THE ORB インタビュー/LOUD153号
THE ORB
宇宙を一周し、再び巡ってきたチルアウトの季節
ジ・オーブの名で1989年に「A Huge Ever Growing Pulsating Brain That Rules From The Center Of The Ultraworld」でレコード・デビューを果たし、クラブ・シーン流儀のアンビエント・サウンドと、“チルアウト”という楽しみ方を提示した、アレックス・パターソン。'92年には、アルバム『U.F.Orb』で全英チャート1位という快挙を成し遂げた鬼才だ。近年はドイツ人のトーマス・フェルマンをパートナーに、独自の音楽性を追求。コンスタントにアルバムを発表してきた。
そんな彼が、デビュー当時の仲間で、現在はトップ・プロデューサーとして活躍しているユース(元キリング・ジョークのベーシスト)と再会し、最新作『ザ・ドリーム』をリリースする。ジュリエット・ロバーツやスティーヴ・ヒレッジといった客人を招き、ダブ、ヒップホップ、ハウス、アンビエント、エスニック・サウンドを融合させ、スペーシーな音世界を追求した話題作だ。
リスナーに、時代が一巡したかのようなトリップ感をもたらす『ザ・ドリーム』。本作が誕生した背景について、アレックス・パターソンから話を聞いた。
僕とユースがこの15年間で学んだことは、
実は15年以上前に自分達がやっていたことだったんだよ!(笑)
——今作『The Dream』は、旧友ユースとの関係復活作品として話題となっていますね。再びアルバム制作を行うことになったきっかけは、何だったのでしょう?
「お互いの家が2キロくらいしか離れていないのに、忙しかったから、僕とユースは、この8年間くらい話す機会がなかったんだ。でも'05年頃に“そろそろまた一緒にやろうか?”という話になって、再び交流を深めることになった。ユースはここにきて、これまでとはちょっと違った積極的な行動を取りたくなったのかもね」
——彼とのコラボレーションはいかがでしたか?
「アルバムの仕上がりには非常に満足しているよ。トーマス・フェルマンと共につくり上げてきたKOMPAKT色は失われたかもしれないけど、逆に言えば、彼とのドイツ的サウンドは、イギリス人リスナーに疎外感を感じさせてしまっていたかもしれない。ジ・オーブの音楽的哲学はもともと“チルアウト”だったから、ドイツ的なビートを足したことで、イギリスらしさが弱まっていたと思うんだ。日本のリスナーは、“禅の国”だけあって“チルアウト”を理解できると思うけど、ドイツ社会には禅らしさって一切ないんだよ。で、僕はドイツ人じゃないし、今回は久々にイギリス人らしい作品を手がけたいと思ったんだ」
——どうしてイギリス人らしさに関心が向くようになったんですか?
「俺も中年のオヤジになった今、自分の中にイギリス文化が染み付いているということを再認識するようになって、これまでとは違う実験的なことを試したくなったのさ。今作はデビュー当時のイギリス的な音に近くなっていると思うけど、ジ・オーブが結成当時から大切にしているのは、“常に新たな音に挑戦すること”なんだ」
——ユースは、何を与えてくれましたか?
「今回、ユースの瞳には20歳の頃のような輝きがあったし、二人とも心から楽しんで音楽制作に取り掛かったよ。彼が今作で僕に与えてくれたものは、経験と知恵、素晴らしいベース演奏、そして友情だな。このアルバムを通して、僕らの音楽への愛を感じてもらえると思う。新作は、オーディエンス側もハッピーになれるアルバムさ」
——実際の制作作業は、どのようなものだったんですか?
「ユースとの作業には、かなりの制作期間を要したね。というのも、今や二人とも父親業があるからさ(笑)。朝10時にスタジオ入りして15時頃には終える、という規則的な日々だった。ちなみに、この作品ではサブソナーのティム・ブラン(元ドレッドゾーン)とも久しぶりに仕事をしたよ。キーボードを担当してくれたんだけど、彼が参加してくれたことは大きかった。ティムや俺のアイディアにユースのベースを乗せていったから、生演奏が鍵となったね」
——では、本作に“The Dream”というタイトルを付けた理由を教えてください。
「僕は昔から宇宙に魅了されてきたんだ。アメリカ航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士が初めて月に着陸する以前の1959年に、旧ソ連はルーニク1号という世界初の無人月面ロケットを月へ打ち上げた。ところが、ルーニク1号は月への着陸に失敗して、宇宙を浮遊する結果となってしまった。そして、ロシア人はそのロケットを“The Dream(夢)”として記録した。このルーニク1号にこめられた、“いつの日か未知の世界を見せてくれることへの期待”に共鳴して、このタイトルをつけたんだ」
——先ほど“今作はデビュー当時のイギリス的な音に近い”と言っていましたが、実際にデビュー・アルバム『Adventures Beyond The Ultraworld』('91)を聴き返したりもしたそうですね。どんなことを感じましたか?
「今聴いても、恋人とチルアウトするBGMとして最高のアルバムだと思ったよ(笑)。あのアルバムでは、僕はヒットなんて全く狙っていなかったし、自分がやりたい音楽を純粋に表現しただけだった。そうやって、僕らは“アンビエント・ハウス”と呼ばれるサウンドを偶然生みだしたんだ。当時こういった音楽を制作していた人達は他にいなかったよね」
——そうですね。本当に斬新でした。
「だから、そんな過去の経験を生かしながら、ジ・オーブらしい “革新的で新しい音楽”をまた制作してみたかったんだ。リスナーのジ・オーブに対する先入観を変えて、過去のアーティストではないってことを証明したかったのさ。まあ、僕とユースがこの15年間で学んだことは、実は15年以上前に自分達がやっていたことだったんだよ!(笑)」
——時が一巡したんですね(笑)。ところで、ライヴ活動を始めましたが、いかがですか?
「メンバーは、ユース、ティム、俺、ヴォーカリスト兼MCのコープラルだ。コープラルは、数年前に地元のバスケット・コートで出会ったバスケ仲間なんだ。“どんな仕事してるの?”ってある日彼に聞いたら“ラッパーさ”って言うから、同行してもらうことになった。あとは、新ドラマーのデイヴィッドが加わる。ライヴでは、CDの内容とはまた違うエクスペリメンタルな音を出しているよ。その場で生まれる直感的なものを大切にしているんだ。日本にも行きたいね」
——では、今後の活動予定を教えてください。
「これからトーマス・フェルマンと共に、『皇帝ペンギン』のチームが手がける『PLASTIC PLANET』という映画のサントラを制作する予定だ。あと、『ART OF CHILL 4』というコンピが発売されるし、『U.F.Orb』のデラックス盤リリースも控えている。ま、今年はトップ・オブ・ザ・ポップスへの出演を果たしていないし、全英チャート1位にもなっていないけど、僕なりに忙しくしているってことさ(笑)」
interview & text FUMINORI TANIUE
translation KEIKO YUYAMA
THE ORB
The Dream
(JPN) TRAFFIC / TRCP 14


