PAUL VAN DYK インタビュー/LOUD134号
エレクトロニック・ミュージックをプレイする“世界一のDJ”
LOUDでは毎年“DJ50/50”というタイトルで、DJの人気投票を行っているが、そのモデルになったものがある。UKの“DJ”誌が'97年から行っている“TOP 100 DJS”だ。これは“DJ”の読者、クラバーの投票のみで決定されるもので、現場での人気を反映するものとしてクラブ業界ではリファレンスとなっている。たかが人気投票とあなどることなかれ、ナマナマしい話、この結果は翌年のブッキング状況やギャラに大きく影響してくるのだ。
ティエストは'02年から'04年まで1位の座に輝いているが、オリンピックのDJに指名された背景には、間違いなくこの結果があったはずだ。そういう意味で、“TOP 100 DJS”は、現在世界で最も権威あるDJランキングなのだ。
'05年、その“TOP 100 DJS”の最新ランキングで、ついに3年連続1位のティエストを抜き去り、No.1を獲得したのがポール・ヴァン・ダイクだ。'91年、今や伝説のクラブ“TRESOR”でDJ活動を開始した彼は、クリエイターとしても有名で、これまでに『45RPM』、『Seven Ways』、『Out There & Back』、『Reflections』と4枚のオリジナル・アルバムを発表している。
このうち『Reflections』は、'04年にグラミ-賞の“ベスト・エレクトロニック/ダンス・アルバム”を獲得、彼の名前を世界的に知らしめることとなった。名曲「For An Angel」や電気グルーヴ「虹」のリミックスは日本のクラブ・シーンでも大ヒットしたので、知っている人も多いことだろう。
そんな彼が、4年ぶりのミックスCD『The Politics of Dancing 2』をリリースした。本人名義の最新シングル「The Other Side」を含む2枚組全32曲からは、ヨーロピアン・エレクトロニック・ミュージックの真髄が存分に伝わってくる。 '05年暮れ、リリース・ツアーで来日していたポールに話を聞いてみた。
―“TOP 100 DJS 2005”では、あのティエストを抑えて、ついに1位となりましたね。おめでとうございます。ナンバーワンの称号を得た今の気持ちを教えてください。
「ありがとう。1位になれたことは誇りに思うし、サポートしてくれるファンや、パーティーに来てくれるみんなには、本当に感謝しているよ。でも、いつも100パーセントでやっているから、自分のランキング・ポジションが変わっても、何か特別に変わったことはないな」
―あなたがDJする上で、もっとも大切に考えていることは何ですか?
「自分の音楽性をはっきりさせること。それはもちろん重要だよね。あともう一つ大切にしていることがあるんだ。それは、クラウドとのコミュニケーション。フロアで楽しんでいるお客さんの気持ちを常に考えてDJしているんだ」
―先日の来日では、ラップトップでDJをしていましたね。現在は12インチでもCDでもなく、コンピュータでプレイしているんですか。
「CDJとラップトップ、共に2台ずつ使っているよ。1台のPCにはエイブルトン・ライヴ、もう一方にはスクラッチ・ライブを入れている。スクラッチ・ライブは、ファイナル・スクラッチやトラクターみたいなものなんだけど、それらよりも性能が良いんだ。CDJには、タイムコードが入っている空CDが入っていて、それでスクラッチ・ライブを操作している。それをさらにシーケンサーを担うエイブルトンに繋ぐ。そこでエディットしたものを、またミキサーに戻してDJしているんだ。場所によっては、MIDIインターフェイスつきのキーボードを持っていって弾くこともあるよ」
―それは絶対にサウンド・チェックが必要になりますね。サウンド・チェックは毎回しますか?
「うん、毎回する。よく知っているクラブだったら、そこまで神経質にはならないけど、それでも機材のセッティングは自ら出向いてやるよ」
―複雑なセットですが、トラブルにはなりませんか?
「クラウドには気づかれない程度の小さな問題が起きることもあるけど、大きなミスはないね。いずれにせよ、その場で自分が対応できる程度の小さな問題だね。三つ、四つの機材から同時に音が鳴っているわけだから、一つぐらい落ちてもなんとかなるんだよ。でも電源が落ちてしまったら、どうしようもないよね。“どうか上手くいきますように!”という、運頼みのような要素もあるんだ、実は(笑)」
―今作『The Politics Of Dancing 2』も、いま説明してくれたような普段のDJスタイルで録音したんですか?
