTECHRE
Untilted
(JPN) BEAT / BRC-122
何ひとつ変わらない、でも新しいオウテカ・サウンド
この作品を聴いた後に楽観的でハッピーな気分になってもらえればいいと思う。
前号のインタビューで、テイ・トウワがこんなことを話していた。「スキルで言ったらオウテカは凄い」。端から見るとあまり接点のなさそうな彼が、ちょっと唐突にオウテカを賞賛していたのは興味深かった。ショーン・ブースとロブ・ブラウン、二人の熟練したサウンド・デザインの腕前は、ジャンルも国境も超え、ありとあらゆるミュージシャンを魅了してやまないのだ。 そんなオウテカが、前作『Draft 7.30』以来2年ぶり、8枚目となるニュー・アルバムを発表した。およそ15年のキャリアを誇り、WARPのヒストリーそのものを支えてきたと言っても過言ではない彼らのこと、今作もその期待を裏切らない内容だ。変則的なアブストラクト・ビートに、アトモスフェリックなノイズ、そして螺旋を描くような牧歌的メロディ......。何ひとつ変わらない、でも新しい。オウテカの音楽はいつもそんな感じだ。6月には何と7年ぶりとなる来日も控える彼ら。インタビューにはショーン・ブースが答えてくれた。
―約2年ぶりの新作となりますが、いつ頃フィニッシュしたんですか?
「昨年の1~2月頃から曲を書き始めて、レコーディングを終えたのが9月か10月頃だったかな。いい作品ができ上がって嬉しいよ」
―前作『Draft 7.30』リリースの際、“コンセプトを考えてアルバムをつくると、それに縛られてしまうから、コンセプトはつくらないようにしている”とあなたは話していました。今作も同様に、ノー・コンセプト・アルバムですか?
「うん、今回もコンセプトはないよ。ロブのところはベビーが誕生したばかりだから、今回は集中して短期間で制作したんだ」
―今回、新たに取り入れた手法やアイデアはありますか?
「長いこと使用していなかったドラム・マシーンを使ったな。うーん、でも基本的には、新しい手法やアイデアは取り入れてない」
―タイトル『Untilted』の意味を教えてください。
「もともとこの作品は、『Untitled』(=タイトル未定)って呼んでいたんだ。でもある時“t”と“l”の文字を入れ替えてみたら、“強力”とか“頑丈な”って意味になって、それが面白いと思った」
―前作からシェフィールドを離れ、田舎町で暮らしているそうですね。
「うん、'99年末に引っ越したんだ。シェフィールドから南下して、ロンドンから車で1時間くらいの場所。サフォーク州イプスウィッチ近郊にある、小さな村に住んでいるんだ。前回は自宅の目の前にあるスタジオで作業をしていたけど、今回は自宅スタジオでレコーディングした。そのほうが、空いた時間で機材を他の部屋に移動して作業ができるから、心理的に全然違うんだ。ほら、自宅だと、突然何かいいアイディアを思いついた時に便利じゃない。だから、仕事と余暇の境界線がますます曖昧になったね。田舎だから、近所から文句を言われないのもいい(笑)。ちなみにロブは、ロンドンにある狭いフラットで彼女と住んでるから、制作中は週に3~4日、僕の自宅スタジオまで通ってくるんだ」
―工業都市シェフィールドと、自然にあふれた小さな村の環境、この違いはあなたたちの音楽にどんな影響を与えましたか?
「シェフィールドは失業率が高くて治安も悪いし、僕が育ったマンチェスターの北東にあるミドルトンという町に似ているんだ。シェフィールドから越してきたばかりの頃は、雑誌や巨大なポスター広告とはあまりにも無縁なこの村にギャップを感じていたけど、逆に不必要な情報が入ってこないおかげで自分の内面から次々とアイディアが生まれてきた。音楽制作に集中できる環境だね。時間も有効的に使える」
―でも、都市生活と比べて刺激には乏しいわけですよね。退屈はしませんか?
「いや、ごちゃごちゃしたロンドンは嫌いだから、むしろ良かったよ。クラブやパブに行くのは好きじゃないし、田舎に住んでいても刺激は受ける。ロンドンは物価も高いし、うわべだけの薄っぺらい奴らが多いように感じるんだ。まあ、都会はどこもそんなものだろうけど。毎日の生活は、都市に住んでた時とほとんど変わらないよ。友人の家でパーティーをすることも多いし。ただ僕は車を運転できないから、誰かの車に乗せてもらう場合以外は長い距離を歩かなくちゃならないんだ(笑)。都会に比べてだだっ広い、っていう意味ではマンチェスターに似てるかもしれない。高い建物も少ないから、広々とした空を見ることもできるんだよ」
―特に3曲目「Pro Radii」に顕著ですが、あなたたちの音楽からは、ある種の不穏な緊張感を喚起させられることがあります。
「そうだね。不安感や緊張感に気づいてくれる人ってあまりいないんだけど、こういう感情って音楽には不可欠な要素だと思う」
―そこで表現されている不安感や緊張感はパーソナルなものですか? それとも政治的/社会的な不安感を反映しているのですか?