「そうだね。普段のスタイルをさらにレベル・アップさせたデジタル録音だよ。使いたいトラックのパーツがバラバラだから、わかりやすくまとめ上げる必要があったんだ。例えば、トラック11に入っているドラムと、トラック5のボーカル、さらにトラック7のベースをくっつけて再構築したりもした。そうしてできた曲が、トラック3になっていたりするんだ」
―すさまじいですね...。だから、4年ぶりのリリースになったんですか?
「これだけ複雑な作業をやると、時間がかかるからね。実は僕はミックスCD嫌いなんだ。なぜかと言うと、パーティーの雰囲気までCDに収めるのは不可能だから。そういった意味で、DJ、リミキサー、ミュージシャン、そしてプロデューサーとしての自分をCDに表現しようと思ったのが今作なんだよ」
―DJのみならず、VANDITレーベルの運営、楽曲制作、RADIO FLITZでのDJと、様々な分野で活躍していますね。全てをうまくやっていくコツを教えてください。
「ベルリンのオフィスにいるスタッフが、とても優秀なんだ。レーベルの運営や、DJを含めたマネージメントなどのサポートを、非常に上手くやってくれている。ラジオは水曜日なんだけど、なるべく生放送しようと思っているんだ。先日も南米から帰ってきて、一度放送したんだ。その後、来週分を録音してから日本に来たんだよ。その前の2週間も、ちゃんと生放送したよ」
―どうしても生放送できない時は、録りだめしているんですね?
「よく“5回分ぐらい録音しているんでしょ?”って聞かれるんだけど、実際は最高でも2回分までしか録音しないよ。1週間ぐらいの南米ツアーがあったとしても、次のツアーに出る前には必ず家に戻るんだ。長期間家に帰れなくなるのが嫌だから、上手くユニットを組むよう心掛けているよ」
―UK、ヨーロッパはもちろん、US、南アメリカ、南アフリカと世界中を駆け回っていますね。今年最もエキサイトしたクラブや国はどこですか。
「さっきも言ったように、クラウドを意識することについて非常に重要視しているから、“ここのお客さんは前と比べてどうだった”とか、“どこの国のお客さんが良かった”とか、そういった比較はできないし、したくないんだ。例えば今日プレイするUNITも、数カ月前のageHaとは違ってくるだろう。それぞれの良さがあるから、なんとも言えないな。ただ、今年ベイルートでやったギグには特別な意義を感じたね。もともと土曜日に他の仕事が入っていた上でブッキングされていたんだけど、プレイする前日の金曜日に自爆テロがあったんだ。それでキャンセルするかどうかの話になった。でも、シリアから独立して、新しい民主主義が始まったばかりの国だから、あえて行くことにしたんだ。彼らの新しい民主主義をサポートしたかったんだよ。それで行ったら、ビーチに12000人も集まっていたんだ! ただでさえグッド・パーティーだったうえに、政治的なこともあったから、印象深いものになったね」
―『The Politics Of Dancing 2』はシリーズ2作目ですが、そのPolitics(政治)を含むタイトルが持つ意味を教えてください。
「シリーズとしてのタイトル自体は数年前につけたもので、当時はタイトルに“世界的なユース・カルチャー”という意味合いを込めていたんだ。様々な文化の元で育ち、異なるものを吸収して育った人達が、この音楽を通して一つになれたり、平和に楽しむことができるという意味で、ポリティカルと名づけたんだ。その後、9.11やイラク問題があったよね? 民主主義は非常に優れたものだと僕は信じているし、健全な民主主義というのは全員が参加するものであって、チャリティーや地域社会の活動に参加するのが、特に9.11やイラク問題後の今、より一層重要になってきた。そういった社会問題を背景に持つ考えが、今はアルバムに現れていると思う。DJとして、アーティストとして、自分が民主主義に貢献できることをやっているんだ。“The Politics Of Dancing ”とは、そういう意味だよ」
―1作目が出た4年前と現在では、どのようにシーンは変わったと思いますか?
「エレクトロニック・ミュージックは、常に進化しているんだ。どんどん境界線がなくなっていくのがエレクトロニック・ミュージックの醍醐味だよ。4年前との違いは、はっきりしている。ネットでのコミュニケーションが格段に進化した今、曲が出回るスピードが早くなった。誰かが曲をつくったら、2週間後には世界中でヒットしていることも起こり得るんだ。逆に、ヒットした曲が2、3週間で忘れられてしまうこともある」
―“境界線がなくなっていく”ということは、トランス・シーンを代表するあなたは、様々なコラボレーションや、他ジャンルにも興味を持っているということですか?