「日々の生活で感じたことからニュースまで、様々だね。メディアから入ってくる世界情勢に関するニュースは、不安を煽るような恐ろしい内容ばかりだって感じる。でも、恐ろしいからといって現実から目をそむけたら、無知な人間になってしまうよね」
―あなたたちとしては、音楽によってリスナーにどんな感情を喚起させようと考えていますか?
「うーん、人の感情って難しいものだけど、この作品を聴いた後に楽観的でハッピーな気分になってもらえればいいと思う。逆にリスナーがどう思ったか、僕も知りたいよ。最近はインターネットの発達で、意見のある人たちの発言できる機会が増えた。それは、すごくいいことだと思うね」
―特徴である変則的なビートは、どのようにして生まれるのでしょう。数学のような緻密な論理によって構成されているのですか? それとも直感に従っていますか?
「この変則ビートは、ごく自然に生まれたものだよ。数学のようにきちんと決まった通りにつくるのは面白くないって感じる。エレクトロが登場した時も、曲のカウントにきっちり合わせない、ユルくて不正確な曲がけっこうあって面白かったよね。いいDJも、オフ・ビートやディレイのうまい使い方を熟知していると思う。R&Bでもブランディの最新アルバムに、グルーヴを際立てた良い曲があったよ。もしかしたら無意識のうちに緻密な論理が存在するのかもしれないけど、それは自分でもわからないんだ。もしかしたら5年、10年後に距離を置いて見た時に発見できるかもしれない。でも今は作品ができ上がったばかりだから、作品に近すぎてちょっとわからない」
―このアルバムを聴く時に、最もふさわしい環境、状態はどんなものだと思いますか?
「家でもクラブでも......ぜひ大音量でかけて欲しい。どんなクレイジーなパーティーにも合うだろうし、電車やバスの中で聴くのもいいだろうね(笑)」
―ところで、15年あまりに渡ってこのシーンで活躍してきたあなたたちから見て、現在のエレクトロニック・ミュージック・シーンはどう映りますか?
「10年前は、エレクトロニック・ミュージックを購入する時にはダンス系、もしくはインディー系のレコード・ショップへ行けば良かったけど、オンライン・ショップができたあたりから、似たような音のつまらない作品が多くなったと感じる。ラップトップを駆使した音楽が増えたけど、大半は間違った使い方をしているんだろうな。たまに面白い曲を耳にした時は、“これ、何?”って思わず聞くこともあるけど」
―最近、面白い曲はありました?
「うーん、今はクラブにも行かないし、前ほどエレクトロニック・ミュージックをチェックしていないから、最近のものはよくわからない。他のアーティストの作品を聴くより、自分たちの楽曲を制作するほうが楽しいしね。このところ、昔のヒップホップものの12インチを集めてるけど」
―では、WARPの変遷についてはどう感じていますか? ここ数年、!!!、ビーンズ、マキシモ・パークらを始め、ジャンルレス化が著しいわけですが、それはあなたからから見て良い傾向でしょうか。それともエレクトロニック・ミュージックの危機を感じますか?
「シェフィールドにあるスティーヴ・ベケット(編注:WARPのオーナー)のフラットに、初めて遊びに行った時のことは今でも覚えてるよ。マット・ジョンソンの'80年代初頭の作品「Burning Blue Soul」を聴いて、その時僕らは通じ合ったんだ。オウテカがWARPから作品を発表し始めた頃は、エイフェックス・ツインやナイトメアズ・オン・ワックスくらいしかいなかったけど、すでにその時点で音楽性の全く異なるアーティストばかりだったよ。以前ブロードキャストってバンドと契約するかどうか、話し合いの場があった時には、“ワープっぽくないから”っていう意見も出たけど、大体レコード会社の名前で作品を買うものでもないし、別に“クールでスタイリッシュな”イメージに捕われたレーベルじゃないから(笑)、僕は“契約してみたら? 面白いと思うけど”って言ったんだ。危機は感じていないよ。逆に似たような音楽をつくるアーティストが増えると、エレクトロニック・ミュージックのシーン自体が停滞するよね」
―最後に今後の予定について教えてください。
「4月中旬からUKツアーが始まって、その後ヨーロッパ、アメリカと続き、6月に日本へ行くんだ! 7年ぶりの来日公演と聞いたけど、自分でも驚いたよ(笑)。ずいぶんと間が空いちゃって申し訳ない。刺激的で肉体的、そして推進的なライヴにしようと考えてるから、みんなが踊ってくれることを願ってるよ!」
interview & text AKIHO ISHII
translation KEIKO YUYAMA