「みんなはトランスと呼んでいるけど、僕は自分の音楽をエレクトロニック・ミュージックと言っている。僕の心の中には、ブレイクビーツやテクノ、ハウスといった、様々な要素が混在しているんだ。あえて表現するなら、雰囲気があって、エネルギッシュなトランシー・テクノって感じかな(笑)」
―なるほど。ところで、今作にも収録された「Summerdream」はVANDITの音源ですが、契約は自分で曲を聴いて決めているんですか?
「もちろん!」
―今作にはVANDIT音源以外にも様々なアーティストの楽曲が収録されていますが、セレクトする時の基準は何かあったんですか?
「まず、自分が好きな曲しか入れないってこと。既にヒット・トラックとして有名な曲もあるし、これから注目を集めそうな曲もあるんだけど、どの曲もエレクトロニック・ミュージックがいかに素晴らしいものか体現しているものばかりだよ」
―今作は2枚組でのリリースとなりましたが、DISC1とDISC2の違いは、どのように考えていますか? 「う~ん...。DISC1は、ソフトな印象。DISC2は、より激しい感じかな?」
―では、DISC1にピークはないんですか?
「いや、もちろん途中からピークになるよ(笑)」
―クラブ・プレイで例えると、何時ぐらいを想定していますか?
「クラブでの盛り上がりは、毎回違うからね。わからないよ。今回コンパイルしたミックスCDは、現在における僕のDJスナップ・ショットみたいなものなんだ。いつも気にしていることは、斬新でクオリティーが高いものにすることだね」
―通常のDJプレイは2~3時間だと思うのですが、ロング・セットもやったりしますか?
「先日7時間のセットをNYでやったばかりだよ。ロング・セットも好きだね。ロング・セットでも、ネタがつきることはないんだ。DJはロング・セットの場合、長い時間の中で一つのジャーニーを考えると思うけど、僕は特に意識しないから。意識するのは、前後のDJと交代するための雰囲気づくりぐらいかな。とにかく、クラウドの様子を見てセットを考えるだけだよ!」
―ファンとしては最低でも一年に一作はミックスCDを出して欲しいと思ってます。第三弾のミックスCDはやはり4年後ですか?
「DJとしての旅も多いから、あまり時間も取れないし、年に1枚ミックスCDを出すのは物理的に無理なんだ。今は次のアーティスト・アルバムの曲づくりに入っているよ。それは上手くいけば来年リリースできると思う」
―現在はどれぐらいできているんですか?
「半分ぐらいかな。まだ多くは語れないんだけどね(笑)」
―そうですか、楽しみですね。ところで、ティエストはオリンピック開会式でDJをしましたが、今後もクラブやフェスティバル以外でDJができるとしたら、どんなイベントでプレイしてみたいですか。
「う~ん、ティエストがオリンピックでプレイしたことは、あまり良くないことだと思っているんだ。多くの人は、エレクトロニック・ミュージックというのはBGMだと思っている。彼は、その発想を決定づけてしまったから。彼個人のマーケティング的には大成功だろうけど、エレクトロニック・ミュージックに対する偏見を強くしてしまったんじゃないかな。僕にはDJだけでなく、アーティストとしての様々な挑戦が既にあるから、その点での特別な展望はないよ」
―最近、オーケストラと共演したと聞いたんですが
「既にある曲に、クラシックの要素が入り込めるような空間を沢山つくるリアレンジをして、共演したんだ。ただダンス・ミュージックをオーケストラに演奏してもらったわけではないよ。エレクトロニック・ミュージックとクラシックが融合した、実験的な音楽ができて非常に面白かったよ!」
―あなたはそこで、何をプレイしたんですか?
「5台のキーボードと、シーケンサーを入れて一緒に演奏したんだ」
―そのようなプロジェクトは、クラブではできないですし、クラブDJの枠を超えた活動ですね。
「そういうことだよ。僕はDJとしてでなく、ミュージシャンとして彼らとコラボレーションしたんだ。53人のアンサンブルと共演すると、インプロヴィゼーションはできない。そういう意味では、挑戦的なプロジェクトだったなぁ」
―最後に、あなたのような素晴らしいDJになるためのポイントをレクチャーしてください!
「自分に嘘をつかず、自分の信じる道を貫くこと。そして、音楽的に妥協せず、自分が心の底から好きだと言える音楽をかけることが大切だよ。大勢の前でプレイすることになったら、自信がないとできないでしょ? 自分が好きなことをやっていれば、自信は湧いてくるものなんだ。あとは、最新のテクノロジーを上手く使うこと。ダンス・ミュージックは最新のテクノロジーを取り入れるのが上手な音楽だからね」
PAUL VAN DYK
The Politics Of Dancing 2
(JPN) VICTOR / VICP-63296~97


